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アルツハイマー型認知症やALS…“治らない病”に有望な治療法が

日刊SPA!

アルツハイマー型認知症やALS…“治らない病”に有望な治療法が

 これだけ医学が発達しても、有効な治療法がない病は多い。アルツハイマー型認知症や、徐々に全身が動かなくなるALS(筋萎縮性側索硬化症)もその例だ。そんな中、注目されているのが幹細胞による再生医療である。

再生医療の第一人者で『驚異の再生医療』などの著書がある名古屋大学名誉教授・上田実氏は、「培養上清」という技術を使って、これら難治性疾患の治療に挑んでいる。培養上清とは、幹細胞を培養したときにできる培養液の上澄みのことだ。

前編では、培養上清治療によってALS患者の症状が改善した、世界初の研究について上田氏に話してもらった。実は、ALSだけでなく、さまざまな難治性の疾患に対しても、培養上清が有望な治療法となり得るという。

◆アルツハイマー型認知症にも治療の手ごたえ

「私たちの研究クループは、有効な治療法がないアルツハイマー型認知症、死亡するリスクの高い劇症肝炎や心筋梗塞などの重篤な病気に対しても、臨床治療を行って、良好な結果を得ています。
また、脳梗塞の後遺症や関節リウマチ、アトピー性皮膚炎など、現状では決定的な治療法に乏しい病気に対しても培養上清治療が有効であることを証明してきました」
と上田氏はさまざまな病気に対する培養上清による治療に手ごたえを感じているという。

培養上清には、幹細胞から培養液にしみ出したサイトカインや成長因子などのタンパク、遺伝子の断片であるエクソソームなど、再生を促進する生理活性物質というものが豊富に含まれている。そのため、ALSのような難病の症状を改善する機能やメカニズムを説明することは簡単ではないが、次の4つの働きが傷ついたり機能を失ったりした組織や臓器を再生していると考えられる。

①壊れてしまった組織や臓器は強い炎症を起こしているが、培養上清にはその炎症を抑える機能がある。

②炎症を抑えて、傷ついた細胞を保護する機能がある。

③壊れたり傷ついたりした組織や臓器に存在する幹細胞に本来備わっている機能を呼び覚ましたり、周りに存在する幹細胞を患部に集めて増殖させる機能によって、それらの幹細胞が健全な細胞をつくり出す。

④新たな血管をつくる機能によって、再生した組織や臓器が機能するために必要不可欠な酸素や栄養素を供給する。

◆野放し状態のステム・セル・フリー治療

2014年11月に施行された「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」(再生医療新法と略す)によって、これまで医師の裁量で自由に行われていた幹細胞治療に一定の規制が加えられるようになった。

具体的には再生医療を提供する医療機関にはリスクに応じた届け出と審査が義務付けられ、培養する細胞加工施設については設備基準がもうけられたのだ。しかし再生医療新法が施行されて8年がたち、「十分なエビデンスのない幹細胞治療がいまだあとをたたない」「再生医療等委員会のレベルに大きなばらつきがある」という問題が浮上しつつある。

こうしたなか日本再生医療学会は、培養上清などを使用するステム・セル・フリー治療(幹細胞自体を使わない治療)は再生医療新法の適応外であることを表明した。
つまりステム・セル・フリー治療では、医療機関に課される手続きは必要なく、培養上清などをつくる外部委託業者に対する規制もないと解釈できる。ステム・セル・フリー治療は事実上野放し状態にあるといえるだろう。

一方、アメリカではFDA(アメリカ食品医薬品局、日本の厚労省にあたる)が米ネブラスカで培養上清(エクソソームを含む)を投与された5名の患者に敗血症が発生したことを契機に安全性にたいして警鐘をならしている。日本においても、ステム・セル・フリー治療に対し、何らかの規制をもうけるべき時期に来たといえるだろう。
 
◆費用対効果という大問題

さまざまな難病に対して効果が期待できるステム・セル・フリー治療。しかし私たちがその名を聞くことはほとんどない。なぜこの治療法が広まらないのだろうか。

「科学の世界では新しい治療技術の研究開発をするときに、将来それにかかる医療費のことを考えながら研究をすすめるのは邪道だとされてきました。でも、そうでしょうか?

医療費があまりに膨大になってしまうと、病気が治っても、やがて国の財政が破綻してしまうこともあり得るのです。要は、費用対効果、つまりある特定の医療技術を実施して得られる効果とそれに支払われる費用のバランスをとることが大事なのです。幹細胞治療が広く普及しなかった理由のひとつには、効果のわりに費用がかかりすぎる、ということあったといわれています。

でもALSの治療法の開発においてはこの問題は免除されるでしょう。ALSには採算性を度外視した迅速な対策が求められるのです。
 われわれは今回の臨床研究を通じて培養上清治療がALSの症状改善に一定の効果があることを立証しました。これからなすべきことはできるだけ多くのALS患者さんにステム・セル・フリー培養上清治療を適応できる仕組みをつくることです」(上田氏、以下同)

◆患者は10年も待っていられない

上田氏は、ALSにステム・セル・フリー治療を適用するための方法は3つあるという。

①上田氏の行っている臨床研究よりも大規模な臨床治験を実施し、有効性、安全性、有効投与量を決めて、承認薬として保険適用すること。

「これによって多くのALS患者さんが妥当な費用で治療がうけられるようになります。ただ臨床治験には多大な時間と膨大な費用がかかるのが問題です」

②通常の薬剤の承認制度ではなく、緊急性が高く、他に代替薬のない、希少な疾患に対する承認制度を活用して、特例として培養上清を承認する。

「これには国の理解と企業の協力が不可欠です。①と②は国と企業(製薬企業)の理解さえ得られれば実現は可能です。
問題は時間です。普通、新規薬剤の承認には10年ちかい時間が必要といわれています。現実問題として、いまいるALS患者さんにはその時間の余裕がありません。
一刻も早く治療を始めなくてはならないのです」

◆アイスバケット運動も意味があった

「私たちの臨床研究は、細胞加工施設、研究者、臨床医の協力が結集して実施にこぎつけました。しかしこの方法はあくまで個人レベルのチャリティ精神が基礎になっているので限界があります。
そこで3番目の案として、より広範な社会的支援、たとえばかつてのアイスバケット運動*のような募金活動を再起動するのも一つの方法かもしれません。
ALS患者の心の叫びが届くことを願っています」

*アイスバスケット運動…参加者が氷水を頭からかぶり、撮影した動画を公開していく募金運動。オバマ大統領やビル・ゲイツなど有名人が参加し閲覧した人による寄付があつまった。

<上田実 文/宍戸幸夫>

【上田実】
医学博士。専門分野は再生医療・顎顔面外科。
1949年生まれ。1982年名古屋大学医学部大学院卒業後、名古屋大学医学部口腔外科学教室入局。同教室講師、助教授を歴任し、1990年よりスウェーデン・イエテボリ大学とスイス・チューリッヒ大学に留学。1994年名古屋大学医学部教授就任、2003年から2008年、東京大学医科学研究所客員教授併任。2011年よりノルウェー・ベルゲン大学客員教授。2015年名古屋大学医学部名誉教授就任。日本再生医療学会顧問、日本炎症再生医学会名誉会員として再生医療の研究と臨床の指導にあたる。株式会社再生医学研究所代表。近著に『改訂版・驚異の再生医療』

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