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演出家ケイティ・ミッチェルに聞く~ドビュッシーのオペラ『ペレアスとメリザンド』(新国立劇場)を演出

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エクサンプロヴァンス音楽祭公演より ©Patrick Berger/ArtComPress


――以上のヴィジョンや問題意識と、演出との関係をお伺いします。たとえば、『ペレアスとメリザンド』にはメリザンドの髪にフィーチャーされる描写が見られます。ゴローもペレアスもメリザンドの髪に惹かれます。けれどもミッチェルさんの演出では元のテクストにはなかった、一風変わった髪の触れ方がされていました。

女性の髪がポルノフラフィックな手つきで扱われることは問題だと思っていました。オペラでも例外ではありません。女性の髪をフェティッシュに描くのではなく、メリザンドの夢としてのシュールさを表現するためのものとして位置づけました。

エクサンプロヴァンス音楽祭公演より ©Patrick Berger/ArtComPress


――なるほど。もうひとつ、今回の『ペレアスとメリザンド』では無音の時間も印象的でした。

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無音とは、序盤の場面のことでしょうか?

――序盤だけでなく数回、沈黙の時間があったと記憶しています。音楽も歌も流れていないのに雄弁に何かが語られているようで、とても大胆な演出だと感じました。

そうですね、幕開け直後にある長い無音の場面以外は、実はメカニカルな問題でやむを得ず生じてしまったものです。夢という設定を持続的に表現するためには、場面転換を非現実的に見せる必要があったのですが、そのためにどうしても音楽を止めて沈黙の時間を作らなければならなかったのです。とはいえ、必要に応じて生じたものがシュールな空気を生み出すために有益に働いていたのだと気づくことができました。

他方で、最初の長い沈黙はコンセプトに基づいた意図的なものです。まず、無音の時間の中で現実に生きている女性の姿をまず見せたかった。その女性が眠り、夢が始まり、音楽が始まるという導入にしたかったのです。なので、あの無音の長さは意図したものです。

とはいえ、2016年にエクサンプロヴァンス音楽祭で上演した時は、冒頭の沈黙が長すぎるのではとなり、カットしなければなりませんでした。今回の日本での上演は、オリジナルプランの長さで上演します。リバイバル演出補のジル・リコが、日本の出演者達ならばできると伝えてくれたからです。私は環境への配慮から飛行機を使わないため今回日本へは行けないのですが、ジルは初演で一緒に作ってきたので、プロダクションの詳細を全てわかっていますし、緊密に連絡を取り合っています。そのジルが、日本のパフォーマーは素晴らしいからオリジナルのオープニングが出来ると言ってくれました。できなかったことができるようになる、というのは再演の醍醐味ですね。演出家として、日本の『ペレアスとメリザンド』をとても楽しみにしています。

新国立劇場でのリハーサル風景  (撮影:堀田力丸)


――日本ではジェンダー平等は遠く、不条理な性役割も性規範も根強くあります。『ペレアスとメリザンド』が上演されることで、どのような反響を期待しますか。

日本のお客様に伝えたいのは、ある性からある性に向けられたファンタジーを見るのとは異なる体験になれば、ということです。オペラ劇場で平等な体験ができるのはとても大切です。特に女性のお客様には、男性の視線にさらされる中にあっても自分を解放し自由にすることができるんだと感じてもらえれば、その後押しができればと思います。このプロダクションは、メリザンドの夢として物語が展開します。その夢の中で、彼女は野生的な時間を過ごします。女性は能動性を発揮し、主体的に生きていく能力を持っていることを『ペレアスとメリザンド』を通して描きたいと思っています。観客の中に若い女性がいて、このプロダクションから「よし、私も社会に、オペラに、革命的なことをするぞ、変化を起こすぞ」と思い立ってくれる人がいればと願っています。私自身、そうでしたから。

新国立劇場でのリハーサル風景  (撮影:堀田力丸)


――今回の日本上演と、前回の2018年ワルシャワ上演との間で、世界情勢は大きく変化しました。『ペレアスとメリザンド』の意義はどのように変わったかと思いますか。

確かに、世界中でたくさんの変化がありました。パンデミックに、Black Lives Matter運動に、戦争。ジェンダー・ポリティクスでいえば、パンデミックを通じて女性の権利は後退したと思います。この2、3年間でいわゆる伝統的な性役割に女性が引き戻されてしまっているように感じるのです。だからこそこの作品は、社会的にも政治的にも重要性を持つ作品になっています。以前よりも、権利や平等を求めて更に働きかけなければならない時代に入ったと思います。『ペレアスとメリザンド』の上演には、今までにない切実さが伴っています。

新国立劇場でのリハーサル風景  (撮影:堀田力丸)


文=辻佐保子  通訳=時田曜子

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