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【あの頃のロマンポルノ】女優・中川梨絵「随想 わたしと三人の神秘の人」

キネマ旬報WEB

 日活ロマンポルノは生誕50年をむかえました。それを記念して、「キネマ旬報」に過去掲載された記事の中から、ロマンポルノの魅力を様々な角度から掘り下げていく特別企画「あの頃のロマンポルノ」。キネマ旬報WEBとロマンポルノ公式サイトにて同時連載していきます。(これまでの掲載記事はコチラから)

 今回は、女優・中川梨絵による「随想 わたしと三人の神秘の人」の記事を、「キネマ旬報」 1973年8月上旬号より転載いたします。

 1919年に創刊され100年以上の歴史を持つ「キネマ旬報」の過去の記事を読める貴重なこの機会をお見逃しなく!

随想 わたしと三人の神秘の人

 私はひとりごとを言う砂漠です。

 生きるっておそろしいことです。死ぬのはこわいことです。今のままの若さで無限に生きたら、こわいことが一つ減ります。代りに、おそろしいことが、気が遠くなって涙がでてきそうにー。更にひとりごとは続きます……。

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 一緒に仕事させていただいた監督さんの、人には言えない人物評!

 まず御登場願うのは「 ︎女郎責め地獄」田中登監督。洋酒より日本酒がお好き。酔うと、公衆トイレや公衆電話ボックス、時には道路に寝ちゃうのです。近松、西鶴、南北と、日本の古典と様式美をこよなく愛し取り組む監督が、その中から、どうしてあんなにバタくさく甘美で華麗な世界をつむぎ出すことができるのかしら。道路に寝ている姿を想い合わせてみても、ほんとに不思議な気がします。義太夫三味線の音に、鳴る鐘のひびきに、心をいたく揺さぶられ、身は慌惚と化し、墓地に一人佇めば、地下の魂のふるえる声を聞くという、いたって頑固なムッシュ・公衆詩人。(ムッシュとは田中監督の愛称なのです)

 「恋人たちは濡れた」「女地獄森は濡れた」と、何故に、題名凡て「濡れた」がつくのか、本人、関係者共に不明の理ー神代辰巳監督。これも濡れた「一条さゆり・濡れた欲情」。私はこの映画を観ると恐ろしくなります。あれは怖い映画なのです。四次元で造られた、二次元の軌跡だと思うからです。さて四次元の住人は、暮色の撮影所、お馴染みの黒いレインコートに身をつつみ、うつむきかげんに歩き行く、後姿に流れる曲は、〈なかなかづくし〉かベートーヴェンか、風に吹かれる前髪が、いとも無邪気に宙を舞う。生涯に一度、主演俳優をやりたいと言われます。そのデビュー作品、なにを隠そう「正調・丹下左膳も濡れた」。身をさらし、切られ、流れる血を浴びながら、あくまでも枯れてるその姿。強くて、とってもやさしい監督は、レインコートの丹下左膳。

 ある日突然、分裂気質の嘘つき女にされてしまった「牝猫の情事」。でも大好きな作品ですー加藤彰監督。おっとりやさしき物腰に、やさしさとったら純情が、純情とったら溢るる情感。とまア、通常抱かれておりますイメージ?……。遠路スウェーデンまで赴き、環境も生活観念も違うかの地で、ことばも意のままならぬ人々相手に、撮影するというその御苦労が偲ばれて、さぞかし苦悩の痕跡顕に帰国されるだろうと、私も思っておりました。ところが、カチンコ一丁腰にさげ、「岩に砕ける覚悟がついて、度胸だめしの男波」と、都々逸の一つもくちずさむ監督は、青い目のスタッフに驚くべきブロークン英語で啖呵を切り、江戸っ子の心意気を示されたと伝え聞く由。帰国なされた姿をみれば、ステーキの食べ過ぎとやらで、顔にニキビまでこしらえて「ヨーロッパは東京みたいにごみごみしてないし、良かったですねー」とほんに涼しげな御様子。それでいてあの美しく、ロマンティックで都会的な映画を造りあげてしまうのです。げにおそろしきは、権力と監督のうらおもて。

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