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100均グッズで競技の感覚を体験できる「見えないスポーツ図鑑」って?

パラサポWEB

たとえば卓球を担当したのは、卓球のコーチング科学を研究し、ロンドンオリンピックで現地の科学サポートを担当するなど日本の卓球界を支える専門家・吉田和人氏。吉田氏の話を聞いて分かったのは、卓球の本質はラリーの速さではないということ。近距離で高速のボールを打ち合いながら、相手が球にかけた回転を見極め適切に対応することこそ、卓球の本質だというのです。
そこから、空のペットボトルを使ってラケットをボールに当てる感覚を再現できるかどうかを試したり、ゴムホースやスリッパ、子どもが泳ぎの練習に使うスポンジ棒など、さまざまなものを手に取ったりした結果、最後に木製の落とし蓋とスリッパの組み合わせが最も近い感覚だという結論に達します。

落とし蓋は、持ち手が不安定なので、スリッパで打たれると静止していることができないし、打つ力の強弱もよく伝わりやすい。「巻き込まれ」ている感じが再現されていることがポイントだったようです。この結論に達するまでのエキスパートと研究者3名のやりとりには、果たしてどんなアイテムが選ばれるのか読者もドキドキしながら見守りたくなるようなドラマがあります。競技のエキスパートも、実際の競技とはだいぶイメージ的にも遠いアイテムがバーチャルリアリティで競技を体感できることに感動を覚えたのではないでしょうか。
本書には、この卓球の他、ラグビー、アーチェリー、体操、テニス、セーリング、フェンシング、柔道、サッカー、野球と全10種のスポーツへの挑戦が記録されています。使われている道具は、先に挙げたように100円ショップなどで気軽に手に入るものばかり。本書を参考に、さまざまな競技を「感戦」してみてはいかがでしょうか?


視覚を頼らずスポーツを表現する「見えないスポーツ図鑑」:フェンシング

このスポーツを翻訳する作業は、単に視覚に障がいがある人にスポーツを体感してもらえるだけにとどまりません。3つのいいことがあると渡邊氏は記しています。

(1)身体や感覚に関する新しい喜び(私たちの身体感覚に新しいボキャブラリーをもたらしてくれる)
(2)選手への身体的な移入、共感的な観戦体験(選手の気持ちが想像できるようになり、試合を理解し感情移入がより深くなる)
(3)身体や感覚の違いを超えた共同行為への動機付け(身体の大小や性別、身体や感覚機能の有無によらず、一緒に楽しめる一体感を作り出すことができる)

特に(3)は障がいのあるなしにかかわらず、さまざまな体験をみんなで共有できるという意味で注目したいポイント。さまざまな場所でこの本をテキストにみんなで体験してみることで、他者に対する理解がより深まっていくのではないでしょうか。

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text by Sadaie Reiko(Parasapo Lab)
写真・イラスト提供:晶文社,Shutterstock

<参考図書>
『見えないスポーツ図鑑』

伊藤亜紗/渡邊淳司/林阿希子 著:晶文社
視覚に障がいがある人たちにスポーツの楽しみを伝えるにはどうしたらいいのか。人間の知覚・触覚、人間中心設計の研究者がスポーツの翻訳に挑む。その試行錯誤をつぶさに記す研究ドキュメンタリー。身体や感覚の違いを超え、スポーツ観戦で共有する世界に希望を広げる。

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