健康のために「運動しなければ!」と考える人は多いと思うが、運動を<人生をよりよく生きるためのツール>として捉えている人はどれくらいいるだろうか?
実は、運動は身体や心の健康だけでなく、“脳の働き”を向上させるとも言われている。今回は、書籍『頭をよくしたければ体を鍛えなさい 脳がよろこぶ運動のすすめ』(中央公論新社)から、運動がどのように“脳機能” をアップさせ、さらには人生を望み通りに生きるための手助けをしてくれるのか、について紹介しよう。
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人生がうまくいかないのは、脳の「実行機能」が存分に発揮されていないから

「もっと仕事を効率よくできたら」「もっと有効に時間を使えないものか」「もっとお金を稼げればな」など、我々は生きていく中で様々な問題に直面する。なかなか自分の思い通りにいかず、「こんなはずじゃなかった……」と思うこともしばしば。自分が思い描くような素晴らしい人生を歩むためにはどうすればいいのか? そのためには、脳機能の中で「実行機能」と言われる認知能力が関係している。
実行機能とは、「~したい」という自身の願望や目的を達成するために重要な脳機能なのだ。そして、この実行機能は運動をすることによって向上していくことが、昨今の目覚ましい脳科学の研究で分かってきている。
実行機能は、「困ったな……、こうするためには、どうしたらいいんだろう?」という状況を打開するために役立つ色々な脳の働きです。もう少しマジメに定義すると、「はっきりとした目的のある行動を計画・実行・コントロールする働きを持つ脳機能の総称」ということになります。論理的思考・プランニング・問題解決などの複雑な認知能力の根幹にあると考えられている脳機能であり、脳のなかでも、おでこの裏に位置する前頭前皮質が特に重要な役割を担います。(書籍から抜粋)カラクリ2
運動するだけで、3つの異なる脳機能が自動でトレーニングされる

仕事の出来や収入、学業の成績やプライベートの充実度など、日々の生活や人生において深く関わっている実行機能。それは大きく分けて3つの脳機能から構成されているという。
1つ目は情報を記憶して、目的のために書き換えていく「ワーキングメモリー」。2つ目は衝動的な行動や感情などをコントロールする「抑制」、3つ目は思考や行動をフレキシブルに切り替える「認知の柔軟性」で、この3つの要素は実行機能に大きく関係している。これらは継続的に運動をすることによって自然とトレーニングされ、アップデートされていく。つまりは実行機能がどんどん磨かれていくのだ。
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1:「ワーキングメモリー」
2:「抑制」
3:「認知の柔軟性」
これに対して、継続的に運動すると、実行機能を構成するワーキングメモリー・抑制・認知の柔軟性を必要とする課題を実際に練習したわけではないのに、それぞれの課題の成績が向上することが知られています。つまり、運動すると、脳トレを練習していないのに、脳トレがうまくなってしまうということです。なんとも不思議なことではありますが、身体を動かすことで脳が変容することを表す好例です。(書籍から抜粋)
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意志の強さで、その後の人生がガラリと変わる

我々は生きていく中で、こうなりたい、これをやろうと突然思い立つことがある。例えば運動をしようと思い立ち、始めてみても数日すると、「明日やればいいや」、「ゲームがしたいので今日はもう止めよう」など、あっさり白旗を上げがち。自分の意志がもっと強かったら……と思うことも多い。
本書の中に、「マシュマロテスト」という有名な研究のことが記載されている。4歳の子どもを集めて行われたこのテストは、実験者が子どもたちにまずは1個のマシュマロを与える。その後、子どもたちに「部屋からしばらく出ますが、私が帰ってきたときにマシュマロがそのままだったら、もう1個マシュマロをあげる」と約束をした。実験者が部屋から出ていくと、子どもたちはそれぞれの行動を始めた。言いつけをしっかり守る子、マシュマロを食べてしまう子、外見からは分からないようにマシュマロの中身だけ食べてしまう子など、様々なケースが見られたという。
「マシュマロテスト」を受けた子どものその後を、10年~40年も追跡調査した結果、しっかり言いつけを守って我慢ができた子どもは、高学歴や良好な人間関係などを築き、様々なことをセルフコントロールできている人が多かったそうだ。
このテストの話を読むと、子どもの頃からしっかりとセルフコントロールし、意志力を高めていくことが人生をよりよいものにしていくということが分かる。未来は決められているものではなく、自分で道を切り拓いていくものなのだ。
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運動は、意志力を鍛える最高のトレーニング方法

セルフコントロールがうまい人が、常に意志力を維持できるのかというとそうとは限らない。意志力は筋肉のようなもので、使い過ぎると消耗していき、セルフコントロールが難しくなってくるそうだ。これが「自我消耗」と呼ばれていることが本書の中に記載されている。