
およそ1億2500万年前の白亜紀、現代のイギリスにはワニのような顔で、背中にはトゲが生えたヨーロッパ最大級の肉食恐竜がうろついていたようだ。
英国南部に浮かぶワイト島で、これまで知られていなかった、その恐ろしげな恐竜の新種が発見されたそうだ。
正式名称はまだないが、現時点では発見された白亜の地層にちなみ「ホワイトロック・スピノサウルス」と呼ばれている。
学術誌『PeerJ Life and Environment』(2022年6月9日付)に掲載された研究によれば、ティラノサウルスよりも大きく、背中から平らな帆が突き出ていた水陸両用のスピノサウルスの近縁と考えられるという。
謎多き肉食恐竜、スピノサウルス科
「スピノサウルス」科の恐竜の化石はほとんど見つかっていないため、やや謎めいた存在だ。白亜紀(1億4500万年~6600万年前)の恐竜で、ワニのような頭蓋骨、細長い首、がっしりとした腕を持っていた。川や湖、潟湖(外海と切り離されて生じた浅い湖、ラグーン)などで狩りをしていたと考えられているが、獲物のとらえ方については議論がある。
例えば、現代のワニのように大きな尻尾を振りながら泳いで、獲物を追跡したという説や、サギのように、潟湖を歩きながら長い顎を水中に突き立てて、魚を捕獲したという説がある。
スピノサウルス科の恐竜の捕食イメージ映像
ヨーロッパ最大級の肉食恐竜
いずれにせよスピノサウルス科は巨体の持ち主だが、今回新たに発見された「ホワイトロック・スピノサウルス」はとびきり大きい。英サウサンプトン大学の古生物学者クリス・バーカー氏は、「体長はゆうに10メートルを超えており、その寸法から判断するに、おそらくヨーロッパ最大の肉食恐竜だった」と説明する。だからこそ、わずかな化石しかないのが残念だという。

発見されたホワイトロック・スピノサウルスの化石 / image credit:Chris Barker&Dan Folkes
続々と新種の恐竜が発見されるワイト島
今回の化石が発見されたのは、ワイト島コンプトン・チャイン付近にある白亜紀の岩石で、巨大な骨盤と尾椎などが発掘された。化石が閉じ込められていた「ベクティス層」は、1億2500万年前に海面が上昇した際、その堆積物が淡水の潟湖に入り込んで形成されたものだ。
ホワイトロック・スピノサウルスは、まさにそうした潟湖を獲物を求めてぶらついていたようだ。
ワイト島では他にもスピノサウルス科の化石が見つかっている。2021年には新種2種が発見され、それぞれ「リパロヴェナトル(Riparovenator milnerae)」(属名は”川岸の狩人”の意)、「ケラトスコプス(Ceratosuchops inferodios)」(属名は”ツノのあるワニ顔”、小種名は”地獄のサギ”の意)と命名された。
どちらもホワイトロック・スピノサウルスよりは若干小さく、体長9メートルほどだそうだ。
リパロヴェナトルとケラトスコプスのイメージ映像
バーカー氏らのグループは、スピノサウルス科の恐竜はヨーロッパで進化して、アジアやゴンドワナ超大陸に広がり、そこからアフリカと南アメリカに渡ったと主張している。今回の発見は、この仮説を補強するものだという。
最強の肉食恐竜も死後は食われる運命
スピノサウルスはヨーロッパ最大の陸上捕食動物だったかもしれないが、それも生きている間だけのことだ。骨に残された痕跡から、死後に別の動物によって食われただろうことが推測されている。
研究グループの古生物学者ジェレミー・ロックウッド氏(ポーツマス大学)は、以前トンネルのような穴が掘られた人差し指くらいの骨盤を見つけたことがあるという。
同氏によると、おそらくは骨を食べる幼虫か、腐肉を食べる甲虫によるもので、「巨大な殺人鬼でも、いずれは昆虫のエサになると想像すると面白い」と話している。
References:Europe’s largest land predator found on the I | EurekAlert! / written by hiroching / edited by / parumo