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「さっきの電話、ホントに泣けたわ」抗がん剤治療に挑むママ

幻冬舎ゴールドライフオンライン

※本記事は、尾島聡氏の書籍『遥かな幻想曲』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。

【前回の記事を読む】ついに始まった妻の抗がん剤治療。懸念していた副反応は…

巨大な三角

抗がん剤投与から六日目の八月三日、和枝が初めて体調の悪さを口にした。最初はメールや電話への反応がいつもよりちょっと鈍いかな、くらいに感じていたが、昼から夕方にかけて、酔い止め薬が効いた時のようなふわふわした喋り方に変わってきた。

そして夜七時半に廉がかけた電話に、泣きそうな声で「気持ち悪いの」とこぼした。ここ数日は便秘と、一進一退の怠さくらいが目立った副反応だったが、少し遅れて吐き気が出てきたということか。和枝は電話には出てくれるが「調子が変なの」と泣くばかり。

抗がん剤の二回目の投与を翌日に控えているので、廉が病院に出向き、医師に直接状況を聞くことにした。高井先生が夏休み中で代行の先生から説明を受けた。和枝の体は薬が効き始め、今は猛烈な怠さに支配されているという。それは、ものを食べようと思っても体を起こす気力すら湧かないほどの、かつて経験したことのない怠さなのだそうだ。

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抗がん剤の副反応のほかにナトリウム不足も一因とのことで、ナトリウムの点滴も受けていた。ベッドの端に座った廉が和枝の頭を撫でていると、表情に柔らかさと生気がよみがえってくるのが分かった。そのうち上体も起こせるようになり、廉が洗濯して持ってきた肌着などをクローゼットにしまっていると、和枝も普通に立ち上がり、廉に手渡し始めた。

「ここでは、みんなに守られているから大丈夫。廉は心配だからって、いちいち車を飛ばして来なくていいんだよ。あなたの方が心配よ」

翌日、予定通りゲムシタビンの二回目の投与が行われた。副反応だけ見れば、この二回目の投与の後には特段厳しい状況は訪れなかった。そうしてみると、一番最初のプラチナ製剤のシスプラチンがきつかったのか。がん細胞をアタックする力が強い分、正常な細胞のダメージも大きくなるということか。

昼ごはんを作りながら、洗濯をしながら、廉は和枝の体に起こっていることを考え続けた。そして和枝の電話の声の調子を確かめながら一喜一憂していた。代行の先生の見立てによれば、肺の病巣は「少なくとも入院時より大きくなってはいない」そうだ。

和枝からメール。

「どこまで祈り続けることができるか─。そんな人生になるんだなぁ。その入り口に立ったんだなぁと思います。まだ甘いかもしれないけど、廉と遥のお蔭で、きっと祈り続けることができそうな気がするよ」

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