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国際情勢が揺らぐなか、いま日本がすべきこと/倉山満

日刊SPA!

国際情勢が揺らぐなか、いま日本がすべきこと/倉山満

―[言論ストロングスタイル]―

◆危機が喫緊なのに、なぜ「5」年なのか

 昭和20年5月、同盟国のドイツは無条件降伏。日本も敗色濃厚だった。心ある人は「ソ連はドイツを倒した。次は日本を滅ぼそうと、既に動き始めた!」と警告していた。しかし、軍と政府の大勢は、「ソ連は秋まで攻めてこない」だった。それどころか「中立条約を結んでいる仲だ」と和平交渉まで依頼していた。

 結果、8月に中立条約を破棄して我が国に攻め込み、阿鼻叫喚の大量殺戮。女は犯され、生き残った男はシベリアに拉致されて奴隷労働となった。

 何の根拠もない楽観論は、悲劇を招く。

 最近、自民党が政府に立派な提言をした。これまでの防衛政策を根本的に見直そうとの主張で、多くの具体策が挙げられている。では、その裏付けとなる予算はどうか。「防衛費GDP2%を5年以内に」だ。

 同提言書では、我が国の安全保障環境は喫緊の危機にあるとの情勢分析が並べられている。では、危機が喫緊なのに、なぜ「5」年なのか。

◆日本は中立国ではない。ロシアの敵国だ

「ソ連は秋まで攻めてこない」と同じにならないように祈るしかない。日本はウクライナと違ってアメリカと同盟を結んでいるが、自分の国を自分で守る気が無いのに、アメリカが真剣に戦う訳が無い。

 国家を支えるのは、知力・財力・武力だ。物質力は今すぐに整備できないが、知力はやる気次第だ。

 そもそも、今次ウクライナ紛争で日本は中立国ではない。ロシアは「非友好国」と認定してくれた。つまり敵国だ。アメリカについていくと決めた以上、覚悟を決めて対処するしかない。

◆もし、プーチンがハッカーに報復したら、自己責任で終わるのか?

 我が国が貢献できるのは、国際法の分野だ。国際法は別名「文明国間の法」だ。日本は国際法の優等生だ。今次紛争でも、国際法は武器として機能している。この紛争で何が起きているかを見極めるためにも、国際法の考察は重要だ。

 国際法は、「平時と戦時」「味方と敵と中立」「戦闘員と非戦闘員」「戦闘地域と非戦闘地域」の区別を求める。同時に、兵器や戦術の発達とともに変化する。

 たとえば、ハッカーの扱いだ。現代戦の初動では、ハッキングが重要となる。しかも、1945年以降は宣戦布告なしに殺し合いが始まる。初動でハッキングに成功するか否かは、戦局全体に影響する。ロシアはクリミアでは大成功したが、今回は失敗して大苦戦だ。それどころか、ハッカーに苦しめられている。

 では、ハッカーに、戦闘員の資格を定めたジュネーブ条約を適用できるか。国際法を守る、指揮官の下で統制されている、標章(ワッペン)によって非戦闘員と区別できる……ロシアを苦しめているアノニマスはどれも守っていない(苦笑)。プーチンが彼らに報復した場合、自己責任で終わりだろうか。いまだ確立した国際法はなく、議論も少ない。

◆現代戦において、戦闘員と非戦闘員をどう区別するか

 現代戦ではSNSも重要だ。フェイスブックの「ロシアへのヘイトスピーチは許可」は勝手な商売なので、ロシアも閲覧禁止などで対抗措置をとっている。

 一方、グーグルはロシアの秘密軍事施設の解像度の高い写真を全世界に公開している。戦場では、発見された軍隊は全滅した軍隊だ。業を煮やしたプーチンが、米国のグーグル本社に殺し屋を送ったらどうなるか? アメリカの国内法で対処、つまり「警察に電話してください」だ。では、海外旅行中の社員が拉致されたら? 当然、捕虜資格はない。

 ゼレンスキーは、「男は戦え!」と宣言し、ウクライナ人は実行している。女・子供・老人・病人・怪我人、つまり非戦闘員は疎開した。この時点で男は非戦闘員ではない。戦時国際法(交戦法規)を守らねばならない代わりに、捕虜資格がある。

 ゼレンスキーは、ロシア兵をスマホで写真や動画にとって拡散せよと指示。ウクライナ人はドローンを飛ばしてもいる。完全な害敵行為だ。

 ロシアから見ると、「ウクライナの男は戦闘員」だ。しかも「軍服を着ずに非戦闘員の姿で我々の仲間を殺している」となる。ロシアがこうした論理を悪用しないよう、監視する必要がある。

◆国際法ならば、我が国も援護射撃ができる

 たとえば虐殺だ。虐殺の定義は、「理由もなく惨たらしく殺すこと」だ。ロシアは、理由にならなくても理由を見つけてくる国だ。ちなみに日ソ中立条約を一方的に破棄した理由は「4年前に敵対的な演習を行っていた」だ。

 世界的に話題のブチャの虐殺を例にとろう。ロシアがやっていることが、Massacre(虐殺)であるのは間違いない。強姦などは、弁護のしようがない。しかし、ロシアの論理からすると、「一部の不祥事はあったが、ウクライナは交戦法規を守らないで戦闘を行っている。だから、やむを得ない悲劇だ」と言いかねない。

 カナダはロシアのやっていることをGenocide(民族殲滅)と言い出したが、いかなる屁理屈をも並べるロシアに対し、先手を打った格好だ。

 宣伝戦で国際法は重要な武器。我が国も援護射撃ができる分野だ。

◆在日米軍がいる限り大丈夫と高をくくっている場合ではない

 さて、我が国はロシアを敵に回した。在日米軍がいる限り、日本に攻めてくるはずがないと高をくくって余裕綽々で構えているか。それとも、危機を真剣に捉えて、国防努力を行うか。

 当然、ハッキングに対する防御くらいは考えているのだろう。仮に日本の主要インフラがハッキングされた場合、日本経済は止まる。しかも、水道ガス電気がつながっているので、打撃は大きい。江戸以前の生活に逆戻りだ。

 ロシアに限らず、どこかの敵国が攻めてきたとし、ウクライナと同じように本土防衛戦に突入したとする。我々日本国民はどうするのか。女・子供・老人・病人・怪我人が逃げる場所が無い。

 気軽にスマホで侵入者の写真や動画を拡散、あるいはドローンで攻撃を加えた時、敵の報復からどのように身を守るのか。

◆即座に国家意思を示す時が来た。5年も待てない

 やるべきことは多すぎる。それにはまずカネ。来年から防衛費GDP2%、5年以内に3%を前提に、国防政策を考えるべきだ。予算がつかない事業計画は単なる作文だからだ。

 中国は巧みな外交で、中立国をまとめ上げ、ロシアを裏面支援している。アジアでロシアの「非友好国」は他に韓国と台湾。ならば、これをテコとして、アメリカだけでなく、韓国と台湾も強固な軍事同盟に巻きこむべきだ。ちょうど韓国の大統領も代わったし。

 即座に国家意思を示す時が来た。5年も待てない。

【倉山 満】
’73年、香川県生まれ。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務め、’15年まで日本国憲法を教える。ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰し、「倉山塾」では塾長として、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交についてなど幅広く学びの場を提供している。著書にベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』のほか、9月29日に『嘘だらけの池田勇人』を発売

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