
※本記事は、三上ミカン氏の書籍『拝啓、母さん父さん』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。
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第四章
栄美華に制止されなかったら私と恵は喧嘩になり止まらなくなっていただろう。恵は不服そうにも事の重大さに大人しく栄美華の言葉を待った。
「あたしは堕した方がいいと思う。酷かもしれないけど恵はまだ大学二年生だしデザイナーになる夢があってここにいるでしょ? 子どもを産むことが悪いわけじゃないけど恵の人生を考えたら今じゃない気がする」
「私もそう思う……」
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恵が苛々しているのが見て取れた。しかし栄美華に反発してもメリットはない。栄美華の人望の厚さはひと昔流行った厚底ブーツよりも厚い。敵に回してもこちらに味方がいなくなるだけなのだ。それを分かってか、代わりに恵は私に食ってかかった。
「そもそも里奈がいけないのよ。あの日わたしをクラブに置いていったから」
「あの日って、恵は大輔とホテルに行ったんじゃなかったの」
「違う。大輔が他の女と出て行く所を目撃しちゃって、当て付けに大輔の友達の赤髪とホテルに行ったの」
「でもそれは私のせいじゃ」
「恵がいてくれたら、思い止まってたかもしれないじゃん!」