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【小説】「お久しぶり」耳元で囁いた“女の正体”…振り向くと?

幻冬舎ゴールドライフオンライン

本記事は、渡邉将人氏の書籍『未来への手紙と風の女』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです

【前回の記事を読む】思い出せるのは長い髪の毛だけ…夢に出てきた女は一体誰?

未来への手紙と風の女

五月、さつき、新緑のこの季節、けやきに射す春の太陽の反射が、僕の心を刺す。阿蘇にいる。夢を忘れるために、車を飛ばし、昔懐しい阿蘇にやって来た。

この季節になると、故郷、熊本の阿蘇の放牧地で、僕は、野原に大の字になり、本を読んだり、空を見つめ続けた(そのとき、祖父母の住んでいた最寄りの駅の宮地駅から坊中に行き、阿蘇山上の中岳火口を目指していた)。登山道の近くには、何頭もの肥後のあか牛が、僕の横を歩いていたのを思い出したからだ。

上空では、ひばりが、鳴いている。ひばりが、蒼い空に吸い込まれていく。コバルトブルーの空を横切る白いひこうき雲を追いかけながら、ひばりが蒼い空に吸い込まれていくのだ。

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僕の頬を、すうとなでながら通り過ぎた風が、春の香りを届けてくれた。この季節の香りだ。草の香り。木の香り。高天原のような阿蘇の山で昼寝をしていたら、時間を忘れ、時が流れ、白川水源から出てくる湧き水を飲みたくなった。

──長い髪の毛のシャドーは出なかったな。そう思いながら、川へと下る。顔を湧き水に浸す。子供の頃、よくしたのを思い出し、両手で、湧き水をすくって、飲んでみる。喉を湧き水が通る。

横には、水神さんが、祭られている。鈴を鳴らす。手を合わせて拝む。子供の頃と同じだ。あの頃の自分に戻った。

近くには、僕が通った小学校がある。中松小学校。健康・創造・温情。中松尋常小学校から百年。確か、小学二年生のときに、創立百周年之碑の下にタイムカプセルをみんなで埋めたはずだ。“未来の自分へあてた手紙”

あの、長い髪の毛のシャドーは何者だったのか? 髪の長いあのシャドーは何者だったのか。未来の自分にあてた、手紙のことなのか。いやまだ、結論を出すのは、やめよう。昼寝の際には見なかったのだから。僕は、未来から過去へと、このとき、タイムカプセルで戻っていた。

──未来への手紙。あのとき、未来の自分へ何と手紙に書いたのだろうか。うっすらと、少しずつ記憶をたどろうとするが、ぼんやりとも思い出せない。記憶というのは、あてにならないのか。勘でもだめか。

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