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タヌキ社長のいる会社が日本を明るくする? バカ映画の巨匠が描く真骨頂

日刊SPA!

タヌキ社長のいる会社が日本を明るくする? バカ映画の巨匠が描く真骨頂

◆不条理どうぶつシリーズ最新作! バカ映画の決定版『タヌキ社長』

 バカ映画の巨匠・河崎実監督の不条理どうぶつシリーズ最新作がついに始動! 『いかレスラー』『コアラ課長』『かにゴールキーパー』『猫ラーメン大将』に続く第5弾、気になるタイトルは、このゆるさがたまらない『タヌキ社長』(5月20日公開)。かつての東宝映画のドル箱スター・森繁久彌の『社長』シリーズにオマージュを捧げた本作では、大手酒造会社社長・信楽矢木雄(着ぐるみタヌキ)を主人公に、会社で起こる様々な出来事や、社長とOL との淡い恋を、歌と笑いと宴会芸満載で描く。

 ヒロイン・房子を演じるのは、これが映画初主演となるシンガーソングライターの町あかり。自らを中二病ならぬ“永遠の小二病”と語る河崎監督のもと、昭和歌謡を愛する令和の歌姫・町はどんな新境地を拓くのか? 「言わせてはいけないことを言わせてしまった!」(河崎監督)、「なんか面白くなっちゃって、ぎゃはは!」(町)…予想以上に馬が合う名コンビに本作の魅力を語ってもらった。

◆何かと暗い世の中、とにかく笑ってほしかった

――本作は、2008年の『猫ラーメン大将』以来の不条理どうぶつシリーズということですが、なぜ今、『タヌキ社長』だったんですか?

河崎:新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が出た時、もう何もやることがなくなっちゃって、どうしようかなと思っていたら、町さんの方から「何か企画ないですか?」と打診があったんですね。とにかく世の中真っ暗だったし、来年もどうなるかもわからなかったので、「何も考えず、平和で笑える作品を作ろう!」ということで、クラウドファンディングを利用して製作資金を集めることにしました。その時、ふと頭に浮かんだのが森繁さんの『社長』シリーズだったんです。

――まさに『社長』シリーズへのオマージュ満載でしたが、いつかやりたいと心のどこかで思っていたんですね?

河崎:そうなんですよ。クレージーキャッツ、『若大将』シリーズ、『社長』シリーズは僕にとって特別な存在ですからね。ただ、『社長』シリーズを普通にやっても面白くないので、今、日本の伝統工芸として注目を浴びている信楽焼のタヌキを主役にしようと。心の優しい社長なんですが、なぜかタマキン丸出しという(笑)。着ぐるみとはいえ、完全にコンプライアンス無視してますけどね。

――確かに“出てます”が、愛すべきキャラクターですよね(笑)。コロナ禍で、資金も限られているので、撮影は大変だったのでは?

河崎:今回は、いつにも増してお金がないので1日半で撮影したんです。綿密にスケジュールを組んで、現場に入ったら、とにかく迷いなく撮るだけ。9時から昼までに会社のシーンを全て撮って、そのあとライブシーンを撮って、夜は料亭…という具合に、ほぼ香盤表(スケジュール表の一種)通りに進め、徹夜もありませんでした。

町:本当に凄いんですよ! もうあんな早わざは河崎監督にしかできないです。サクサクサクっと、とにかくお見事でした。

◆「僕は小二病」河崎監督のカミングアウトにオファー快諾

――町さんは、河崎監督の『「干支天使チアラット外伝」シャノワールの復讐』『遊星王子2021』に出演されていますが、最初の接点はなんだったんですか?

河崎:僕の盟友に音楽プロデューサーの鈴木啓之という男がいるんですが、町さんと昭和歌謡のイベントをやっていて、それをよく観に行っていたのがきっかけですね。いつか町さん主演で昭和的なものをやりたいなと以前から思っていたんですが、今回、町さんご本人から打診があったので、これを機に思い切ってオファーしました。内心、「タマキン丸出しのタヌキ社長に惚れるヒロインなんて受けてくれるかなぁ」と思っていたんですが、快諾してくれたので凄く嬉しかったです。

――町さんは、このヒロイン役、抵抗なかったんですか?

町:河崎監督ご自身が言っていたんですが、「僕は小二病なんです。中学生どころかじゃない、永遠の小学生」だと。それを聞いて、「なるほど、小学生ならしょうがないな」と思っちゃって(笑)。そういう視点で捉えると、なんか急に楽しくなってきて、普段は絶対に言えないセリフや単語も、「面白い! ぎゃはは」みたいなノリで不思議と臨めましたね。

河崎:セクハラだ、パワハラだ、コンプライアンスだと、何かと色々大変な時代になっちゃったけど、「こんなことも許されないのか!」っていうね。ふざけていますが、こういう大らかな世界があってもいいじゃないかと。コロナや戦争でもう真っ暗ですよ、世の中は。だから、せめて映画館に来たときだけはゲラゲラ笑って楽しんでほしい、それだけなんですよね。

――町さんにとって、初の主演映画ですが、不安はありませんでしたか?

町:河崎監督が、「歌を歌う人は大丈夫なんだよ、できるから大丈夫、大丈夫、あはは!」みたいな感じでおっしゃってくれたんですが、「本当にそうなのかな?」と最初は半信半疑でした。でも、松田聖子さんも、山口百恵さんも、昔から歌手のみなさんって演技にも挑戦されているので、ここは腹を決めて、私も思い切ってトライすることにしました。ただ、演技というよりも、撮影が1日半しかなかったので、とりあえずセリフをかまなければOK! みたいなところがあったので、あれでよかったのかどうかは不明です(笑)

河崎:歌手って、一つの世界観を3分くらいの中で作っちゃう人だから、僕の映画でヒロインを務めるなんて屁みたいなもん。もうバッチリでしたよ!

町:本当ですか?ありがとうございます! でも、現場はもうワクワクしましたね。私、映画の『男はつらいよ』が大好きで、好きすぎて本も出している(「町あかりの『男はつらいよ』全作ガイド」青土社)くらいなんですが、一人の映画ファンとして、自分がヒロイン役で大きなスクリーンに映っていることが素直にうれしかった。寅さんのマドンナの気分が味わえた感じですね。

◆歌あり、コントあり、宴会芸あり!なんでもありが超楽しい

――町さんは挿入歌として歌を3曲披露していますが、うち2曲ご自身で作詞・作曲されていますが、どういうイメージで作られたのでしょうか?

町:河崎監督から、「切なく歌えるラブソングある?」って聞かれて、「ええ、どうしよう」って。あまりそういうラブソングとか書かなくて、変な歌が多いので(笑)。そんな時に、ふと他の方に提供した曲があったのを思い出して、ご提案させていただいたのが、あの最初の英語の曲『Am I a bit strange?』でした。もう一曲は、「最後に明るく終われるような曲がほしい」というリクエストが来たので、タヌキにちなんで『ポンポンコポン(お月様の下で)』という音頭調の歌を映画用に書き下ろしました。

――仕上がりはどうでしたか?

河崎:いやもう、ばっちりじゃないですか! いまみちともたかさんが書いた『恋人にもう見えない』も、町さんにピッタリでした。昔の娯楽映画は、自分の心情を急に歌い出すMVを挿入するのが定番だったんですが、町さんの歌のシーンはそのオマージュですね。

――芸人さんのコントや宴会芸もふんだんに盛り込まれていましたが、物語を乗っ取るくらいのボリュームがありましたね。

河崎:僕の大好きな掟ポルシェさん、ショウショウさん、そして若手芸人で一番注目しているレインボーさんに出演いただいたんですが、ある意味、森繁さんの『社長』シリーズは、“芸”を観る映画でもあるので、たっぷりと尺をとりました。今の時代、人気のある芸人さんは、YouTubeなどで物凄く再生されていますが、未来永劫、彼らの芸を残すためには、映画にしないとダメなんですよ。クレージーキャッツも加山雄三さんも森繁さんも、映画になったから作品として残るんですよね。

――映画を観ていて、ふと、「コントや芸の部分、結構長いなぁ」ってなんとなく思っていました。タヌキ社長がなかなか出てこないなって(笑)

河崎:若い人は『社長』シリーズを観たことないと思いますが、芸人が芸を見せるのもこの映画の真骨頂なので、怒らないで楽しんでほしいです。

――何気に元トカナ編集長の角由紀子さんもインタビュアーで登場し、わけのわからない質問でタヌキ社長を困らせていますよね?

河崎:スター編集者ですからね。角さんが投げかける質問は、アドリブじゃなくて全部セリフなんですが、軍隊タヌキの話だけ、彼女から提案があったんです。変な質問にタヌキ社長がやや困っている感じを、関智一さん(タヌキ社長の声)と、谷口洋行さん(スーツアクター)がうまく表現してくれました。

◆タヌキ社長が運営する会社はとても理想的!?

――非常にせちがらい世の中、タヌキ社長の会社って、ある意味理想ですよね。あれが“出ていること”も、あそこまでやりきると大らかでいいなと(笑)

町:本当いい会社ですよね。働いている人もいいし、雰囲気も明るいし。やはりそれは、タヌキ社長の人柄というか…めっちゃいい人じゃないですか。

河崎:モト冬樹さん、吉田照美さんも出てくれたんですが、貫禄があって、映画が締まりますよね。もう『ヅラ刑事』にも出ているし、慣れてますし、ちょろいもんですよ。出演時間が限られていても見事な存在感を発揮してくれました。

――なんならモト冬樹さんが社長役でもいいかなと思いましたが、今回はタヌキということで(笑)。漫画家の森野達弥さんがデザインしたキャラクターがとにかく愛おしくて癒されましたが、河崎監督がここまで着ぐるみに惹かれる理由はなんですか?

河崎:やはり異形の魅力ですよね。タヌキ社長のように異形のものが現実社会に存在し、日常の空間に入り込んでくると、いろんなドラマが生まれてくる。まあ、寅さんもそうですし、ドラえもんもオバケのQ太郎もみんなそう。最初は違和感があっても、最後は心を合わせてなんとかうまくやっていく…そういうところが好きなんだと思いますね。

◆映画を観ている時くらい笑顔でいてほしい

――それにしても、バカ映画を還暦過ぎてもやり続けているところが凄い!

河崎:僕の映画人生を語る上で、配給の叶井俊太郎(現・TOKANAで配給業務に従事)という、バカがいないと成立しないんですよね。バカは誉め言葉なんですが、叶井さんが配給した『えびボクサー』が当たった時、ほとんど面識はなかったんですが、彼に電話して、「あんた『えび』の人だろ? 今度『いか』やんないか? レスラーで」って言ったら、「ああ、いいですよ」って(笑)。そこからの付き合いなんです。叶井さんにとって、映画の内容はどうでもいいんです。普通だったら、こうしてくれ、あーしてくれと、なんか注文つけたりするじゃないですか。それが一切ない。とにかく黙って配給宣伝に入れ込んでくれるんです。信頼関係なのか、無関心なのか、なんだかわかりませんが、そこがいいんですよね。

――なるほど、それは河崎監督の世界観を大切に思っているからじゃないですかね。今回の作品も、バカ映画全開ということで、不条理どうぶつシリーズをたっぷりと堪能させていただきました。最後に締めのメッセージをお願いします。

町:この映画を観終わって思ったのは、嫌なこと、不安なことを普通に忘れる時間だったなと。今、真剣に考えなきゃいけないことがあまりにも多すぎるので、『タヌキ社長』を観て、笑ったり、温かい気持ちになったりすることって、とても大切な気がしますね。

河崎;コロナや戦争で真っ暗な世の中、せめて映画を観ているときくらい笑顔でいてほしいですね。ただ、何十億もかけたハリウッド映画も1,900円、『タヌキ社長』も1,900円、もう劇場に来た時点で諦めてください(笑)。『シン・ウルトラマン』と真逆の世界観ですが、バカ映画の決定版なので、とにかく怒らないで観てほしいです!

取材・文・撮影:坂田正樹

【坂田正樹】
広告制作会社、洋画ビデオ宣伝、CS放送広報誌の編集を経て、フリーライターに。国内外の映画、ドラマを中心に、インタビュー記事、コラム、レビューなどを各メディアに寄稿。2022年4月には、エンタメの「舞台裏」を学ぶライブラーニングサイト「バックヤード・コム」を立ち上げ、現在は編集長として、ライターとして、多忙な日々を送る。(Twitterアカウント::@Backyard_com)

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