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公選法改正で買収を防げ<弁護士・元東京地検特捜部検事/郷原信郎氏>

日刊SPA!

公選法改正で買収を防げ<弁護士・元東京地検特捜部検事/郷原信郎氏>

◆なぜ金銭の授受が慣行化したのか

―― 河井克行元法相の買収事件をはじめ、各地で公職選挙法違反の疑いのある問題が明らかになっています。

郷原信郎氏(以下、郷原) 今回発覚した国会議員から地方議員などへのばら撒きは、以前から恒常的に行われていたことです。しかし、捜査機関から摘発されることが少なかったので、あまり問題視されてきませんでした。

 公職選挙法の買収罪は「当選を得る目的」「当選を得しめる目的」で、選挙人または選挙運動者に対して「金銭の供与」を行うことが要件とされています(221条1項1号)。供与とは「自由に使ってよいお金として差し上げる」という意味です。河井事件に関して言えば、河井克行氏が選挙人や選挙運動者との間で、妻の河井案里氏を当選させる目的で自由に使ってよいお金として金銭のやり取りをしていれば、買収罪が成立することになります。

 しかし、これまで公選法違反として摘発されてきたのは、選挙期間中に現金を供与するなど、投票や選挙運動の対価であることが明らかな場合だけでした。地方政治家や有力者に対して行う金銭の提供は、「選挙に関する金」であることの立証が難しいので、ほとんど摘発の対象になってきませんでした。実際、特定の候補者を当選させる目的があったかどうかは、主観的な認識なので、買収者と被買収者が選挙活動のための資金ではなく、あくまで党勢拡大や地盤培養のための資金だと言い張れば、客観証拠でもないと立証することは困難です。

 捜査機関側がこういう対応をとってきた結果、国会議員たちは国政選挙の度に地方政治家たちに対して「政治資金」を隠れ蓑にして多額の金銭をばら撒き、それが恒常化していきました。彼らは金銭の供与を慣行だと思っているので、違法との意識もありません。克行氏から現金を受け取り、検察審査会で起訴相当となった広島市議5人も、現金の授受は「普通のこと」だと述べています。

 これは自民党だけの問題ではありません。『文藝春秋』が自民党京都府連をめぐる選挙買収問題を報じたところ、自民党の茂木敏充幹事長が定例会見で、「自分なりに調べてみたが、立憲民主党の県連などでも同様のケースは散見される。収支報告書を見ればわかることで、同じようなケースが出てくる」と指摘しました。自民党の幹事長が根拠もなくこんな話をするとは思えません。おそらく野党も同様のことを行っているのでしょう。その意味で、これは日本の政界全体の問題と言えます。

◆発端は安倍政権と検察の対立

―― 検察が河井事件で、これまで公選法違反として摘発してこなかった金銭の授受を立件したのはなぜですか。

郷原 事の発端は安倍政権と検察の対立まで遡ります。あれがなければ、事態がここまで発展することはなかったと思います。

 当時の経緯を振り返ると、2019年に『週刊文春』が河井案里氏の参議院選挙をめぐる車上運動員買収事件を報じたことで、河井克行氏は法務大臣辞任に追い込まれました。これを受けて、広島地検は河井夫妻の捜査に乗り出します。

 そのころ、安倍政権は東京高検検事長の黒川弘務氏を頼りにしていました。黒川氏は官邸と親密な関係にあり、「官邸の守護神」と呼ばれていました。安倍政権は検事の定年延長を強行し、黒川氏を検事総長に据えようとしましたが、検察官の定年延長が違法だと指摘され、大問題になりました。私も、ヤフー記事などで検察庁法違反の定年延長を厳しく批判しました。安倍政権としては河井夫妻の捜査を何とか食い止めたかったと思いますが、河井夫妻を捜査している広島地検は東京高検検事長の黒川氏の管轄外だったので、黒川氏には、情報すらなかなか入らなったはずです。

 河井事件の検察捜査が進められる中、安倍政権にとって計算外のことが起こります。『週刊文春』で黒川氏が記者たちと賭け麻雀をしていたことが報じられたのです。これによって黒川氏は辞任に追い込まれてしまいました。

 その後、黒川氏が去った東京高検の指揮のもと、河井夫妻は公選法違反で逮捕されます。先ほど述べたように、克行氏たちの現金配布は党勢拡大や地盤培養のための政治活動と見ることもできるので、従来であれば公選法違反で摘発されることはなかったと思います。しかし、安倍政権のやり方に、当時の稲田検事総長が強く反発したことが、河井夫妻を買収罪で逮捕する方針につながったのだと思います。

 検察庁として方針が決まった以上、現場の検察官たちはそれに応じた作戦を立てるしかありません。そこで、彼らは河井夫妻からお金を受け取った地方議員たちに、処罰されるのは河井夫妻だけだという期待を抱かせることで、「案里氏の参院選のためのお金と思った」と認める調書をとっていきます。その後も被買収者たちは自分たちは処罰されないという期待を持ったまま証人尋問に臨み、ほとんどが「案里氏の参院選のためのお金と思った」と証言しました。

 しかし、買収側の河井夫妻を起訴しておきながら、被買収側を不起訴にするなどあり得ません。被買収者たちは50万円や100万円といった額のお金を受け取っており、中には200万円受け取った人もいました。検察側は、不起訴にしても、検察審査会で起訴相当になることを覚悟していたと思います。河井夫妻を逮捕するために被買収者たちから有利な証言を引き出し、いったん不起訴にすれば、検察審査会で起訴相当議決が出て起訴することになっても、被買収者に対して「検察審査会の議決だから致し方ない」という言い訳が立つということだったのだと思います。非常に詐欺的な手口で、誉められたものではありませんが、とにかく河井夫妻を買収罪で逮捕して有罪にすることを優先したということでしょう。

◆公職選挙法の改正が必要

―― 公選法は非常に曖昧でわかりづらいところがあります。もっと基準を明確にしたほうがいいと思います。

郷原 現行の公選法では、当選を得させる目的があったのかどうか、選挙運動なのか政治活動なのかは、当事者の認識や主観的要素によって決まります。選挙買収と実質的に変わらない行為が、当事者が選挙の目的と認めるかどうかに左右されるのです。

 河井事件で被買収者たちを起訴できたのは、被買収者側が処罰されることはないだろうという期待を抱き、「案里氏の参院選のためのお金と思った」と認める供述をしたからです。あの供述がなければ買収事件の立証は困難だったと思います。 

 現行の公選法にはどうしても限界があります。「選挙とカネ」の問題を繰り返さないためには、公選法を改正するしかありません。効果的な措置として考えられるのは、買収罪の規定とは別に、国政選挙に近い時期に行われる候補者から政党支部及び地方政治家への金銭の供与(寄附)を禁止する規定を設けることです。そうすれば買収まがいの金銭のやり取りを抑止することができます。

 公選法は199条の2の1項で、「公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)は、当該選挙区内にある者に対し、いかなる名義をもつてするを問わず、寄附をしてはならない」と規定していますが、「政党その他の政治団体若しくはその支部」に対しては「その限りではない」として寄付を認めています。

 一方、199条の5の3項では「公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)は、第199条の2第1項の規定にかかわらず、次項各号の区分による当該選挙ごとに一定期間、当該公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者に係る後援団体に対し、寄附をしてはならない」として、選挙ごとの一定期間、後援団体への寄付を禁じています。

 この「一定期間」とは同条4項で、衆議院議員の総選挙の場合は「衆議院議員の任期満了の日前90日に当たる日から当該総選挙の期日までの間又は衆議院の解散の日の翌日から当該総選挙の期日までの間」、参議院議員の通常選挙の場合は「参議院議員の任期満了の日前90日に当たる日から当該通常選挙の期日までの間」と規定しています。

 そこで、こうした規定を踏まえ、199条の5に「公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)は、第199条の2第1項の規定にかかわらず、次項各号の区分による当該選挙ごとに一定期間、政党その他の政治団体若しくはその支部に対して、寄附をしてはならない。ただし、当該政党等に定期的に定額を納付する場合はこの限りではない」という条文を追加することで、公職の候補者から政党・政治団体・支部への寄附も禁止するのです。定期的に支払われる会費などを除外するのは、選挙との関連性が希薄だからです。

 この「一定期間」は、河井事件や京都府連の問題などで公職の候補者から金銭提供があった時期が、任期満了の100日前ごろからのものが多かったこと、候補者のポスターの規制なども任期満了の180日前から始まるので、それに合わせて、180日程度にするのが妥当だと思います。

 政党やその他の政治団体、その支部に対する寄附は、政治活動の目的を実現するために必要であり、それ自体は禁止すべきではありません。しかし、公選法がいかなる目的のものであっても当該選挙区内にある者に対する寄附を一律に禁止している趣旨に照らせば、選挙との関連が疑われる一定の期間に関しては、定期的に支払われる会費などを除き、目的を問わず禁止することには十分合理性があります。

◆岸田総理は説明責任を果たせ

―― 明確な規定があったほうが、不必要な金銭のやり取りがなくなり、候補者たちにも都合がよいと思います。

郷原 任期満了の日前の180日間は公職の候補者から政党・政治団体・支部への寄附ができないことになれば、河井夫妻のように候補者たちがお金を持ってきても、「公選法で禁じられているから」と断ることができます。新潟や京都のような問題も起こりません。候補者たちも供託金さえ出せば立候補できるようになり、選挙に必要なお金は大幅に減ります。

 これは候補者の選定方法にも影響を与えると思います。自民党の国会議員たちは2世、3世の世襲議員や、地方議員からの成り上がりのような人たちばかりです。それ以外の人が候補者に選ばれても、地方議員たちにお金をばら撒く資金力がないと当選できないということもその原因の一つだと思います。選挙期間前の寄附の禁止が実現すれば、世襲議員や地方の成り上がりのような人以外でも、国会議員になる道が大きく拓けます。

 それと同時に、地方自治のあり方も変化するはずです。地方政治家へのばら撒きの背景には、地方議員の収入の問題もあります。もともと多くの地方自治体の議員たちは給与を低く抑えられています。そこで、彼らは政務調査費を流用することで資金を確保していましたが、全国の地方自治体で政務調査費の不正流用が発覚し、刑事事件化したことで、そのような方法がとれなくなりました。それが国会議員から地方政治家への資金提供につながってきたことは否定できないと思います。

 地方議会の位置づけや首長との関係は、すべての地方自治体で一律となっています。しかし、自治体の規模や地域の実情を考えると、あえて一律にする必要はありません。兼業で地方議員ができるように議会の運営方法を変え、地方自治体での民意の反映の方法にも多種多様な形態を認めれば、地方議員の収入の問題も解決できると思います。

―― 7月の参議院選挙までに公選法を改正すべきです。

郷原 今回の参院選では広島選挙区は宮沢洋一参院議員が自民党公認で出馬する予定になっています。宮沢氏は岸田総理が率いる宏池会に所属しており、河井事件当時の自民党広島県連会長です。しかも、宮沢氏が代表を務める「同党県参院選挙区第六支部」が2019年11月に県議11人に交付したと政治資金収支報告書に記載している各20万円について、克行氏の公判で、克行氏からの被買収者の県議の1人が、受け取ったのは「(参院選前の)昨年5月ぐらい」と証言しており、宮沢氏にも政治資金規正法違反(収支報告書虚偽記入)の疑いが生じています。

 広島であれだけ多くの地方議員が公職選挙法違反で起訴されたり失職している以上、この問題に触れずに選挙を戦うことはできません。何よりも広島は岸田氏の地元です。直接この問題に関わっていないとしても、総理として説明責任を果たすべきです。

 いま世間の注目はウクライナに集まり、多くの人たちがプーチン大統領やロシアの政治体制を批判しています。確かにロシアの民主主義がどこまで機能しているのか疑問はありますが、広島の問題を解決せずに選挙を行うなら、日本の民主主義も十分なものとは言えないでしょう。自民党や立憲民主党が公選法改正に関心がないなら、公明党や共産党、れいわ新選組などに主導してほしいと思います。

 公選法の問題は私自身が一貫して取り組んできたテーマでもあります。もし希望があればどこへでも講演に出かけていきますし、オンラインの講演もやります。一人でも多くの人に「選挙とカネ」の問題に関心を持ってもらいたいと思っています。
(4月1日 聞き手・構成 中村友哉 初出:月刊日本5月号>)

ごうはらのぶお●’55年生まれ。東京大学理学部卒業後、民間会社を経て、1983年検事任官。東京地検、長崎地検次席検事、法務総合研究所総括研究官等を経て、2006年退官。「法令遵守」からの脱却、「社会的要請への適応」としてのコンプライアンスの視点から、様々な分野の問題に斬り込む

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げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。

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