
自動運転車にとって、最大の障害はおそらく人間自身だろう。歩行者も車やバイク、自転車の運転者もルールに通りの動きをするとは限らない。それ故に事故が起きているのだ。
その為、自動運転車が安全に走行するには、道路上にいるすべての人の行動を予測しなければならない。これは発展著しいAI(人工知能)にとっても難題だ。何しろ人間は予測不能な動きをすることがあるのだから。
だがマサチューセッツ工科大学の開発した最新のAIはこの問題をある方法で解決した。簡単に言うと、細かく分割し、個別に分析するのだ。
道路状況を最小レベルに分割し、個別に分析
これまでのAIは、単純すぎる(歩行者が真っ直ぐしか歩かないと想定)、保守的すぎる(事故らないよう駐車場から動かない)、たった1人の動きしか予測できない(現実には大勢の車や歩行者がいる)といった欠点を抱えていた。そこで、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループか開発した進路予測AI「M2I」は、交通状況を相互作用が起きる最小レベルにまで分解した。
つまり2人、2台、1人と1台など、相互作用が起きる一対の最小レベルにまで分解し、その上で、交差点における車・自転車・歩行者の過去の行動データと、道路情報(位置や車線など)をもとに、両者がどう進むか予測するのだ。
車・自転車・歩行者をそれぞれエージェントと呼ぶ。具体的にはまず、2人のエージェントのうちいずれに通行の優先権があるか診断し、それぞれを「通行エージェント」と「待機エージェント」に分類。それから通行エージェントの進路を予測する。
さらに待機エージェントが、通行エージェントの行動に応じて、どのような行動をとるか予測。このように通行・待機エージェントのペアの進路をいくつも予測し、最終的に全体でもっとも起きやすい状況の組み合わせを6つ選び出す。
このようにしてM2Iは、8秒後までの未来を予測する。
それだけ先が読めれば、「歩行者がいる交差点に減速しながら接近し、歩行者が渡り終えたら加速」したり、「交差点を曲がる際に、幹線道路の車が通行するのを待つ」といった自動運転ができるようになる。
ポイントは、AIは2者のやりとりしか分析しないが、そこから道路全体で一番起こりそうな状況を予測できるというところだ。


人間の思考に近いアプローチ
研究グループは、Google傘下の自動運転車企業「ウェイモ社」の自動運転車が収集した実際の交通データを利用して、M2Iの性能を試している。6つの予測モデル(M2Iやウェイモ社のAIなど)で実際の道路状況を予測させてみたところ、M2Iがもっとも正確だったという。
またオーバーラップ率(2つの進路が重なってしまう確率、つまり衝突する確率)も圧倒的に低く、もっとも安全であることが確認された。更に使用メモリも少なく済むという。
研究グループによると、今回のAIモデル開発にあたっては、複雑なものを作るのではなく、人間の思考に近いアプローチが採用されたという。
周囲の人間の次の進路を予測するとき、人間はあらゆる可能性を考慮したりはせず、可能性が高いものだけを意識する。だから素早い判断が可能になる。
道路状況を小さな要素に分解するというアプローチには、もう1つ利点がある。
AIがなぜそのような判断をしたのか理解しやすくなるのだ。長い目で見れば、自動運転車の信頼性を高めることにつながるだろうという。

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今後の課題
現時点でM2Iは、交差点の道路すべてに一時停止サインがある状況などに対応できない。この状況では、どちらに優先権があるのかドライバー同士が判断できないからだ。これは将来の課題とされている。
また研究グループは、交差点のシミュレーションなどにもM2Iを利用する予定であるという。これができれば、自動運転車のアルゴリズムを検証したり、機能改善に必要となる膨大な運転データを合成したりできるようになるとのことだ。
完全なる自動運転車の登場はもうちょっと先のことになりそうだが、着実に一歩ずつ進んでいるようだ。
現在、この研究の未査読論文が『arXiv』(2022年2月24日投稿)で閲覧可能だ。
References:Predicting Others’ Behavior on the Road With Artificial Intelligence / written by hiroching / edited by / parumo