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火星から南極に飛来した隕石が地球外生命体探しの道筋を示した理由

カラパイア


 南極で発見されたそれは、素人目にはただの石ころにしか見えないかもしれない。しかし火星から落ちてきた「アラン・ヒルズ84001」と呼ばれる隕石は、この宇宙に存在するかもしれない生命についての理解を大きく前進させた。

 「我々は宇宙で孤独な存在なのか?」

 この問いに対する答えはまだ出ない。しかし、アラン・ヒルズ隕石は、少なくとも地球外生命の発見を至上命題とする宇宙生物学に革命を起こし、その道筋を示したのである。

南極は隕石天国

 今から1700万年ほど前、巨大な岩石が火星に衝突し、破片を撒き散らした。破片は秒速4.8キロという猛スピードで吹き飛び、火星の重力を振り切って、宇宙の旅に出た。

 そして1万3000年前、そのうちの1つが地球に到達し、南極横断山脈にあるアラン・ヒルズというY字の尾根に落下した。

 このあたりは研究者から「隕石天国」と呼ばれる、隕石探しのメッカだ。これまで2万2000個の隕石が発見されており、太陽系の形成についてさまざまなヒントを与えてくれた。

 だが1984年12月27日に「南極隕石探査(ANSMET)」の調査隊によって発見された「アラン・ヒルズ84001(ALH84001)隕石」は、そうした中でももっとも有名な隕石となった。

 その中から、生命の化石を思わせる小さな構造が発見されたのである。

左:南極の地図。点線は南極横断山脈を表し、赤く塗られたところがアラン・ヒルズ。右上:南極横断山脈。右下:アラン・ヒルズのY字の尾根(青点)の衛星画像と、隕石の発見場所(赤点) / image credit:AAD/USGS/NASA

火星から飛来した隕石に生命の痕跡か?

 その後、ALH84001はさまざまな研究者によって検査されてきたが、1996年にNASAジョンソン宇宙センターのデビッド・マッケイが驚愕の発見をする。その中から炭酸塩鉱物と小さな虫のような構造が見つかったのだ。

 マッケイらは、この微細構造は大昔のバクテリアの化石であると推測した。もしも本当なら、地球外生命の存在を示す証拠がついに見つかったことになる。

ALH84001の電子顕微鏡画像。小さな虫ような構造がある / image credit:NASA

 この仮説は、Scienceで論文が発表される数日前、当時のクリントン米大統領直々に公表された。「この発見が確認されれば、間違いなく科学史上最大の宇宙に関する発見になるだろう」と。

Pres. Clinton’s Remarks on the Possible Discovery of Life on Mars (1996)

 マスコミは騒然となり、「初期の火星に原始的な生命が存在した証拠を発見」といったセンセーショナルな見出しが並んだ。一方、それを発見した科学者たちはもう少し冷静だった。

 当時、論文の共著者エベレット・ギブソンは、「この証拠を科学コミュニティに委ね、検証・補強・反論をしてもらう。

 科学的プロセスの一環として、できるものなら反証してもらう」と発言。そしてギブソンが望んだように、論文はさまざまな方向から検証された。

 あれから20年が経った今、ALH84001で見つかった構造が地球外生命の化石であると考える研究者はほとんどいない。

 それでも宇宙生物学が注目され、NASAなどの宇宙機関が火星の調査を加速させる大切なきっかけにはなったのは事実だ。

photo by Pixabay

マッケイの論文の解説を頼まれた地質学者

 クリントン大統領が火星で生命を発見と発表したとき、地質学者のラルフ・ハーヴェイは実家まで1900キロの旅をしていた。

 彼はほんの4週間前、ジョンソン宇宙センターでの仕事を終え、ALH84001の奇妙な特徴についての論文を発表したばかりだった。この論文では、生物のような痕跡は、大昔の火星の高温の中で形成されたのではないかと推測している。

 この論文がマスコミから注目されることはなかったが、彼は実家に到着して驚くことになった。

 母親からマスコミからの電話が鳴りっぱなしだと伝えられたからだ。マスコミはマッケイの論文を解説するには、同僚の彼が適任と考えたのだ。

雪原で隕石を評価するANSMETの研究者。黒っぽい表面は、地球外が起源であることを示すサインだ image credit:NASA/JSC/Ansmet

火星に生命体は存在したのか?

 ALH84001が世間を魅了した1996年当時、ハーヴェイは「南極隕石探査(ANSMET)」を引き継ぎ、南極での隕石探しを指揮していた。

 極地に落下する隕石は、地球に落下する隕石全体の5分の1を占める。だが南極が隕石探しのメッカとされるのは、もう1つ理由がある。

 そこが真っ白な雪に覆われていることだ。黒っぽい隕石を探すには真っ白な風景がぴったりなのである。

 ANSMETによる調査が最初に行われたのは、1976年のことだ。以来2万2000個の隕石が発見されており、そのほとんどが小惑星や月が起源だ。

 このプロジェクトの成果としては、地球で最初に発見された月の隕石「エイリアンヒルズ77005(ALH77005)」などが挙げられるが、もっとも有名なのは「ALH84001」だ。

 ハーヴェイの考えでは、隕石の微細構造が火星の生命の痕跡であることを示す証拠はない。

 むしろマッケイの仮説には真っ向から反対しており、火星は生命には過酷すぎる「死んだ惑星説」の代表者だった。

 だが、たとえALH84001が火星の生命の証拠ではなかったとしても、それがANSMETの重要性を伝えてくれる素晴らしい隕石であることに違いはない。

ALH84001はジョンソン宇宙センターの一部であるNASA隕石処理研究所で保管されている / image credit:NASA/JSC/Stanford University

存続の危機にある南極隕石探査プロジェクト

 今、このプロジェクトは危機にあるという。まず、南極は世界のどこよりも急激に温暖化が進んでいる。

 それによって隕石の捜索範囲が広がる可能性もあるが、同じく隕石が流されて失われる可能性もある。

 資金の問題もある。ANSMETは、1980年からアメリカ国立科学財団による資金援助を受け、さらにNASAとスミソニアン博物館からも支援されてきた。

 しかし2013年に資金援助は終了、それをNASAが引き継いだ。

 2016年にはアメリカ国立科学財団の支援の下、NASAが資金援助するとの契約が結ばれたが、2022年から支援は取りやめになってしまった。

 また新型コロナの影響で、フィールドワークも縮小された。

 ALH84001の発見から半世紀が経ったが、火星を覗き見ることができる地球の窓が閉ざされてしまうと、ハーヴェイは懸念する。

Photo by Tanya Grypachevskaya on Unsplash

最新論文も火星の生命仮説を否定

 1996年に世界がALH84001に注目したとき、惑星科学者のアンドリュー・スティールもまた、この隕石を自分の目で確かめねばと思った。

 当時、スティールは、原子間力顕微鏡法という方法でバクテリアを観察していた。この方法ならば、バクテリアの膜構造のような微細なナノ世界を覗き見ることができる。これでALH84001を調べたら何が見えてくるだろうか?

 論文発表から10年、マッケイらの仮説は、化学分析・コンピューターモデリング・他の隕石との比較など、さまざまな方法によって検証されてきた。スティール自身は1998年に論文を発表。

 ALH84001を検査する際に用いられた特殊なコーティングによって生じた可能性があると推測している。

 スティールはさらに今年1月、新たな論文をScienceで発表した。2022年の最新論文では、火星で有機化合物が生成される自然なプロセスについて明らかにしている。

 それは40億年前のまだ水があった頃の火星で起きた化学反応で、それによって生成された有機化合物には、生命の基本的な構成要素である炭素も含まれている。

 確かにALH84001の有機分子は火星で生成されたかもしれない。だが、地球外生命が起源ではない。これがスティールの結論だ。

パーシビアランスが調査する、かつて湖だった火星のジェゼロクレーター。そこかしこに火星の岩が転がっている / image credit:/NASA/JPL-Caltech/ASU/MSSS

隕石に生命の痕跡がなかったが火星生命仮説を否定するわけではない

 だがスティールによれば、彼の最新論文は、マッケイらの火星生命仮説に対する批判ではないという。むしろその逆だ。

 初期の火星で生成された有機分子は、条件さえ整えば、生命誕生につながった可能性すらあるからだ。

 そしてこの結論は、火星だけの話ではなく、火山から溶岩が噴き出し、塩水と混ざることがある環境にも当てはまる。50年前に南極で採取された隕石からこのような驚愕の事実が明らかになったのである。

photo by Pixabay

科学とは仮説を立て検証を繰り返すこと

 マッケイらNASAの科学者は、1996年の当初の論文からこのような展開になるとは想像もしなかったことだろう。

 スティールは、科学とは仮説を立て、これを検証する営みだと話す。

 マッケイらの論文は、太陽系の歴史、地球外生命の捜索、地球外生命の姿といったことを解明する旅の出発点になった。

 後者の2点は特に重要なことだ。地球外生命を探してALH84001を調べた研究者は、地球で見られるような微生物の発見を期待した。

 だが、地球以外の場所にいる生命は、地球のものとはまるで違うかもしれない。どのような化学物質で構成されており、どのような方法で複製するのか、それすらわからない。生命の概念すら変えてしまう可能性だってある。

 ALH84001だけではこうした深淵な問いに答えることはできない。

火星から採取した岩石に手掛かりが

 だが火星で採取した岩石なら違う手がかりがあるかもしれない。だからこそ、NASAは火星に探査車「パーシビアランス」を送り込んだ。

 現在、パーシビアランスは「ジェゼロ」という大昔は湖だった火星のクレーターにいる。ここで岩石を掘削して拾い上げては、チタン製のカプセルに入れている。ここまでは簡単だ。

 しかし、それを地球に持ち帰るのは難しい。NASAが今後10年で描くプランによれば、また別の探査車とロケットを火星に送り込み、それでパーシビアランスが回収したサンプルを地球に届けるのだという。

将来的に開発される火星のサンプル回収機の想像図 / image credit:NASA/ESA/JPL-Caltech

 なお、この計画とANSMETを比較してみるのは大切なことだ。

 パーシビアランス・ミッションだけ(サンプル回収用探査車/ロケットのコストは含まれていない)でもで27億ドル(3500億円)かかるが、ANSMETはそのほんの一部の資金だけでいい。

 ただし、もしも火星の岩石を無事地球に持ち帰ることができたら、科学者は最高に無垢な火星の岩石を手に入れることができる。それは火星の過去へと誘うタイムマシンのようなものだ。

 干上がった火星の湖から採取された岩石を突きまわす未来の研究者は、地球以外の惑星の手付かずのサンプルを調べる最初の人類になる。

 だが彼らの問いは、マッケイらと同じだ。「我々は宇宙で孤独な存在なのか?」である。

 この問いに答えが出たその日、私たちはそれが南極での隕石探しやALH84001が残した遺産だったと振り返るのだろうか。

Organic synthesis associated with serpentinization and carbonation on early Mars / written by hiroching / edited by / parumo

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