親が子どもに身につけてほしい力として、真っ先に挙げられるコミュニケーション力。これまで日本では「和を以て貴しとなす」という言葉があるように、波風を立てない、協調性の高いコミュニケーションが求められてきた。しかし、グローバル化の進むこれからの時代に必要とされるのは、お互いの違いを受け入れ、多様性を尊重するコミュニケーション力だ。
そうした中で、いま注目を集めているのが、日本の子どもたちがインターナショナルスクールの子どもたちと一緒になってラグビーやタグラグビー(年少者でも楽しめるようにタックルなどの接触プレーを排除したラグビー)を楽しめる「渋谷インターナショナルラグビークラブ」だ。グローバルコミュニティーの中で子どもたちの多様性が育まれると、保護者たちから評判も上々だという。そこでここでは、クラブの設立者である徳増浩司氏に、設立の動機やクラブの特徴、子どもたちに授けたい経験やクラブのモットーに込めた想いなどについて話を伺った。
世界に羽ばたく人材を育てる第一歩は、英語への苦手意識をなくすことから

毎週日曜日の午前中に、都内の昭和女子大学内にあるブリティッシュスクールのグラウンドで元気いっぱいに汗を流す大勢の子どもたち。下は4歳から上は18歳まで、年代によって分けられた約190名の生徒が在籍する「渋谷インターナショナルラグビークラブ(SIRC)」の特徴は、なんと言っても他のクラブにはない、国際色豊かな環境にある。
通っている生徒の約4割は、日本で暮らす海外出身の子どもたち。欧米諸国からアジア圏まで、20カ国以上のルーツを持つ子どもたちと日本の子どもたちが一緒になってラグビーやタグラグビーを楽しむ。加えて、指導を行うコーチ陣も半数以上が外国人だ。クラスはすべて英語で行われ、一人ひとりの個性を大切にしたコーチングを実践しながら、いろいろな国籍の子どもたちが互いにコミュニケーションできる場を提供している。
「多くの子どもたちに国籍を問わずラグビーを楽しんでもらいたい。そんな想いから設立したSIRCが掲げるモットーは、ラグビーを通じて世界中に友だちをつくること。日本だけにとどまらず、世界に羽ばたいていける人材に育ってほしいとの願いがあるからです。そのため、まずは国籍というバリアを取り払ってたくさんの友だちと仲良くなれるよう、幼い頃から英語に慣れ親しむ時間を大切にしています」(徳増氏)

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SIRCでは、コーチの指導はすべて英語だ。当然、クラブに入った時期やもともとの会話力によって能力差が出てしまうものだが、それでも英語での指導を徹底している。その理由には、幼い頃から少しでも英語でコミュニケーションを取れた経験や気持ちが通じ合う体験ができれば、英語への苦手意識を払拭できるという狙いがある。事実、SIRCの子どもたちは、ラグビーを通じて生きた英語に触れ合うことで、自然と英語が話せるようになっていく。
「また、世界中に友だちをつくるには、自分の気持ちや考えを相手に伝えるコミュニケーション力の育成も欠かせません。子どものうちから自分とは違うカルチャーや考え方と出会い、世の中にはいろんな人がいるんだという事実を学ぶことができれば、“違い”を前提にしたコミュニケーションを図ることができます。さまざまな国籍の子どもたちが在籍するSIRCには、そうした多様性への理解を育める環境があります」(徳増氏)
徳増氏が子どもたちに伝えたいのは、主体的な学びとは、何がしたいかという目的が先にあるということ。SIRCの子どもたちは、ラグビーで友だちと会話をしたい、仲良くなりたいといった強い動機があるからこそ、そのために「英語で話そう」「他の国々の文化や習慣を知ろう」といった自発的な行動に取り組めている。
どんな運動レベルの子どもでもラグビーを楽しめるよう、褒めて伸ばす指導を実践

SIRCでは、もうひとつ大切にしている価値観がある。それは「ラグビーをエンジョイしよう!」という考え方だ。
日本では、ラグビーなどのスポーツは我慢して頑張ることが美徳で、それが勝利や人格形成につながると考えられてきた。しかし、スポーツの発祥の地であるイギリスでは、「スポーツは楽しむもの」という考え方が一般的だ。徳増氏がラグビー教育を学んだ地がイギリス南西部にあるウェールズであることや、コーチ陣も英語圏の出身者であることから、SIRCではラグビーを楽しむことを何よりも優先させている。
「スポーツは勝つことや何かを我慢することが目的なのではなく、プレーを楽しむこと自体が一番大切なんですね。そうしたスポーツの魅力を存分に感じてもらうために、SIRCではどんな運動レベルの子どもでも楽しめるラグビー指導を心がけています。その際、キーワードとなるのは、子どもたちを褒めて伸ばすこと。コーチたちは先週よりもパスがよくできていたら、『よくやった! 自分たちに拍手を送ろう』と称えますし、たとえミスをしてもそれを怒るのではなく、『Unlucky!(運が悪かった)Try again next time(次にがんばろう)』とフォローをし、自信を持たせます。みんなで褒め合うカルチャーが浸透することで、子どもたちは自然とSIRCに通うのが楽しくなり、ラグビーをエンジョイできるようになるんです」(徳増氏)
