市川春子 | ゾッとしたり、ドキドキしたり、「わからない」がおもしろい
市川春子 | ゾッとしたり、ドキドキしたり、「わからない」がおもしろい
「今から遠い未来、僕らは『宝石』になった」。市川春子さんは千葉に生まれ育ち、大学進学を機に北海道・札幌へ移住しました。現在も暮らすかの地は、都会でありながら日本最大の豪雪地帯です。おびただしい偶然が、積もり積もって必然に変わる大自然のそば。そこは「人間とは何か?」という問いを突き進めるには、最適な地なのでした。
市川春子

なんで不安になるんだろう?
なんで私は怖いと思うんだろう?

――ここで少し、プロフィール的なことを伺っていければと思います。市川さんは北海道在住ですが、出身は千葉県なんですよね?

市川春子 (以下:市川) はい。子供の頃は、家の隣が空き地だったので、宝探しみたいに、珍しい花や虫がいないかなって何時間も探して遊んでいました。
 大学進学で北海道に来たんですが、関東圏以外に行ってみたいと思ったからです。この土地に強い憧れがあったわけではなかったんですが、やっぱり自然がおそろしく綺麗な場所なので、自分の描くものに影響しているとは思います。

市川春子

――大学卒業後はデザイン会社に就職し、「虫と歌」でアフタヌーン四季賞・大賞を受賞します。応募のきっかけは?

市川デザインの仕事って、クライアントの要望ありきの仕事なんです。それはそれでおもしろいものではあるんですが、自分の考えを全部盛り込んだものを、企画・編集・レイアウトと何から何まで自分一人で、力一杯やってみたいと思いました。  それができるとしたら、漫画じゃないかなあとは漠然と思っていて。初めてちゃんと描いた漫画が「虫と歌」です。これがダメなら諦めるつもりで、一発勝負でしたね。

――デビュー後は年に1本ペースで読み切り短編を発表されていました。今は月イチのハイペースで、長編連載です。

市川時間ができたら、最近は道内をあちこち旅行したりしていますね。川や海辺の石を拾う趣味があるんですよ。「これはハンバーグ石だな」とか。

――結構ありそうですよ、ハンバーグ型の石(笑)。

市川いや、想像以上にハンバーグなのがあるんです。それを持ち帰って、分別して収納して、ときどき見る。鉱物標本の世界ってレア度とか形や色の美しさが大事ですけど、石は見立ての世界なんですよ。最近始めたのは……「スイセキ」ってわかります?

――スイセキ? どんな字を書くんですか?

市川水の石で、「水石」です。床の間とか、家の庭によく石が置いてあるじゃないですか。あれって石を山に見立てたり、滝に見立てたりしているんです。
 美しい曲線を描く石を探してきて、野ざらしにしてときどき水をかけたりしていると、ちょっと表面の色が変化して、こなれてくる。それを見ながらいろいろ妄想するという、おそろしい世界です。でも、名品と呼ばれている石は本当にすごい。後醍醐天皇が火事のときに大切だからと持ちだした石なんて、やっぱり独特の雰囲気があるんですよ。

市川春子
『水石 (NHK美の壺)』NHK「美の壺」制作班

――それを自分もやっているぞ、と。

市川とりあえず、川で拾った石を育てるようなことを始めたところです。今私の手元にあるのはこれくらいですね(10センチ四方くらいに手を広げて)。
 ルールがあって、石に加工しちゃいけないんですよ。拾ってきた石を見て、ただひたすら妄想するんです。この石が世界だったら、私はここら辺に住む……とか。

――自然を相手に、日々イマジネーションを働かせている様子がよくわかりました(笑)。一度、市川さんの視線で世界を見てみたいです。実際のところ、市川さんはこの世界をどんなふうに眺めて、どんなふうに楽しんでいるんですか?

市川私は「わからない」という言葉が一番好きなんですよ。生物の図鑑に「詳しい生態はまだわからない」と書いてあったりするじゃないですか。そういったフレーズに一番、想像力が働きます。
 人間は一生懸命研究を続けて、一生懸命考え続けているけど、まだまだ世界はわからないことだらけで。でも、そうやって迷ったり考えたりし続けるということに価値があると思うし、私もその営みに交じりたいと思うんです。

――「わからない」ことは、不安なことではないですか?

市川不安になるのが楽しいんですよ。ドキドキしたり、ゾッとしたり、不安になるものを見つめてしまう癖があるんです。「なんで不安になるんだろう?」とか、「なんでこれを私は怖いと思うんだろう?」と元を辿っていくのがおもしろい。マンガでも、むやみやたらと不安なものを描こうとしてしまいますね。

市川春子

――不安を描く際の、ポイントとは?

市川極端な話、水平線がななめなだけでも不安になるんです。どこがどうというよりも、画面全体が醸し出す雰囲気ということかもしれません。絵の中から、情報だけでなく、雰囲気が出るとうれしいですね。そこのところに、漫画という、画と話を同時に描く表現の意味があるんじゃないかなと思っています。

執筆:吉田大助

(更新日:2016年1月10日)

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