市川春子 | “はかりしれないほどの光”でも、すべては救えない
市川春子 | “はかりしれないほどの光”でも、すべては救えない
「今から遠い未来、僕らは『宝石』になった」。デビュー作で、手塚治虫文化賞新生賞を受賞し、寡作ながら天才との呼び声も高い市川春子さんが、初めての長編連載『宝石の国』で大きな変化を遂げています。キャラクター化した美しい宝石たちが天からの「敵」と戦うこの物語は、仏教から着想したといいます。
市川春子
極楽浄土の宝石はいったいどこで採れるの?

“はかりしれないほどの光”でも、すべては救えない

「人間」と、「人間以外の生き物」との間に生まれるドラマを描いてきた市川さんが、初めての長編連載で「宝石」を題材に選んだと聞いて驚かされました。以前から宝石に興味があったんでしょうか?

市川春子 以下:市川 宝石にもともとくわしいということはなかったんです。もともとの大元でいうと、私の高校が仏教校だったんですね。入るまで知らなかったんですけど。

知らずに入るとどんな感じですか?

市川入学式の日に教室に行くと、自分の席に文庫本サイズの箱が置いてありました。表に「入学祝い」と書いてあるからなんだろうと思って開けてみたら、数珠が入ってまして。朝礼で、お経を読むんですよ。

それはびっくりしちゃいますね。

市川授業でも、普通の高校だと「倫理」という科目があると思うんですけど、それにあたる科目が「仏教」で、親鸞の勉強を三年間しましたね。  その授業の時、仏教の教典のひとつに『無量寿経(むりょうじゅきょう)』というものがあることを知りました。その一節に、「西方極楽浄土は宝石でできている」と書いてあるんですよ。極楽浄土の地は宝石でできているらしいんです。

その話、もう少しくわしく聞かせてほしいです。

市川「無量寿」というのは、「はかりしれないほどの光」といった意味です。根源となる仏の教えが書いてあるんですが、極楽浄土がいかに華美で荘厳かについて描写されているんですよ。
そのお経を高校在学中ずっと読まさているうちに、「極楽」と言われる“すべてのもの”が助かるような所でも、宝石は装飾にしかならないんだなとぼんやり思いました。

その発想はすごく「市川春子らしい」と思います。人間ではなく、宝石の側に感情移入して、宝石のことを「かわいそう」と感じたわけですよね?

市川「かわいそう」とまではいかないですが、仏の力をもってしも、すべてのものを救うというのは難しいんだなと思いました。もちろん、教典の中に出てくる宝石は比喩だとは思うんです。当時インドにあったもののなかで宝石はもっとも価値あるものだから、イコールお坊さんの徳といったもののイメージで。広く大衆に、「極楽浄土は宝石でできているようなすばらしい所」と言うために使われたんだろうな、と。

でも、その教えを文字通り受け止める、真に受けることによって、『宝石の国』の物語の種が生まれた。

市川「極楽浄土の宝石はどこかで採れるのかな?」と思ったんですよ。お経によると自然発生らしいんですが、浄土を飾り付けるための宝石を、狩りに来る仏たちの話……なんておもしろいかもなと思ったんです。

市川春子

高校の頃思いついたアイデアを、初の長編連載で採用したのはなぜですか?

市川デビュー前から自分のウェブサイトで、そのイメージに着想を得たマンガを描いていたんです。1話が5、6ページくらいのものを数回、合計で20Pくらいかな。その後、「虫と歌」を描いてデビューしてしまったので、しばらくこの世界からは遠ざかったんですけど、もしも長編連載をやることになれば、続きをやりたいなと思っていました。

20枚の短編を描いた時点で、ここには深いものがつまっているぞという感触があった?

市川最初の短編を描いた時も、今でも、このお話がこの先どうなっていくかは自分でもわからないんです。ただ、そのわからなさに惹かれた、という感じですね。

『宝石の国』告知PV

執筆:吉田大助

(更新日:2016年1月10日)

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