
■導入の狙いや制度の本質
すでに「週休3日制」を導入している日本企業の特長や狙いを聞いてみた。
「先駆的に“新しい働き方をデザインする”という発想があるのが特長です。働く場所や時間の柔軟性を高めることで、有能な人材の離職予防や多様な属性をもつ人材の獲得につながります。それらを実現し、“新たなイノベーションの創出を狙う”という経営戦略でしょう」(松久さん)
「週休3日制」を導入したからといって、ただ単純に勤務日数が変わるというわけではないようだ。
「本質は『限られた時間内に成果を出すため、ふさわしい場所を自ら考える』という働き方です。『週休3日制』はこのような発想に基づく施策のひとつです。労働者に『新たな時間』を提供し、スキルアップや副業、地域社会とのつながりの創生などを推進することで、本業へのシナジー効果も期待できます」(松久さん)
労働者にとっても「育児や介護、病気やケガの治療などと仕事を両立しやすいメリットがあります」と松久さん。では、社会全体はどう変わるのか。
「『限られた資源(特に時間)でいかに仕事を成し遂げるか』ということを考慮せざるを得なくなり、労働時間の縮減と生産性向上が期待できます。しかし、勤務日である週4日間の労働時間の増加や、週休2日制を選択する従業員への労働時間のしわ寄せが懸念されます」(松久さん)
それらの弊害をなくすために必要なことは何だろう。
「個々が仕事によってつくり出す『成果』を、チームで明確に定義づけることが求められます。そのために何をすべきか、限られた時間を自らコントロールしていく能力も欠かせません。仕事の可視化と共有化を図り、『誰が休んでも回る仕組み』を確立することも大切です」(松久さん)
個々の自立性や、従業員同士のチームワークが肝になるのだ。
■今後導入が広まる可能性
「週休3日制」が導入されづらい理由を教えてもらった。
「前例主義的な発想や、“他社の動向を見てから検討しよう”という企業が数多く存在することが、導入されない最大の理由です。手段やデメリットばかりが目に留まり、目的や狙いを十分議論されていないことも多いです」(松久さん)
加えて、多くの労働者に「旧来の発想」が深く根付いていることも問題とのこと。
「日本では、仕事が人に依存している“属人性の高い状態”が長年放置されています。その上、“よい仕事には時間をかける必要がある”と考える経営者や労働者は多いです。『週休3日にしたら業績が悪化し、結果的に給与も減る』といった考え方や仕組みがある限り、社会全体で導入されることは難しいでしょう」(松久さん)
将来的にはどうだろう。
「若い世代がこの制度を歓迎しているという調査結果から、10~20年単位で切り替わる可能性は高いです。終身雇用を信用しない世代は、自分自身がいかに価値ある人材であり続けるかを重視します。会社勤めをする日数を週の数日に減らし、副業や起業を行うなど、多様な選択肢や働き方のグラデーションが生じるかもしれません」(松久さん)
そうなると、新たな課題も見えてくるという。
「平日に休日を取得する場合、個別に休むことが考えられます。属人性の高い組織においては休みを取りづらくなり、有休休暇や男性の育休取得が進まない現状と一致します」(松久さん)
とはいえ、新型コロナウイルスの流行により暮らしが大きく変化した現在は、新たな働き方が模索されるきっかけになり得るそうだ。
「『週休3日制』は、以前に比べ働く場所が柔軟になったコロナ以降の現状をさらに進化させ、『場所や時間を問わず成果を出す働き方』への礎になる可能性が高いです。誰が休んでも仕事が回る職場を作ることは、いま各企業に求められている『ダイバーシティ&インクルージョン』の大前提でもあります」(松久さん)
多様な人材を受け入れ、個々を尊重し生産性を高めることが、「ダイバーシティ&インクルージョン」の基本概念だ。ここ最近では、“一人ひとりの多様な生き方が尊重されるべき”という意見をもつ人も増えただろう。「週休3日制」の導入は、その考え方を具体的に落とし込んだ制度として日本社会で機能していくのか、今後も注目していきたい。
●専門家プロフィール:松久 晃士(株式会社ワーク・ライフバランス)
株式会社ワーク・ライフバランス執行役員。(財)生涯学習開発財団 認定コーチ。40社以上の働き方改革プロジェクトを支援し、1万名以上のビジネスパーソンにアドバイスを提供。静岡県三島市に移住し育児休業も経験。twitter (@MatsuhisaKoji)も好評。
教えて!goo スタッフ(Oshiete Staff)