東京2020パラリンピックでは視覚障がい者マラソンの「伴走者(ガイドランナー)」に注目した人も多いのでは? 冬のパラリンピックでも、クロスカントリースキーなどの競技で表彰台に上がるとメダルをもらえる「ガイドスキーヤー」がいる。視覚障がいのある選手を先導して滑るガイドの役割とは。平昌2018冬季パラリンピックで高村和人選手のガイドを務め、北京2022冬季パラリンピックにも有安諒平選手とともに出場する日本代表・藤田佑平さんに聞いた。
健常のトップ選手からパラリンピックのガイドへ
学生時代、オリンピック出場を目指すトップ選手だった藤田さん。だが、大学2年のとき、喘息を発症したのをきっかけに夢は遠ざかった。味わったのは大きな挫折感。しかし、2018年、日の丸をつけて雪上を駆け抜ける夢が思わぬ形で実現する。高村の競技アシスタントとして、平昌パラリンピックに出場を果たした。
「大学卒業と同時に選手としては区切りをつけました。でもその約半年後、『高村和人を平昌パラリンピックに連れて行ってくれないか』という打診があり、ガイド兼コーチに就任しました。自分の叶えられなかった夢を託すつもりで、オリンピックに行ける選手を育成できたらなと、大学院でコーチングの勉強をしている時期でした」

photo by Hiroaki Yoda
ガイドのキャリアをスタートさせたのは2015年9月。正式に就任する前には、パラノルディック日本チームのニュージーランド合宿でガイドの手伝いもした。
「お手伝いの話をいただいたとき、真っ先にしたのが、自分も現役復帰することでした。ガイドをできるだけの体力を戻さなきゃ! と。走りながら選手に指示を出す役目なので、体力がなければ始まらないからです。その後、コーチとしてもどんなスキルが必要なのかを考え始めました。たとえば高村選手は全盲だったので、僕がいいフォームをつくり、体を触ってもらう。そのうえで、今度は僕が選手の体に触ってフォームをつくり、『このフォームでは、ここの筋肉を使いましょう』などと一つひとつ説明していくという方法をとりました」
奥深いガイドスキーヤーという役割
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実際に藤田さんは滑走中にどんなガイドをしているのだろうか。
視覚障がいの選手はガイドの声や音を頼りにコースを滑ります。「はーい」「右」「左」とか「上ります」「下ります」などの言葉が中心になります。
コースはアップダウンがあり、天候や気温によって雪の状態も変わる。バランスを保つのが難しい視覚障がい選手に、フォームの修正はもちろんのこと、走法変更の指示をすることもある。
コース上に凸凹があり、バランスを崩しそうと思える場所があれば、僕は「Wポール!」と声をかけます。左右のポールを同時に突き、後方に強く押して滑るのが「Wポーリング走法」。クロスカントリースキーは、基本的に足を交互に浮かせて滑りますが、Wポーリングでは、両足が雪面に設置するので、バランスがとりやすく確実に滑れるんです。世界のトップ選手は、この走法がうまいですね。

photo by X-1
クロスカントリースキーには、あらかじめコースにつけられた2本のレールに沿って滑る「クラシカル種目」と、アイススケートのように足をハの字にして滑る「フリー種目」がある。ガイドはどちらが難しい?
視覚障がいのある選手にとって、より難しいのは「クラシカル」。レールの幅はだいたい10㎝くらいなので、レールに入り続けることが難しいんです。目からの情報がない、もしくは少ないので、急カーブでうまく板がわだちにはまらないとバーンと弾かれてしまう。当然、ガイドも難しいです。
ひとくちに視覚障がいといっても、全盲の選手もいれば弱視の選手もいる。声がけの内容にも違いは……?
北京パラリンピックに出場する有安選手は弱視です。見え方の特性として、視野の中心は欠けているけれど周りは少し見えます。視覚情報がある分、有安選手は、少しのカーブを曲がるときに、他の選手が滑ったシュプール(足跡)やカッター(溝)にはじかれてしまうことがあるので、曲がるときには「3、2、1、いま」という合図をしています。
実はこの合図、全盲の高村さんのガイド時代には使っていませんでした。最初は、全盲の選手の方がたくさん声がけするものだと思っていましたが、弱視選手のほうが見える分、ガイドすることが難しい……。弱視の選手の方が全盲の選手よりもスピードがあってガイドもキツいというのもありますし、「弱視だからここは何も言わなくてもいいかな」と思ってしまうことがあるんです。ガイドとして課題としている部分でもあります。

photo by Hiroaki Yoda
下り坂は転倒の恐れもある。どんな声がけをしているのか?
恐怖心をなくすために「いまから下るよ」とか、「この先、大きい木があるから、ここだけは絶対に転ばないでね」とか、安心して滑るための情報を伝えます。クロスカントリースキーは、速いときで時速60kmくらいスピードが出る。選手はそれを目が見えないなかで滑るのだから、恐怖心も大きいはずです。
さらに視覚障がいクラスでは、安全確保のため、下りなど定められたエリアにおいて「ホールディング」という動作が認められる。
僕のストックを選手に差し出して導く技術です。一人で下ると危ない箇所などで使います。命綱のようなものですね。
