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【小説】こんなメンタルの弱い自分に、明日への希望などない

幻冬舎ゴールドライフオンライン

※本記事は、樹亜希氏の書籍『双頭の鷲は啼いたか』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。

双頭の鷲は啼いたか

街のショウウインドウにしょぼくれた若者が映る。猫背で痩せている、疲れた若者は自分だ。とぼとぼと迷子のように歩いていたタケルは少し、事件の事で気を使い疲れ気味であった。

やっとたどりついた自分の部屋の前でため息をついた。思えばこの部屋も大学に入学してからずっと同じで何度更新してきたことか、まるで自分の最終地点みたいになっていた。この先おじいさんになってもこの部屋で一人、死んでいくのだろうか。結婚もせずに一人、このままで。

こんなメンタルの弱い自分に、明日への希望とかそんなものもなくただ、毎日浮き草みたいにゆらゆらと。刑事たちに質問されながらも、タケルは篠原さんの顔が浮かんでこなかった。

実は初めから彼女の顔も正確に覚えてなんかいない。ただ、毎日同じ仕事場にいて、この人が篠原さんだと認知しているということだけ。これが事故のせいなのか、自分がそんな人間なのか。まあ、友人の浩介や元カノの薫の顔は今も思い出せるから、きっと篠原さんは、自分の中ではもうどこにもいなかった。

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今朝の目覚めはいつになく爽快だ。嫌な悪夢も見ることなく朝まで眠ることができた。きっと心底疲れていたのだろう。公休とはいえ、自分の代わりがいない状態だから午前に病院に行き、もしも早く終わったら職場に行けばいいかと思った。

地下鉄の長い通路から地上に出ると、目の前に大きな建物が目に入った。鴻池第一病院、大きな病院だ。バイクで事故に遭った場所からは他の病院も大学病院もあるのに、この病院に運ばれた。

母が言うには脳外科ではこの病院は有名だからということだった。総合受付も待合もまるでホテルのようだ。診察券がないと受付で告げると 、生年月日を聞かれて本人確認された。住基カードが保険証の代わりになっている。パソコンで検索してくれた。二階の三番の前でお待ちくださいと受付で手の甲にバーコードを印字された。これは黄色だが、特殊なインクらしく後で精算するときに普通に消える布で拭き取られるそうだ。院内はペーパーレスだった。

二階にエレベーターで上がると、大きな黄緑色のソファが並ぶ。間隔を開けて座るタイプの待合室だ。エントランスの窓からは、中庭の木々の緑がまぶしく映った。巨大なモニターでは病院の紹介や製薬会社の広告が繰り返されていた。

自分の番が来たら表示されるので 、待たされている患者は一人、また一人とそれぞれの診療科へ消えていく。ぼんやりと見ていると自分の番が回ってきた。

三番と書かれた緑の黄緑のドアを開けて入ると、中は白い冷たい感じの小さな診察室で、四十歳代の女医が看護師を伴い大きな机に座りパソコンを見ていた。

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