top_line

【 最新ニュースをアプリでサクサク読むなら! 】

“ゲーム障害”が国際疾病になったいま、ゲーム規制条例を科学的に見直してみる

Game*Spark

“ゲーム障害”が国際疾病になったいま、ゲーム規制条例を科学的に見直してみる

いまだに一部の人々からは、子どもに害をなす存在として取りざたされがちなビデオゲームですが、2022年1月1日付でWorld Health Organization(WHO)によりゲーム障害(Gaming disorder)を含めた「国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)」が発効されました。

一方日本国内では、2020年4月1日に香川県にて施行された子供(18歳未満)のゲーム、およびネット利用を一日当たり60分(休日の場合は90分)制限する「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」(以下、ゲーム規制条例)が制定され、香川県議会はその背景としてWHOが“ゲーム障害”を定義している点を挙げています。

こうして政治の場でも注目されるゲームの是非ですが、学問の世界ではこのように立法事実に反した結論に至った研究が多くあります。筆者は専門ではありませんが、アメリカ留学時に心理学を専攻していました。当時習得した知見などをベースに、研究の中でも青少年の学力とゲームの関係に着目したものと、その中で提示された問題点を参照しながら香川県議会が主張するゲーム規制条例の根拠を掘り下げていこうと思います。それなりのボリュームとなるので、先に本稿のポイントをまとめておきましょう。

本稿のポイント
国際的な研究ではゲームと学力低下の間に関係は見つからなかった。
ゲーム規制条例の資料は臨床的証拠としては弱い
香川県議会の調査方法ではゲームの悪影響を証明できない


学力とゲームの関係に着目した研究とは
今回紹介する研究は、2014年に「ゲームのプレイ頻度が青少年の学力にどのくらい影響するか」を明らかにするために行われたもので、論文は豪・フリンダース大学のアーロン・ドラモンド教授と英・ポーツマス大学のジェームズ・D・ザウアー教授により執筆されました。論文においてドラモンド教授らは、「既存の文献には多くの体系的な限界があるゆえにゲームと学力の関係を判断するのは難しい」と語り、その中でも3つの問題点を挙げています。

1つ目は、教師の先入観に左右される学校の成績や、学生による自己診断を学力の指標として採用すると主観性に影響を受けてしまう点。2つ目は、特定の地域の学校のみを調査した結果、社会文化的影響を受けてしまう点。そして3つ目には、研究対象(サンプル)の数が少なすぎて信頼性を低下させてしまう点を挙げました。

これらの問題を避けるために、ドラモンド教授らは研究にて科学、数学、読解力の3つに渡る能力をOECD生徒の学習到達度調査(PISA)に使われるテストを使い主観性を排除し、先進国22国の15歳以上の生徒約20万人を対象にしたことで社会文化性の影響とサンプル数の不足を解決しました。生徒たちには、ゲームプレイ頻度をシングルプレイとマルチプレイ別に申告させることで、プレイスタイルによる違いもあわせて調査したとのことです。

学力の低下とゲームに関係はあるのか?
研究結果によると、科学、数学、読解力の低下とシングル、マルチ、ゲーム頻度共に関係は見られず、ゲームと学力低下を関連付ける当時の「世間の主張」と反するものとなりました。先行研究では、ゲームと学力低下を関連付けるものもありましたが、ドラモンド教授らは、この差異はPISAのテストが先行研究で使われた指標より客観的であったことや、「ゲームが学業に支障をきたすと判断した生徒本人やその親などがプレイをやめる、または控えさせている可能性」、そして普段からゲームをしているゲーマーは「ゲームと学業を両立させることに慣れているのでゲームによる負の影響を抑えられているのではないか」と考察しています。

<cms-pagelink data-page="2" data-class="center">次ページ:改めて規制条例を科学的に分析してみる</cms-pagelink>

ゲーム規制条例を科学的に検証
香川県議会(以下、県議会)は、2020年5月25日に香川県弁護士会会長が立法事実の欠如などを理由に条例の廃止を求める声明を出した際、条例の必要性(立法事実)に関し「教育の現場において、臨床的に未成年者のゲーム依存が学力・体力・精神に悪影響を及ぼす或いはその蓋然性が高い」ことや、県議会が定めたゲームやネットの制限時間の目安として参考にした3つの資料を含めた見解を発表しました。しかし、前提となるゲーム依存の基準が示されていないため、各資料内の主張やドラモンド教授らが挙げた3つの研究における問題、“主観性”、“社会文化性”、“サンプル数”を中心に見解の詳細を紐解いていきます。

まず県議会は、条例の必要性を支持する「臨床的」な証拠として「スマートフォン利用にあたっての児童の悩み・心配事」を提示しました。この資料では、2014(平成26)年と2017(平成29)年の小学4~6年生と中高生を対象に、スマートフォンなど(ソース元では「ゲーム機」も記載)を利用する際に、自身が当てはまる悩みに関連した8つの項目に〇を付ける単純な複数回答質問を元にした折れ線グラフです。

ソース元となった「平成29年度スマートフォン等の利用に関する調査」の全文を確認すると、調査対象は263校、小学生は2,018人、中学生は2,072人、高校生は708人とあくまでゲーム規制条例が「香川県民を対象とした条例」と考えれば、社会文化性もサンプル数も十分であると判断できます。一方で質問は生徒の自己診断に依存した内容であり、更には寝不足の項目等に、具体的な定義(例:睡眠6時間以下)が記載されていないことから、生徒の主観性の影響を受けている可能性は高いです。例えば、慢性的な睡眠不足に陥っている生徒は自身を寝不足と捉えない可能性があります。

さらにこの資料には、ドラモンド教授らが挙げた3つの点とは別の問題があります。県議会は、該当資料に「スマートフォンの利用に当たり「勉強に集中できない」や「寝不足」などの悩みがある子供の割合が増加傾向にあることがわかりました。」と注釈を入れ、該当する中高生の折れ線グラフを吹き出しで強調しています。確かに「高校生の勉強に集中できない」の割合は19.9%から25.7%と約6%も増加している一方で、小学生では10.3%から8.7%と1.6%と微量ではあるものの減少傾向にあります。

県議会は、この項目に関して中学生側も強調していますが、16.2%から17.7%と1.5%の増加と高校生側と比べ微量な上に、変化量でみれば小学生側とほぼ変わらないことが見受けられます。それにもかかわらず、中学生側を強調し、小学生側に起きた減少傾向に対する考察や検証をせず無視した上で、「悩みがある子供の割合が」と一般化するのは恣意的とも考えられ、これを「臨床的」証拠として扱うのは難しいでしょう。

次に県議会は、子供のゲームやネットの利用制限時間を定める際に参考にした資料として「スマートフォン等の利用時間と平均正解率の状況」と「国立病院機構久里浜医療センターによる全国調査結果」を提示しました。

まず「スマートフォン等の利用時間と平均正解率の状況」は、小学5年生から中学2年生の4学年の生徒を対象に、スマートフォン等の利用時間を「全く利用していない」から「4時間以上」まで段階的に尋ねた上で、問題の平均正答率との相関の折れ線グラフが掲載されています。

質問の内容は、自己診断ながらも明確で主観性が入りにくい一方、この資料だけでは回答した生徒の人数や、出題された問題が確認できません。そこで、ソース元になった「平成30年度香川県学習状況調査」を確認したいところですが、出版元として記載されている香川県教育委員会のホームページに記載はなく、同委員会の出先機関である香川県教育センターが出版した「平成30年度香川県学習状況調査報告書」(以下、調査報告書)しか見つかりませんでした。

調査報告書を見てみると、「児童生徒数」や「問題の質と量」の記載があり、回答者の学年やグラフの様式に共通点が見られる一方で、数値が合致する項目が存在せずソース元ではないことがわかります。資料に掲載されているデータが少なく、情報源も確認できないとなると、そのデータに説得力があるのか否かなどの判断が一切できないため、議論するのは困難です。

百歩譲って上記の点に目を瞑ってもまだ問題はあります。県議会は、「スマートフォン等の利用時間が長い児童生徒ほど、問題の平均正答率が低い傾向にある」と資料に注釈を入れましたが、グラフを見ると「全く利用していない」と答えた生徒は「1時間より少ない」と答えた生徒より平均正解率がわずかながらも低いことが確認できます。この矛盾は、「全く利用していない」と答えた生徒の中に、経済的理由でそもそもスマートフォン等を所持していない、言わば学習塾などの学校外教育に投資出来ない層が含まれているからではと考えられます。

それに加え、ゲーム規制条例の適応範囲は18歳未満なのに対し、資料には小5~中2、つまり11歳~14歳までのデータしかありません。そして、15歳以上の生徒を対象にしたドラモンド教授らの研究では、ゲームのプレイ頻度と学力低下の間には関係が見つからなかった点も考慮すると調査の余地が残っており、ゲームが学力低下に繋がっていると結論付けるには時期尚早です。

そして「国立病院機構久里浜医療センターによる全国調査結果」には、日本国内の10歳~29歳を対象に調査したゲームのプレイ時間と、その他の回答を掛け合わせたクロス集計表が掲載されています。この資料では、サンプル数が4,438人(85%)と記載されていますが、抜粋されている質問の内容や、ソース元である「ネット・ゲーム使用と生活習慣についてのアンケート 調査結果」の「過去 12 ヶ月間に、85.0%(男性 92.6%、女性 77.4%)がゲームをしていた。」という記述を見るに、調査対象全体から、ゲームを普段からプレイしている人のみを抽出したデータであると考えられます。表では、「家族との関係が悪くなった」を除く3項目において、ゲームのプレイ時間上昇に伴い当てはまる人の割合が大幅に増えていることが見受けられます。

しかしこのデータは自己診断に依存しており、質問内容も回答者の自己判断に委ねている部分が多いことから、主観性の影響を受けている可能性は大いに考えられます。さらに資料では、調査対象に関して「10~18歳のサンプル数が多くなるように設計した上で無作為抽出」と記載してありますが、ソース元を確認するとサンプル全体(5096人)の内32.6%が19歳以上であり、全体の半数を下回っているものの少ないとは言い切れずこのデータが18歳未満を対象にした条例制定の参考になるかは疑問です。

<cms-pagelink data-page="3" data-class="center">次ページ:県議会の主張には根本的な問題がある</cms-pagelink>

県議会の主張には根本的な問題がある
県議会が提示した資料を見ていきましたが、ドラモンド教授らの論文内で挙げられた3点を全てクリアできたものは無く、その上でそれぞれが別の課題を抱えていることから県議会の「子供たちがこれらのゲームを長時間行い、過度に依存することは、知的好奇心とは逆の方向に働き、彼らの創造性・知的好奇心を失わせる可能性がある」という主張を科学的に裏付けるには程遠いものでした。そして最後に、県議会の主張には根本的な思い違いがあります。

県議会は、提出した各資料を通してゲームやスマートフォンの利用時間が延びるほど負の要素(例:学業成績の低下)が悪化していることを示そうとしていました。統計学上では、二つの要素間で一方が増加する際にもう一方が増加、または減少する関係のことを相関関係と呼びますが、仮にゲームやスマートフォンの利用時間と学業成績の低下等の間に相関関係があったとしても県議会の主張を裏付けることは出来ないのです。

県議会の主張は、「ゲームを長時間プレイする」と「創造性・知的好奇心を喪失する」でした。一見この主張は、県議会が各資料で示そうとしたものと同じに見えますが実はこれは相関関係ではなく因果関係と呼ばれるものです。

因果関係とは、二つの要素の間で一方が原因、もう一方が結果として起こる関係を言います。そして相関関係は、あくまで二つの要素間の相関を認めるだけでどちらが原因で結果かはわからないのです。この点を考慮すると、県議会の提出した資料は、ゲーム等の利用時間が増えた結果、学力が低くなったようにも見えますし、逆に学力が低くなった結果、ゲーム等の利用時間が増えたようにも見えるのです。

科学や統計学において、調査だけでは相関関係までしか証明できず、因果関係は実験でなければ証明できないとされています。つまり、県議会がどんなに調査を行ったところで、ゲームが子供に害を及ぼしていることを証明することはできません。

さらに、相関関係にはもう一つ大きな落とし穴があります。本来は全く関係ないもの同士でも、数値の増減のタイミングが重なっただけで相関が見つかってしまうことがあり、これを疑似相関と呼びます。例えば、ネット普及率が高い地域では平均寿命も高いことが見つかったとします。であればネットの普及と寿命延長に相関、つまりネットが普及すると人が長生きする、またはその逆が存在するのでしょうか?恐らく大半の人はノーと答えるでしょう。

では何故この相関が見つかってしまったのかと言うと、両者の間にまた別の要素(統計学的には潜在変数と呼ばれています)があるからなのです。具体的には、ネットの普及率が高い地域は経済的に豊かであり、経済的に豊かである地域は医療が充実しており、医療が充実している地域は平均寿命が高いと推測できます。このことから、ネットの普及率⇔経済、経済⇔医療体制、医療体制⇔平均寿命とネット普及率と平均寿命の間には別の要素が挟まっているのではと考えることも決しておかしな話ではないでしょう。

そしてこの疑似相関の可能性は、香川県におけるゲームの利用時間と生徒の成績低下の間にもあります。上記で言及した調査報告書には、「携帯電話やスマートフォン、ゲーム機などを使う場合、家の人と決めた使用ルールを守っていますか。」という項目があり、そこに掲載されている折れ線グラフを確認すると、「(ルールを)守っていない」と答えた生徒の平均正答率が他と比べ圧倒的に低いことが確認できます。この子供がルールを守らない背景としては、保護者が役目を果たせていない、つまり家庭環境に問題がある可能性も無視できません。

相関関係で考えると、成績低下⇔家庭環境の悪化、家庭環境の悪化⇔子供のルール無視、子供のルール無視⇔ゲームプレイ時間増加のように、複数の要素が挟まっていることが考慮できます。つまり、このデータは“そもそもゲームプレイと成績低下に直接的な関係はあったのか?”と疑問を投げかけており、まだこの件に関して結論を急ぐべきではないことを示唆しているともいえるでしょう。

さらに、“家庭のルールを守らない子供は成績が悪い傾向がある”というデータを考慮すると特に罰則の無い「家庭におけるルール作り」を推奨する条例は焼け石に水の可能性があり、効力を十分に発揮できるとは考えられません。以上のことからゲーム規制条例が科学(臨床)的正当性を主張するにはまだ証拠が不十分であると結論します。


編集部では、いわゆる「ゲーム障害」について専門家や関係者に取材を重ねながら、どういった問題や課題があるのか、我々ゲーマーはどのように向き合うべきかを連載形式で深掘りしていきます。初回はネット・ゲーム依存についても積極的な発信を続けている井出草平氏にお話を伺う予定です。取材や企画についての意見や要望があればぜひコメント欄やお問い合わせからご連絡ください。

TOPICS

ランキング(ゲーム)

ジャンル