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【小説】突然のキス。徐々に深くなっていき…2人だけの甘い夜

幻冬舎ゴールドライフオンライン

※本記事は、葛生みもざ氏の書籍『Red Vanilla』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。

サン・ジェルマン・デ・プレ秋灯

店を出ると彼は早足だった。追いついていくのに私は小走りに彼のあとを追う。彼が手を差し出してきたので私も彼の手を取る。自然なことだった。

パリの下町の夜は初めてだ。何も知らないのだから、手をつないでもらうと安心できた。私のヒールが石畳を蹴る。コツコツと深い音だった。店はどこも閉まり、暗い中にも街燈がちらちらと石畳を照らし、私たちの翳(かげ)をつくる。

彼はどこへ行こうとしているのか、何を探しているのかわからないまま彼のあとに従う。

路地を曲がりパッサージュ(屋根のある細い抜け道)に向かうも、彼は困ったようだった。

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「これから歩いて君のホテルまで送るのはどう? ホテルはわかる?」

たしかそんなことを言ったのだと解釈した。私も今思えば、かなりバカだ。どこかの店で放られたら、どうやってホテルまで帰ろうかと心配していたものだから、ホテルまで連れて行ってくれるならよかったと思い笑顔で「うん!」と言ってしまったのだった。

ホテルへの道がわかるかと聞かれた会話とどちらが前後していたのか、よく思い出せない。少し歩いてからだと思う。突然、目の前が暗くなりどうも身動きができない、身体が締め付けられているようで痛い、捩(よじ)るとよけいに痛い。今度は顎が痛い。動かそうとすると何かが顎に食い込んでよけいに痛い。

それから、彼が私にキスをしているとようやくわかった。彼の唇が重なっているのがわかると、急に私の力が抜けたのか、もう私の顎は痛くなくなった。

それと同時にキスは普通のキスではなくなり、深いものへと変わっていった。戸惑いながらも私はそれを受け入れる。彼が男女のつもりであることを、そのとき知る私だった。それはとても甘く、しかも上手だ。

意識がくらりとしたので、私はあわてて身体を離そうとしたが、そう簡単には離してくれなかった。気持ちを確かめられたようなことをされて、私は彼の胸を思い切ってたたいた。

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