「少し痩せたんじゃないの? まあ、そういや 顔色も悪いわ 大丈夫なの?」
「憂さ晴らしに、これからどっか行きましょうか?」
「ねっ? 行きましょう」
そして、別れ際に「おやすみなさい」と、寅さんと握手する「お嬢様」冬子であった。
冬子にとっては、日常であっても、寅さんにとっては、この上ない非日常なのである。
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そして、冬子の縁談がまとまったことを知り、寅さんは「身を引く」のである。
「お嬢さん、お笑い下さいまし。私は死ぬほどお嬢さんに惚れていたんでございます」
後に、定番となるマドンナとの悲喜劇の嚆矢となったシーンである。その初代マドンナこそが光本であった。罪深い、いや罪の自覚などありはしない「お嬢様」の誕生である。
さて、実は、このマドンナとのくだりは、第1作「男はつらいよ」では、サブストーリーであり、本線は、さくらと博の馴れ初めばなしであり、その結婚と満男の誕生までが描かれるのだが、それは本編を観てのお楽しみ。
のちのち語られる、おいちゃん渾身のギャグ。
「おい、枕、さくら出してくれ」は、この第1作で飛び出した。
2022年の干支は寅。12年ぶりに48作を観なおしてみるのも一興と言うべきか。
(文中敬称略)