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【小説】認知症を恐れる警備士が思い返す、とある老爺の最期

幻冬舎ゴールドライフオンライン

※本記事は、野口顕氏の書籍『鳩殺し』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。

スープが冷める距離

今の住居に来る前に住んでいた町内に、認知症の老爺が居た。その家は和菓子を製造していて、一階の工場で栗饅頭や蒸羊羹をつくり、契約している商店に卸している。老人の息子夫婦がその仕事をしていて、早朝製造した菓子を車に積んで配達し、昼過ぎに帰ってくる。

その間、老人が一人になっている。話に聞くと隠居部屋と隣接している居間、続いている玄関、それに玄関横の手洗い迄だけが行動できる範囲になっている。他の部屋やスペースへは絶対行けないよう鍵をかけ、玄関は外から鍵をかけているのだそうだ。

老人はその動けるスペースで息子が帰ってくる迄徘徊しているのだという。老人の首にはプラスチックの名札がかけてあり、ズボンの尻ポケットにも名札を入れ、住所・氏名・連絡先などが記してある。

過去に何回か外へ出てしまい、タクシーをひろってとんでもない遠方へ行ってしまった、という事例もあるらしい。

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老人が亡くなって、枕経をあげに行った妻によると、家の中は大変な状態だったそうだ。障子や襖はぼろぼろに破れ、畳はケバ立っていた。息子さん夫婦は泣きくずれていたが、これでよかったのだと思うわと、妻も泣きながら言っていた。

ボケにもいろいろあるが、必ず家族に迷惑をかける。そして私の様な一人暮しの人間はどうなるのだろう。

首筋を冷たい風が通っていった。私は何かを振り払うように、園内パトロールにとりかかった。

鳩が二羽舞い下りてきた。これを殺してミステリー・サークルをつくった人間や集団は今何をしているだろう。

犯人を捕まえる行為は私の仕事には入っていない。私はただ目立つように園内をパトロールして、ガードマンが居るぞ、と認識させれば良いのだ。

万に一つ、パトロールが居ようが居まいがかまわず、ミステリー・サークルの行為を始めたりするものがあったら、絶対に手を出してはいけない。大至急、警察と公園課へ知らせる。それが決められた仕事なのだ。

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