top_line

【 最新ニュースをアプリでサクサク読むなら! 】

【凛九 伝統工芸を継ぐ女性たち】その五《伊勢型紙》那須恵子さん「100年先も伊勢型紙が染め文化を支えているように」

OVO

 「伝統工芸」と聞いてみなさんが思い浮かべるものは何だろうか。南部鉄器・博多人形・津軽びいどろなど、日本全国にはさまざまな工芸が存在する。洗練された技術が求められる一方で、どの伝統工芸も後継者不足、もしくはその伝統の存続そのものに悩んでいる。

 そのような伝統工芸の世界で、東海地方で活動する女性9人のグループ「凛九」のメンバーを紹介する連載インタビュー。第5回は、1,000年以上の歴史があり、国の重要無形文化財に指定されている伝統工芸「伊勢型紙」の職人、那須恵子さん。伊勢型紙(いせかたがみ)とは、着物や手拭いなどの布、紙、皮に模様を染めるための染色道具で、柿渋を使って丈夫にした和紙(型地紙)に彫刻刀でさまざまな紋様・図柄を彫刻する。

 伝統工芸には馴染みがなかった那須さんがなぜ職人になろうと決意したのか、またどのような伊勢型紙を後世に残したいと考えているのか、その思いを伺った。

黙々と手作業する職業に憧れて…

――高校(デザイン専攻)を卒業後、一旦は印刷会社に就職されています。なぜ職人になろうと思ったのでしょうか?

那須 とても過ごしやすい会社ではあったんですが、タイムカードで管理されていることやいろいろな会議があること、定年があることなど会社らしいシステム(に不満が)。予定はなかったですが、女性は人生で(結婚・出産・子育てなど)いろいろなことが起こる。それを経験しても長い間この会社にいられるのかなという不安と、黙々と誰にも止められることなく(仕事を)やっていられる自由さを求めて会社を辞めました。

――会社を辞めた後の予定は?なぜ伝統工芸に興味を持ったのでしょうか?

那須 迷惑がかかりにくいよう辞めることに必死で、次のことは何も考えていなかったです。会社ではアナログな作業が多くあり、ペンや絵の具で絵を描く作業や紙を切って絵を作るという作業もあったんです。そのペーパークラフトに一週間ぐらい時間がかかって作っていたんですが、黙々とやっているという作業がすごく楽しかった。(会社員時代の)一番の喜びと感じていたので、今度見つける仕事は好きなことを詰め込んだ、熱中できる仕事だったらいいなと。その中で、定年がなく一人で黙々と手作業でできる伝統工芸が似ているんじゃないかと安直な想像で探し始めました。 いろいろな伝統工芸を図書館やネットで調べる中、友人が伊勢型紙が私に向いているのではと教えてくれて、それで鈴鹿に行ったのが(伊勢型紙に興味を引かれた)きっかけです。

「伊勢型紙を始めてもしょうがない」の声を乗り越え

――鈴鹿に行ってすぐ修行が始まったのでしょうか?

広告の後にも続きます

那須 現地に行って、自分の中では「これはすごい!」と感動したので、ぜひ仕事にしたいと思いました。ただ、求人が出ているわけでもなく、関係者に聞いてもみなさん口々に「伊勢型紙を今から始めてもしょうがない」といったマイナスな話しかしなく、スッと入れる場所はなかったです。そこで、京都や東京などの染めの産地の職人さんに話を聞きに行ったり、型染めの手拭いを作ってみたりと、型紙に関係していることをいろいろと取り組みました。その中で、鈴鹿で紙を作っている社長さん(大杉型紙工業の大杉社長)が話を聞いてくれて、手紙や電話をしている中でなんとか親方(生田嘉範氏)を紹介してもらいました。

 伊勢型紙の職人は多くの人が70代。伝統工芸として後継者に技術を教えるためにも実践としての仕事が必要で、需要が減っている状況で当時、弟子を取っている職人はいなかったという。現在は、「伊勢型紙技術保存会」が重要無形文化財保持団体として技術の継承にあたっている。

彫る作業だけで約1カ月

――伊勢型紙が出来上がるまでの工程を教えてください。

那須 デザインは、デザイナーさんが考えたものを彫る場合と、もともとあるデザインを彫り直す場合と、デザインから考える場合があります。そこから(小さな設計図である)小本(こほん)を彫るのに一日、二日。そして、自分がメインで修行した(4技法の一つである)突彫り(つきぼり)は紙一枚では彫りにくい技法なので、型地紙(かたじがみ)を6、7枚重ねて一気に彫ります。柄にもよりますが、3週間~1カ月半ぐらいかかります。

 型地紙は、よく寝かせてある紙の方が伸び縮みが安定していて乾燥しているので、買ってきてから3~4年放置したものを使います。それを必要なサイズに切って、菜種油や天ぷら油を塗って刃の滑りをよくします。そこに小本を墨で刷って図案を写します。彫りの工程としては、手前の下2センチぐらいを全部彫ります。継ぎ目が分からないように下端と上端がつながらないといけないので、染めた時に連結するかどうかをチェックします。この端が一番神経を使い、残りは左下から右上にガッと彫ります。

彫ることは“ご褒美”

――那須さんにとって「伊勢型紙」とは何でしょうか?

那須 自分は、(あの細かい図柄を)人が手で彫っていることが一番驚愕でした。そのことが自分が感動した大本(おおもと)になっている。人が感動したり、すごいと思ったりしないと残す意味がないと思っているので、伊勢型紙はどこまでも伸ばしていきたい技術で、人生をかけて追い求めたいものです。

――伊勢型紙の模様はその繊細さに驚かされます。彫ることが大変だと思うことはありますか?

  • 1
  • 2

TOPICS

ランキング(エンタメ)

ジャンル