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集中連載-『愛のまなざしを』 | 万田珠実さん制作日誌 「撮影現場“で”、お邪魔しました。」 第9回

cinefil

11 月 12 日(金)より渋谷ユーロスペース、池袋シネマ・ロサ、キネカ大森、 イオンシネマ他にて全国順次公開となった仲村トオル×杉野希妃×斎藤工×中村ゆり等の出演、鬼才・万田邦敏監督待望の新作となる『愛のまなざしを』。
この度、公開にあたって、今作の脚本を手がけられた万田珠実さんによる集中連載が、「シネフィル」で掲載されることとなりました。
制作の裏側などを交えた、公開までの制作日誌となります。

第九回 撮影9〜10日目

2019年9月10日(火)〜11日(水)

この両日は、診察室のシーンが撮影されました。これが終わればあとは、一階で行われるリビングのシーンと野外ロケを残すのみです。

10日の撮影は順調に進み、時間に大幅な余裕ができました。一方で、この時点で美術部の疲労はピークに達しており、助監督の張元さんは、翌11日の撮影終了から12日にかけての撤収作業を考えて、美術部に少しでも休息を取らせようと頭を巡らせていたようです。そこで張元さんから監督に、11日に予定しているワンシーンを、今日に繰り上げて撮影していいかと相談がありました。監督はカメラや照明の段取りのことを念頭に置いて、その時撮っていたシーンと同じ場所だから都合がいいだろうと、OKを出しました。ですが内容的にはそのシーンは、貴志の心の内があらわになる重要な場面でした。変更を告げられた仲村さんは快く承諾してくださいました。クランク・インの時に全ての台詞を覚えている仲村さんだから、できることでもあります。が、内心は「えっ、このシーンを今、急にやるの?」と思ったようです。それはそうです。電話の声を相手に、5分近くの一人芝居をしなければならないのですから。それなのに、そんな動揺は微塵も表に出さない仲村さん。まさにプロの鏡ですね
(ただし、クランク・アップの挨拶の時に、この時のことをちょっとだけ話題に出して、チクリと監督と助監督に釘を刺しましたが)。

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しかもこのシーンは、監督と私にとって、今まで仲村さんとご一緒させていただいた仕事の中でも、最も素晴らしいシーンとなりました。考え込む時間を与えられなかったことが良かったのかどうか…それはわかりませんが、テスト後に監督は「少し重たいです」と一言言ったのみで、その後の本番では、こちらの予想を超える緊迫した空気感が現場に漂いました。リハの時に目指していた“貴志の狂気”が撮れた! と思いました。演じてくださった仲村さん、そして仲村さんには恨まれてしまったけれどスケジュールを変更してくれた張元さんに感謝するとともに、予想を超える結果にたどり着く時というのは、このように想定外、計画外の偶然も作用するものなのだなと、改めて思いました。

ついに愛憎を超えた境地に至る?

このあと、「貴志の背中に寄り添う薫」のシーンを撮ったのですが、ちょうどこの時、陣中見舞いに来てくださった菊地健雄監督が、まさかの中村ゆりさんのスタンド・インをしてくださいました。スタンド・インというのは、カメラや照明をセッティングする時に、役者さんの代わりをすることです。菊地監督は、貴志ではなく薫のスタンド・インをやりたがり、監督助手の大野さんが貴志をやりました。そしてこの日は片桐はいりさんの出番もあったのですが、帰り際にご挨拶に立ち寄ってくださった時、仲村さんのファンを公言しているはいりさんは「今のやってみたい」とおっしゃり、仲村さんには遠慮して、隣にいた張元さんの背中を借りて、「貴志の背中に寄り添う薫」をやって、お帰りになりました。みんなが薫になりたがるほど、「貴志の背中」は大人気でした。

(左)偽物の薫 その1(右)偽物の薫 その2

その、本物の薫を演じている中村ゆりさんは、10日目に貴志と対決する重要なシーンがありました。「すでに亡くなっている妻」をどう撮るか。監督はその演出にずいぶんと時間をかけていました。照明も相まって、このシーンの薫は美しくも恐ろしい、非現実的な存在になっていたと思います。

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