11月5日から3日間にわたって行われたパラ馬術の国内最高峰「第5回全日本パラ馬術大会」。兵庫県の三木ホースランドパークに9人馬が集まり、演技の正確さと美しさを競った。
相棒とともにリスタート
東京2020パラリンピックを終え、2022年の世界選手権(デンマーク)、そしてパリ2024パラリンピックに向けて新たなスタートとなる大会だ。
「誰にも負けたくない」
そう意気込んで大会に臨み、3競技ともに全体の最高得点(チームテスト66.618%、インディビジュアルテスト67.402%、フリースタイルテスト71.545%)をマークしたのが東京パラリンピック日本代表の稲葉将だ。

なかでも7日に行われたフリースタイルテストの得点率は自己ベスト。東京パラリンピックでは日本障がい者乗馬協会のリース馬「エクスクルーシブ」と組んだため、愛馬「カサノバ」と共にパラの大会に出場したのは、昨年11月以来約1年ぶりだった。
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「久しぶりに自分の馬で出場しましたが、正直なところ、1競技目(チームテスト)と2競技目(インディビジュアルテスト)はうまくいかないことのほうが多かった。馬の調子が良かっただけに、カサノバには申し訳ないと感じていました」
そんな稲葉は最終日、「思い切りやろう」と気持ちを切り替え、活発なカサノバは音楽に合わせて軽快な動きを披露した。
「フリースタイルはあまりやる機会がないけれど、今までで一番いい点数を残すことができました。やっぱり思い切ってやらないとダメだと再認識させられました。気持ちのモヤモヤが馬に伝わってしまいますから」
横浜に自宅がある稲葉は週5回、静岡乗馬クラブで寝泊まりしながら、ほぼ自分でカサノバの世話をする。そんな馬術漬けの環境を選んだかいもあり、馬場馬術を本格的に始めたのは2017年と決して早くないなか、最短ルートで自国開催の東京パラリンピックに出場する目標を見事、実現させている。
グレードIII3冠の今大会も「これまで積み上げてきた経験があるからこそ、誰にも負けなかった」と胸を張った。

東京パラリンピックで増した“勝負へのこだわり”
ひとつ気になったのは今大会前半の演技に響いたという「気持ちのモヤモヤ」だ。その要因は他でもなく、パラリンピックという世界最高の舞台が稲葉に与えた衝撃の大きさだろう。
稲葉にとって初めてのパラリンピックは、想像を超えるエキサイティングな人生の出来事であり、唯一無二の経験だった。