11月2日(火)、代々木上原に、四川省の伝統料理がアラカルトで楽しめる『竹韻飄香(ジュユィン ピャオシャン)』がオープンする。
言うなれば、この店の料理はオールド四川をモダン東京へ伝える“翻訳者”のような存在だ。四川省でも希少になりつつある伝統料理を、本質を守りながら現代に伝えるために、ともかく、料理が考え抜かれている。
料理長は井桁良樹オーナーシェフの20年来の盟友であり、四川省成都市で2年間の修行を経て『飄香』の味をともに作り上げてきた廣瀬文彦氏。「四川料理しか知らなくて…」と謙遜するが、四川伝統料理の世界に深くダイブし、さまざまな試行錯誤とチャレンジを続けた経験が、ここに表現されている。

伝統へダイブ!そして洗練の現代へ。
いくつかの料理を味わって、特に“翻訳者”の底力を感じたのが、竹韵粉蒸鶏(ジュユィン フェンヂォンジー)だ。

粉蒸(フェンヂォン|fěn zhēng)とは、挽いた米に調味料と香辛料を染み込ませ、肉や野菜にまぶして蒸す調理法のこと。四川省や重慶市ではメジャーだが、日本では“現地系”の店でしかあまり見かけないのは、どこか田舎っぽくて腹持ちがよい料理だからかもしれない。
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材料は豚肉、鶏肉、羊肉などの肉類や、じゃがいも、さつまいも、かぼちゃなど穀類が中心。ちなみに下の写真は、現地式・オールドスタイルの粉蒸肉(フェンヂォンロウ)と粉蒸南瓜(フェンヂォンナングァ)だ。上の写真と見比べると、だいぶ趣が違うことがわかるかと思う。


「粉蒸は四川にいけばどこでも見られる調理法ですが、正直なところ、これまですごくおいしいと思ったことはなかったんです。しかし自分が研修した『松雲澤(松云泽/ソンユンゼェァ)』で粉蒸鶏を食べたとき、米の甘さがふんわりと感じられ、葱と花椒が香ってきて、初めておいしいなあ…と感動しました」
そう井桁シェフが回想する粉蒸鶏は、葱と花椒を細かく刻んだ椒麻(ジャオマー)で風味付けされていた。店でもまた、この爽やかで心地よい風味をベースにしつつ、少量の腐乳(豆腐の発酵調味料)を隠し味に、鶏肉のふくよかなうまみを高めている。
粗めの米粉が蒸気をたっぷり吸えば、それらは質感のあるソースと化し、包まれた食材にもしっとりと風味が入る。粉蒸の合理性はそのままに、味わいはモダンに。これぞ『竹韻飄香』が目指している着地点だ。
オールド四川を現代の東京へ伝える“翻訳者”として。
さらに伝統料理の深化は止まらない。「酒仙牛肉」は、井桁シェフが「現代の酒仙に捧げるイメージで作りました」という一皿。豚肉に醤とスパイスを塗って干した保存食「醤肉(ジャンロウ)」に着想を得て、牛肉で再構築した。
料理名の由来は、詩人・李白が醤肉を酒の友として愛したことから。牛肉に甜麺醤、醪糟(ラオザオ|もち米の発酵調味料)、唐辛子、花椒、各種香料をまぶして一夜干しで仕上げており、ねっとり、しっとりとした食感とともに、口の中でふくよかに広がる醤の香りが楽しめる。
