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集中連載-『愛のまなざしを』 | 万田珠実さん制作日誌 「撮影現場“で”、お邪魔しました。」 第7回

cinefil

11 月 12 日(金)より渋谷ユーロスペース、池袋シネマ・ロサ、キネカ大森、 イオンシネマ他にて全国順次公開となる仲村トオル×杉野希妃×斎藤工×中村ゆり等の出演、鬼才・万田邦敏監督待望の新作となる『愛のまなざしを』。
この度、公開にあたって、今作の脚本を手がけられた万田珠実さんによる集中連載が、「シネフィル」で掲載されることとなりました。
制作の裏側などを交えた、公開までの制作日誌となります。

第七回 撮影7日目

2019年9月8日(日)

この日は前日と同じリビングルームで、クライマックスのシーンの撮影がありました。詳しくは書けないので、ぜひ映画を見て確かめていただきたいのですが、監督はある場面で、綾子に意外な行動を取らせます。一体どうしたらあんなことを思いつくのかと、観た人から何度か聞かれたようですが、「脚本の劇的な展開に合わせて芝居のテンションを上げることを考えたら、結果的に突飛な行動になっただけ」なんだとか。まあ、もともと劇的な展開が好きで、それを望んだのは監督なんですけどね。

そもそも、緊迫した場面だろうがそうでなかろうが、この監督さんは役者さんに普通しないような動きをしてもらうことが多いと言っていいと思います。第四回で書いた、コアラの公園での仲村さんもそうでしたが、思ってもいないようなことをやらされる役者さんは、本当に大変だろうと思います。

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当然ですが、綾子を演じた杉野希妃さんもその一人で、「こう動いてください」と言われた途端、杉野さんは戸惑いのあまり笑うしかないという場面が、何度もありました。冒頭で書いた、この日のリビングでの突飛な演出は、ご本人も結構乗り気でやっていたと思うのですが…。

診察室で貴志に駄々をこねるシーンでは、「早く帰ろうよ」と言いながら、座っている貴志の背中を肘でつついたり、お尻をぶつけてみたりと、杉野さんも一緒になっていろいろなアイディアを出し合い、楽しそうでした。ちなみに、最後は綾子が背中で貴志にのしかかるような芝居になりましたが、私はこの時の仲村さんの迷惑そうな戸惑った感じがとても好きです。

ところが、次に監督が要求した芝居は、杉野さんを撮影中最も戸惑わせることになりました。拗ねた綾子が「そう。帰る」と言う時に、監督は「影絵の狐の手の形から、指をピンと弾く仕草をしてみて」と言ったのですが、杉野さんはこの時の綾子の気持ちとこの動作がどうしても一致せず、理解できなかったのでしょう。相当違和感があったようで、おしまいには「こういう状況でこんなことをする綾子が理解できない」と思ったのではないでしょうか。それでもどうしてもそれをやらせる(鬼)監督。でも擁護するようですが、このシーンの杉野さんはコケティッシュなフランス娘のようで、とても可愛らしいです。

可愛い! でも、綾子って何なの!?

もう一つ、杉野さんにとってはそれ以上に辛かっただろうと思われるのが、綾子が、貴志はどうしても薫のことが忘れられないのだと思い知るシーン。終わってから杉野さんに聞いたのですが、撮影前にこのシーンが最もドン底に落ちていると監督に言われ、本当に辛い気持ちになり、テストの時から涙が止まらなくなってしまったのだけれど、撮影直前になって監督にあっさり「泣かないでください」と言われ、呆然としてしまったと。これまた擁護するわけではないのですが、実は私も撮影時、泣かなくてもいいかなと思っていました。今でこそ、その時の杉野さんの辛さはわかるのですが、綾子を書いた自分としては、綾子という人はこのような場面で、悲哀よりも怒りや恨みを感じるような女性だと思っていた気がします。そんな人って、どう考えても好感度の高い人ではないですよね。でも役者さんというのは、そんな人間にもならなければならない。「自分以外の誰かになる」という仕事は何と大変なことかと、改めて思わされました。

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