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「最初の爆発」では何が起きた?『DEATH STRANDING』世界の始まりに挑む宇宙物理学【ゲームで世界を観る#9】

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「最初の爆発」では何が起きた?『DEATH STRANDING』世界の始まりに挑む宇宙物理学【ゲームで世界を観る#9】

昔 爆発があった
この宇宙は 爆発で生まれた

昔 爆発があった
この星は 爆発で生まれた

昔、爆発があった
この生命は 爆発で生まれた

そしてまた 爆発が起こる

これが 我々の目撃する最後の爆発になる
『DEATH STRANDING』が賛否両論となった理由の一つが世界設定の難解さ。「ハー」「カー」といった古代エジプトの死生観や、「時雨」「BT」「ビーチ」などの超常現象が詰め込まれ、ついて行けなかったプレイヤーも多いようです。逆にどこまでも考察を深めていける懐の広さがあり、ゲームシステムの攻略以上に、知的好奇心を持って『DS』の世界を探求する魅力は唯一無二のものでしょう。

冒頭におけるサムの言葉は、本作の下敷きになった要素を表しており、最初の「爆発」は宇宙誕生のビッグバン、2番目は太陽系誕生、3番目は生物の進化が急速に進んだ「カンブリア爆発」を指します。

作中に登場する「カイラル対称性」などの専門用語もビックバンを含む宇宙物理学からとられています。「最初に爆発があった」とあるように、特にビッグバンで何が起こったのか知っておくと、本作の物語を別の視点から考えることができるでしょう。

先にお断りしておきますと、以下の説明は非常にざっくりとしたものであるため、細かい点が異なる場合がありますので予めご了承ください。

「膨張」が先だった?ビッグバンの最新理論「インフレーション」
現在私たちのいるこの宇宙は膨張を続けていることが観測から明らかになっています。宇宙の星を観測するとき、音のドップラー効果と同じように、全ての光の波長が引き延ばされて赤くなる「赤方偏移」という現象から、この宇宙の全てが遠ざかっている=宇宙が膨張しているとわかります。

そこから逆算すると、この宇宙の全ては限りなく小さな1点に収まっていたことになり、想像もつかないほど超高圧、超高密の塊がかつて存在していたと考えられます。また、光速の仕組みから、遠宇宙を観測するとそれだけ過去の光が観測できるため、約138億年前の宇宙全体が超高温に熱せられていることが確認できます。宇宙を熱で満たす規模になる元素生成の「大爆発」を起こして宇宙の膨張が始まった。これが「ビッグバン」仮説です。

ただし、現在は「爆発」が起こったのではなく、「インフレーション」という別の現象が起こったとする説が有力です。高圧高密の点が始まりという点は同じですが、爆発ではなく「空間が先に急激に膨張」し、その空間が真空エネルギーで満たされて宇宙全体が超高温になったというのです。この超高温が冷めていく過程で素粒子、元素などの「物質」が生成されていきました。

このビッグバンの時の熱は宇宙の端全体を覆う「背景放射」と呼ばれ、そこから先の空間はどんな電波を使っても観測できません。宇宙の研究者であれば向こう側、つまりこの宇宙の誕生前や別の宇宙を覗いてみたいものですが、『DEATH STRANDING』のアメリカを覆うカイラル雲のように、そこで完全に遮断されています。

求め合う「物質」と「反物質」
物質が生成されるとき、それと同時に鏡のような正反対の性質を持つ「反物質」も生成されます。この物質と反物質は接触すると全てがエネルギーに転換してしまう「対消滅」を起こします。そのエネルギー量は、ゲーム中で描写されるよりももっと強力な爆発を引き起こすと言われています。

ビッグバン直後には物質、反物質の生成と対消滅が無数に起こりました。物質と反物質の生成量は全く同じになるはずなので、本来であればこの時点で理論上何も残らないはずでした。しかし、現実には私たちの宇宙を形成する物質だけが残り、対となる反物質はどこかに消えてしまいました。

今残っている物質はなぜ対消滅を免れたのか?この問いは長年物理学者にとって悩みの種でした。その答えは、「物質と反物質の関係であっても、ずれが生じて対称性を失うことがある」というものでした。これを「対称性の破れ」と言い、ノーベル賞を受賞した小林氏、益川氏、南部氏がその理論を提唱したのです。この中で南部氏の理論の中に「カイラリティ」「カイラル対称性」の言葉が出てきます。素粒子には右巻きと左巻きがある、ということらしいのですが、私のレベルでは全く理解が及びませんでした…。

反物質の寿命は、約10億分の1の確率で、対となる物質よりわずかに寿命が短くなります。そのため、約10億分の1の物質が対消滅を免れました。私たちの宇宙はある意味取り残された片割れというわけです。BTが反物質の性質を持っているとするならば、はぐれてしまったペアを求めて異次元から現次元に戻ってきたのかもしれません。

自由に行き交う素粒子を束縛する「ヒッグス場」
無事に残ることができた物質=素粒子ですが、理論上は質量を一切持っていないということになっています。質量がなければ重力も発生せず、接近しても全く干渉しないまますれ違ってしまいます。このままだと素粒子同士で集まることができず、いつまでたっても元素すらできません。

そこで提唱されたのが「ヒッグス粒子」という新しい素粒子を組み込んだ理論です。空間にはヒッグス粒子が海のように満ちている状態の「ヒッグス場」があり、素粒子がその海に絡め取られることで質量が発生した、としました。質量が生まれたことで重力が発生し、物質同士が融合していく状態になったのです。2012年にはヒッグス粒子が実験によって発見されたと報じられ、翌年に提唱者のピーター・ヒッグスはノーベル賞を受賞しました。

これを『DEATH STRANDING』の物語になぞらえるのであれば、素粒子=誰とも関わらないフリーランスのサムが、ヒッグスの起こす事件に巻き込まれることによって、多くの人間と関わり重い責任を負う=質量を持ち、重力で周りを引き寄せるようになる、と見立てられます。

11次元を貫く宇宙のひも「超ひも理論」
物質の最小単位である「素粒子」は、文字通り粒子のようなものと考えられてきましたが、素粒子をもっと細かく調べていく「量子力学」の領域に入ると、素粒子が単純な粒ではなく「波」のようなものでもあることが分かってきました。物質の根源が絶対的なものでなく、位置を定めることさえ曖昧な揺らぎのあるものなのです。

従来の物理学の常識を覆す素粒子の振る舞いをどう捉えたらよいのか。その中で生み出されたのが「超ひも理論」という、素粒子を震えるひも(弦)として計算するものです。この「ひも」は私たちの認識できる3次元空間を超えて、11次元の空間を貫いているという計算になっています。素粒子はこの宇宙の全てを構築するものであり、素粒子の振る舞いはこの宇宙全体の仕組みにも適応される。そのような考えから「パラレルワールド」などのアイデアが生まれました。

それはつまり、私たちの体を構成する物質も、ビッグバンの時にできた138億年前から存在する素粒子でできているということ。私たちの中にも目には見えない11次元の世界との繋がりがあるのです。素粒子から元素が生まれ、重い元素に変化する過程においては、核融合が起きる星の爆発を必ず通る必要があります。元素レベルで考えれば、私たちは夜空に光る星々の中にいたことがあると考えることもできるでしょう。

138億年続いている物理現象の過程の中に私たちがいる。冒頭の3つの「爆発」とは、私たちがなぜここに存在できているのか、その理由の根源となるものなのです。

物質と反物質、進化と絶滅、生と死。いずれも対になる概念があるものの、私たちは目に見えて残る片方だけを「善」と信じ、もう片方を恐怖から遠ざけようとします。しかしそうではなく、ゆっくりと歩み寄ることで恐れを小さくし、遠ざけてしまうよりも収まりのよい関係を築けるのではないか。それが本作における「なわ」と「繋がり」の意味だと私は考えました。

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