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「書くことが、もたらしてくれた“すごく幸せな産みの苦しみの時間”」――初エッセイ集『いろいろ』上白石萌音インタビュー

ダ・ヴィンチNEWS

何気ない日常の断片や去来する思いを綴った50篇のエッセイ、家族との再会や、ゆかりの地を巡った故郷・鹿児島ルポ、初の創作となる掌編小説……。この一冊からは、“上白石萌音”から感じられる透明感の核が、タイトルどおり、“いろいろ”見えてくる。初の書下ろし作品が生まれた過程、そのさなかで感じていたこと、そして“書く”という表現に込めた想いについて伺った。

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取材・文=河村道子 写真=干川 修

エッセイ50篇のタイトルをすべて“動詞”にして

“わたしの好きな音”というひと言から始まる≪叩く≫という一篇では、日常のなかに響く様々な音が行の間に聞こえてくる。なかでも“ダントツで好き”と綴っているのは、ノートパソコンのキーボードを叩く音。“今いい具合に爪が伸びていて、ことさら素適な音を鳴らしながらエッセイを書いている”。そんな心地よさが伝播してくるリズミカルで端正な文体で綴られるエッセイの数は50篇。タイトルはすべて“動詞”だ。

「辞書をめくるのが好きで、ひも解いてはいつも言葉を眺めているんです。その感じで、ひとつの単語について思うこと、そこから想像されることを書いてみるのが、ラインナップを見たときも読みやすいものになるのではないかと思いました。さらに文章初心者である自分にとっても書きやすいのではないかと」

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 読書家として知られ、語る言葉に趣きと美しさを感じられるこの人が、文章をまた新たな表現方法のひとつにすることは自然な流れだったように思う。だが、本好きだからこそのためらいもあったという。

「素人が手を出してはいけない領域、それを私がするのはおこがましいと思っていたんです。けれどそうした自分を突き動かしたのは、やっぱり“本が好き”という気持ちでした。技術もないし、格好つけてしまったら恥ずかしい。とにかく着飾らず、素直にありのままを書くことしかできないな、と、素っ裸になったつもりで、一篇、一篇を綴っていきました」

“動詞”というシンプルなテーマは、当初、ジャンプ台にもなったという。けれど執筆から3ヵ月ほどを経たとき、あることに気付いてしまった。

「動詞って、ごまかせないじゃないですか。すごく日常的ですし、本質的なものだから、“これはすごい挑戦になってしまった”と気付いてしまったんです。ゆえに最後まで書けなかったのが、≪演じる≫や≪歌う≫というエッセイ。本質を見据えなければならない怖さや目を背けていたところを直視しなければいけないことがたくさんあって。でもこれを機に、自分の嫌なところや思い出したくないことも、しっかり見つめてみようと思いました」

 だが一篇、一篇、読み終えたあとの余韻は心地いい。

「どんどん陰に入ってしまうこともあったんですけれど、どの一篇もすべて前向きに終わらせたいと思いました。自分なりに、“こういう風に考えればいいんだ”というところへ向かっていきました。今、振り返ってみると、苦しみはあったものの、それは味わって良かった苦しみ。今年でお仕事を始めてからちょうど10年になりますが、その節目に、本を書くことで、こんなにも自分のことを考えられる機会をいただけて、本当にありがたかったなと思います」

衝動でこぼれた言葉のなかから現れ、読み手とつながる普遍性

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