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“金メダル”へ導いた視覚障がい者マラソンのガイドランナー・安田享平

パラサポWEB

パラスポーツの“今”をお届けするスペシャルムック『パラリンピックジャンプ』のVOL.5発刊を記念して、過去に本誌で取り上げたパラスポーツを支える人たちのストーリーをパラサポWEB特別版(全3回)でお届けします。

第3回は、陸上競技のガイドランナー・安田享平。視覚障がいの選手の目の役割を担い、選手が安全に走れるようレースをリードしながら共にゴールを目指すガイドランナーとして、世界一のメダルを獲得するまでの物語に迫る。

※この記事は『パラリンピックジャンプ』VOL.2(2018年11月発行)に収録されたマンガ『職人つくりびと』〜パラスポーツを支える人やモノ〜、#2ガイドランナー編の原作を元に制作しました。

ガイドランナー・安田享平の契機

安田「(マラソンは長距離ランナーとしての集大成だ。もっと早い記録を出すには……)」

「おーい!安田!」

トラックを走りながら考えごとをする安田を、不意に順天堂大学・澤木啓祐監督が呼ぶ。

安田「(何だろう……?)」

駆け寄る安田に澤木は唐突に話を始めた。

澤木「今年の8月にアトランタでパラリンピックがあって、視覚障がいの選手が出場するからお前が伴走してやれ! いいな、任せたぞ!」
安田「はい! わかりました!」

刷り込まれた体育会系の宿命から、監督から言われたことに躊躇なく返事した安田だったが、引き受けたものの我に返ってただただ焦る。

安田「(アトランタ? パラリンピック? 視覚障がい? 伴走? ……ってオレは何をしたらいいの?? 汗)」


――安田享平。1967年生まれの当時28歳。
中学まで野球をしていたが、学校選抜の駅伝大会に学校代表として出場して優勝&区間賞を獲得。大勢の前で表彰されることに味を占めて高校入学後は陸上部に入ったが、なかなかタイムが伸びなかった。卒業後の就職も決まった高校3年の秋からタイムが伸び、自己ベストを連発する(今思えば、長距離は時間をかけないと伸びないので…… ※後日、本人談)。

『まだやれる!』と手ごたえをつかんだ安田は、地元の新日鐵君津製鐵所(現・新日鐵住金君津製鉄所)に就職し、その後も走り続ける。
友達がスキーや海に女の子と遊びに行こうが、三交代勤務で夜勤があろうが、とにかく走り続け、ついに就職して4年目、東日本縦断駅伝の千葉県代表に。
その活躍が認められて、一般社員から実業団選手になって千葉県君津から新日鐵八幡陸上部へ加わり、千葉と福岡を行き来する生活をしながら練習して、ニューイヤー駅伝をはじめとする各種駅伝大会等に出場。実力、実績を伸ばしていく。

そしてその年の春、多くの駅伝を走った安田は競技生活の最後はマラソンで勝負したいという思いから八幡の陸上部を離れ、地元でトレーニングする日々を送っていた。そして縁があり、地元の千葉県にある順天堂大学陸上部の練習に参加させてもらっていたのだ。そんな安田に降って湧いた伴走の話だが、安田はそれまでパラリンピックという言葉も聞いたことがなかったし、視覚障がい者が伴走者と一緒に走ることも知らなかった。

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そもそも、視覚障がい者は運動したくても危険が伴うため、一人で走ることができない。そこで見える人が伴走することで視覚を補い、危険を回避するのだ。日本においては、1983年に第1回 全日本盲人健康マラソン大会が開催されるなど、早くから伴走の文化が存在していた。

しかし、時代が進むについて楽しみのジョギングから、順位を競う競技スポーツの色を帯びてきて、パラリンピックでの戦いも厳しさを増していた。

安田が伴走することになったのは当時40歳の柳川春己で、フルマラソンを3時間切るペースで走るブラインドランナーだ。
柳川は病気から8歳で失明し、30代に入ってからランニングを開始。
そして、当時からさかのぼること4年前、1992年のバルセロナパラリンピックに出場し、マラソンでメダル獲得を狙うも、途中でガイドが脚に痙攣を起こしてしまい6位にとどまった。悔しい思いをした柳川は、とにかくパラリンピックでのメダル獲得に飢えていたのだ。柳川ほどの走力を持つ選手を42.195km伴走するためには、『2時間20分を切るランナーが必要』と考えた日本盲人マラソン協会・理事(現日本ブラインドマラソン協会・理事長)の澤木が柳川のガイドランナーを探し、安田に白羽の矢が立ったのだ。

メダル獲得のために早いガイドランナーが欲しい柳川と、駅伝に区切りをつけてマラソンに取り組みはじめた矢先の安田。運命のようなタイミングでアトランタパラリンピックの3か月前にコンビを組むことが決まり、まずは2人で大会に出場することに。

盲目のランナー・柳川春己との出会い

柳川が住んでいるのが佐賀県。安田が千葉県で、大会が行われるのが群馬県だった。柳川が飛行機で来るとのことなので、安田が羽田空港まで迎えに行くことに。

安田「(そろそろ出てくるころかな……)」

柳川が出てくるのを待っていると、空港の職員に連れられて白杖を持つ男性が歩いてきた。

安田「あの…、柳川さんですか?」

安田が恐る恐る声をかける。

柳川「おお!安田さんですか? 柳川です、よろしくお願いします!」
安田「柳川さん、あの、奥さんは一緒じゃないんですか……?」
柳川「ああ、女房がよろしくってよ! がははは!」
安田「(目が見えないのに一人で飛行機に乗ってくるなんて……)」

空港職員「お知り合いの方ですね。では私はここで失礼します」

空港職員が立ち去り、安田と柳川だけが残される。
いきなり取り残された安田はどうしていいかわからない。

安田「柳川さん、いきなりで本当にすいません……。僕、どのようにして柳川さんを連れて歩いたらいいかわかりません……」

正直に謝った安田に、柳川は慣れた口調で話しかける。

柳川「私が安田さんの二の腕をつかむから半歩前を歩いて誘導してくれよ。あと空港は人がたくさんいるから狭いところを通るときは手を引いてくれ」

言われたとおりに安田はなんとか柳川を連れて電車で移動し、新幹線に乗って群馬県まで移動した。

伴走の難しさを知る

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