やはり、落ち着いていた。5度目の出場となるパラリンピックで、自身初となる1大会3つ目のメダルを獲得しても、鈴木は冷静そのものだった。
次のレースに向けた冷静なレース回顧
8月28日に行われた東京2020パラリンピック水泳男子150mの個人メドレー(SM4)に出場した鈴木孝幸は、2分40秒53で3位に入り、銅メダルを獲得した。50m平泳ぎの銅、100m自由形の金に続いて今大会3個目のメダル。しかしクールな鈴木は、簡単には満足しなかった。
「メダルが取れましたので、そこは安心しましたし、よかったと思います。ですけど、ちょっとタイムが遅いのが不満かなと――」
30日の200m自由形、9月2日の50m自由形にも出場する鈴木は、「ここまでのレースを見つめ直して、改善できるところは改善したい」と抜かりはない。

この日のレースでは、後半の追い上げが見どころとなった。個人メドレー最初の背泳ぎでは、先頭から引き離されての7位。しかし「平泳ぎと自由形で持ち直そうとは思っていた」という鈴木は、ここから徐々に前の選手をとらえ始める。
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「今までの経験で比較的速いラップタイムで泳げているのは分かっていましたので、追い上げられるのではないかとは思っていました」
その言葉通り、平泳ぎを終える100mのターンで5位に上がると、最後の自由形で前を猛追。残り25m付近で6レーンを泳ぐスペインの選手を抜き去り、3位でフィニッシュした。

もっともっと競い合いたい
今年5月、鈴木はこう話していた。
「メダルが狙える種目は出たいと思っています。一番、メダル圏内から落ちそうなのが、個人メドレーかなと思います。僕の中では距離の長い種目になりますし、ハードな種目なので、メダルを狙えないようなポジションになってしまったら、泳がない可能性もあるかなと思いますけど」
しかし結果として、最もメダルの可能性が低いと考えていた個人メドレーできっちりと結果を残した。ワールドクラスのトップスイマーとなった鈴木に、凄みを感じるほどだ。
この種目、日本代表の選考を兼ねた5月のジャパンパラ水泳競技大会では、対戦相手がおらず1人で泳いだ。パラ水泳では、同じ障がいのクラス、同じ種目、なおかつ同じレベルとなると、どうしても競争相手は少なくなる。しかし、世界を見れば相手はいる。パラリンピックは、希少なライバルたちと競い合える場なのだ。