top_line

【 最新ニュースをアプリでサクサク読むなら! 】

70歳、忘れていた「女」が顔を出す。『疼くひと』に思いがけない極地を見た!

BOOKウォッチ

疼くひと(中央公論新社)<amazonで購入>

 「70歳からの恋。女のままでいたい。たとえどんなに孤独でも」――。

 松井久子さんの著書『疼くひと』(中央公論新社)は、「高齢者の性愛」という、なかなか触れづらいテーマに挑んだ作品。発売からわずか4か月半で5刷のベストセラーとなっている。

 帯コメントには「高齢社会は新しい文学ジャンルを切り拓いた」(上野千鶴子さん)、「70歳過ぎての性愛、特に女性については、未踏のエリアといっても良い。興味津々」(秋吉久美子さん)とある。

 「とどのつまりが、自分をどこまで解き放てるか。あるがままの自分の、完全なる自由。それが、いつの頃からか彼女が求めるようになったものだ」

何か、新しさを発見しなければ

 唐沢燿子は、もうすぐ古希を迎える。バツイチ、子ども1人。湘南のマンションでひとり暮らし。日に日に「老い」を感じながら、その現実を受け入れ難い気持ちでいる。

 離婚後、年齢より才能がものを言う脚本家の道に進んだ。45歳でデビューし、50代で高い評価を受け、60代で「唐沢燿子はもう古い」と言われ、あっという間に「御用済み」となった。

広告の後にも続きます

 作家の横光利一(1898~1947)が50前に「初めて年をとった価値がわかってきた。非常に新しくなってきた。年をとるのも新しさだ」と語っているのを、燿子は読んだことがある。

 「自分は、横光より二十年も長く生きながら、僻みと疎外感のあわいを、未だ彷徨っている。それを情けなく思うこともある。私も何か、新しさを発見しなければ……」

忘れていた「女」が顔を出す

 ある日、燿子のフェイスブックに友達リクエストが届く。送り主の名は「沢渡蓮」。男性から、ただの挨拶文ではないメッセージが届き、「かすかな胸騒ぎ」を覚えた。

 「――唐沢燿子さま
  長いこと、あなたのドラマのファンでしたが
  最近は脚本のクレジットに唐沢燿子の名が見つけられず
  テレビドラマが著しく幼稚で薄っぺらになったのを
  憂えている者の一人です」

 基本情報の欄を開くと、「沢渡蓮」は燿子より15も歳下だった。「それでももう、五十五歳。立派な中年男だ」。

 燿子が承認ボタンを押した数日後、再びメッセージが届く。「沢渡蓮」は「札幌に住む一労働者」という。「警戒心」と「好奇心」が交錯するなか、燿子と見ず知らずの男とのチャットは始まっていた。

 「燿子は狼狽した。長いこと忘れていた『女』が顔を出したのだ」

 「もう女性として生きることはない」と、諦めていたはずなのに。沢渡のメッセージを読めば、心が自然と浮き立った。何度目かのやりとりで、「お会いしたい」と書かれていた。

 「『唐沢燿子が欲しい』 沢渡の言葉が甦る。そんな浮ついた言葉に、簡単に反応してしまう自分を、興味深く眺めているもうひとりの自分がいた」

 燿子は沢渡と会う約束をする。「沢渡蓮という男が、今自分を支配している怖れや気後れを、簡単に覆してくれる男であって欲しい」と願いながら。

書くなら映画ではできないことを

  • 1
  • 2

TOPICS

ランキング(読書)

ジャンル