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テレビはコンプライアンスで健全になったVSつまらなくなった「どっち!?」 放送作家・鈴木しげきの「テレビを読む」

テレビドガッチ


昨今よく目にする“コンプライアンス”という言葉。「法令遵守」という意味ですが、意味合いに幅があり、テレビにおいては「道徳的に守らなければいけないルール」として使われていることも多い。

世の中も企業もテレビ業界もコンプライアンスを重視していますが、それによってときどきこんな声を耳にします。

「コンプライアンスのせいでテレビはつまらなくなった」

そもそもテレビの影響力や公共性を考えたら、コンプライアンスを重視するのは多くの人たちがテレビを楽しむために当然のことでしょう。ところがそのせいで窮屈だという声がある。現状は厳しすぎるのか? それとも妥当なのか? はたまたどのあたりが無難なのか? ちょっと考えてみました。

昔のテレビを知る世代にはちょっと窮屈…?

さっそく周りの人たちにアンケートを取ってみました。「健全になったと感じますか? それとも、つまらなくなったと感じますか?」と聞くと、7割くらいは「健全になった」という答えが返ってきました。

しかし、多くの人が「健全にはなったが、昔に比べるとつまらなくなったかも」といったニュアンスのコメントをしていて、2択で聞くアンケート自体にあまり意味がなかったようです。そして、これはどうやら世代で感じ方が分かれるような印象を受けました。

そもそも昔のテレビを知らなきゃ今のテレビを窮屈だとは思わない。つまり、「コンプライアンスのせいでテレビがつまらない」と言っているのは上の世代の人たちです。一方、若い世代はネットで昔の番組にふれて、驚き体験をしているようで「昭和のバラエティーってハチャメチャで面白い」(20代・男性)と、今のコンプライアンスを基準に判断している様子が窺えます。

いつの時代も若者は過激なものに惹かれます。この春、大学講師の方が「現役大学生が見ているテレビ」(3ヶ月ごとに変わるのでドラマを除く)を調査した結果を発表しました。『有吉の壁』『アメトーーク』などが挙がる中、第1位は『水曜日のダウンタウン』でした。仮説を検証するバラエティーで、ときどきやりすぎだと批判も出る番組ですが、独自な視点で、きっちり笑えて、果敢に挑んでいる番組と言えるでしょう。

ならば、今の時代に過激な昭和バラエティーを再現したらいいのか? それは違う気がしますし(そもそも、そういった過激バラエティーがコンプライアンスを意識していく一因でもあったわけで)、また『水曜日のダウンタウン』のスタッフも現在の視聴者を探りながらギリギリを攻めているのでしょうから、話はそんな単純なものではないと思われます。

何かが変化しているのです。いったい何が……?

テレビは視聴者の声に応えてこんなに変化している

まず、コンプライアンスのおかげでよくなった点を聞いてみました。

「LGBTに配慮することで傷つく人が減ったのはよい」(30代・男性)
「容姿へのいじめにつながりそうな表現が減って安心」(20代・女性)
「下ネタなど家族で見ていて凍りつく瞬間がなくなった」(30代・男性)
「当時、どこまでガマンできるか? という番組があり、トラウマになった。こういう番組はリスクがあると親になって感じる」(40代・女性)
「不確かな健康法の紹介がなくなったのはよい。かつて(昔)母がおもいっきり真に受けて、勧められる食材を買っていた」(50・男性)

こういったテレビの変化は視聴者の声に応えたもので、評価されてよいのではないでしょうか。とくに子どもたちへの影響を意識した声は多く、昨今、芸人さんの容姿を“いじる”ことに対してはさまざまな意見があり、それが“いじめ”につながるからやめてほしいといった声は目立ちました。

「ひどい番組ならチャンネルを替えてしまいます」(30代・女性)
「芸人さん本人はそれが個性だと思うが、影響力を考えたら改めないといけないのでは」(30代・男性)

そういったものが減りつつあるのは、コンプライアンス重視のおかげでしょう。よく「テレビ離れ」なんて言葉を耳にしますが、もしかしたら、テレビの影響力や公共性に関しては以前より高くなっているのかもしれませんね。

コンプライアンスの弊害? その時、テレビは?

続いて、コンプライアンスのせいで気になる点も聞いてみました。

「ときどき、お笑いウルトラクイズのような番組が見たくなる。当時、爆笑した」(40代・男性)
「うさん臭い人が出るのが減った。わけのわからない有象無象が出てくるのもテレビの面白さだった気がする」(50代・男性)
「落とし穴のようなドッキリがなくなった」(30代・男性)

過激でくだらない面白さを懐かしむ声は一定数あるようです。それに魅せられた世代は、今のテレビがお行儀よく見えてしまうのかも……。

しかし最近のテレビはこういった路線とは違う方向で、可能性を感じさせる番組も出てきています。例えば、ドラマ『孤独のグルメ』の内省的な面白さ。これなど昔ではありえませんでした。ソロキャンプや散歩系の番組も、自分の時間を充実させたいという、今っぽい願望に応えたものでしょうね。

また、コンプライアンスのせいでこんな点も気になるようです。

「ドラマで強盗犯がシートベルトするシーンはやはり萎える」(40代・女性)
「よく『専門家による監修のもとで行っています』『個人の見解です』など、画面に注意書きが表示される機会が多すぎて冷める」(30代・男性)
「『スタッフが美味しくいただきました』が気になる。“とりあえず出しておけば怒られない”みたいな意図を感じてしまう」(30代・女性)

確かに、強盗犯が逃走する時、シートベルトはしていないでしょうね(落ち着いたらするかもしれないけれど)。

そういえば最近、アニメ『スーパーカブ』が原付自動車の二人乗りシーンを描き、視聴者から「違反ではないか」との指摘があがる出来事がありました。これに対し、制作側はこんな回答をしています。「キャラクター性を重視したストーリーの展開上、必要と判断した上での演出となりますので、公序良俗、法律に反する意図は全くございません。あくまでも創作された現実ではない夢のある楽しい物語=フィクションとしてお楽しみいただけましたら幸いです」(一部抜粋)

作品を伝える上で大事なシーンなら、杓子定規な判定はしないで「これで行く!」と決めた例です。この回答に対し、賛否両論が出ましたが、多くの視聴者は制作意図に理解を示したようです。

コンプライアンスを重視した上で、より高い次元の判断をしていく。こういったことも必要でしょうね。

ただの変化ではなく進化をめざして

どうやら現代の視聴者は「人を傷つける」「不快にさせる」といったものはふさわしくないと感じている。ところが、コンプライアンスの名目でおかしなことになっているなら、それは知恵を絞るなり、新たな工夫を見せてほしいと思っている――こんな感じです。

以前、ドラマで車の逃走シーンをシートベルトなしで放送した番組があったそうです(もちろん撮影は法令遵守で行われています。車内と外観の走行シーンが別々に撮影され、車内の映像は撮影所内で収録。それでシートベルトなしが可能に)。しかし、この時は多くの視聴者が勘違いしないように注意書きの説明表示を入れたとか。

ん? 再現性を高める努力をしたのに、冷めるテロップを入れるとは……。む、難しい!

こういったものに明確な線引きはないのでしょう。子どもの見るアニメなら、時代背景が昭和でもシートベルトはした方が交通安全を訴えるためによさそうですし、事件の真相を伝えるドキュメントドラマなら危険性や凶暴性を訴えるためになしにする選択もあるのかもしれない。とても難しい判断ですが、ケースごとにちゃんと向き合う。これこそがコンプライアンスが機能するということだと思います。

バラエティーもコンプライアンス重視で、それまでにない面白さを開拓しているさなかです。それらの変化から、新たな映像表現やヒット企画が生み出されていけば、その変化は進化と呼べるでしょう。

制作者たちは一日一歩でも前進しようと試行錯誤中です。
今日もテレビは放送してます。
感想や気になることはどうぞTwitterなどでつぶやいて。
それがテレビを面白くさせるチカラになっていきますから。

【文:鈴木 しげき】

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