大谷翔平がトレードされる可能性は?メジャーでよくある大型移籍の話。
大谷翔平がトレードされる可能性は?メジャーでよくある大型移籍の話。
 エンゼルスの大谷翔平がトレードされる――。 いつか、そんな日が来るかも知れない。


大谷翔平はロサンゼルスで愛されている。しかし、それとトレードの可能性はメジャーではまた別の話なのだ。 (photograph by Getty Images)

 エンゼルスの大谷翔平がトレードされる――。

 いつか、そんな日が来るかも知れない。このままアストロズの黄金期が続き、マリナーズやアスレチックスが互角の勝負を展開し、エンゼルスだけが優勝の気配すら感じさせないシーズンを送り続ければ、あり得ない話ではない。メジャーリーグはそういう場所だ。

 言わば「戦略的トレード」である。

 もしもその時点で大谷の契約年数が残り1年以下で、それまで何年間も活躍しているのに契約延長が成立しておらず、オフに交渉すればとてつもない高額になる見込みだったとする。

 しかも今夏のようにエンゼルスが優勝する見込みがない状況になって、そこに「大谷獲得」を狙ってトレードを持ちかけてきた球団がマイナー全体の「トップ10」に入るような「有望株」を何人も差し出してくる。そうなった時、エンゼルスはどんな決断をするのだろう。

トレードが否定的に捉えられる日本。

「ポスティングの入札金だけでも2000万ドルも支払ったのだから、そんなこと起こらない」

 そうは思わない。ダルビッシュ有投手がメジャーに来た2012年、彼がいつかトレードされるなんてイメージできた人はいただろうか。

「契約が残り2カ月となる2017年の夏に他球団にトレードされる」と予想できた人がいただろうか。そう、レンジャーズはダルビッシュに入札金5170万3411ドル+6年5600万ドルを投資したにもかかわらず、「戦略的トレード」したのだ。大谷に同じことが起こっても何ら不思議じゃない。

 日本のプロ野球チームやファンの方々にそれがあるとは言わないが、そういうことをイメージできない理由は、きっと「トレード」に対する「恐怖心」があるからだろう。「否定的な考え」といった方がいいかも知れない。

「トレード=戦力にならない選手の放出」と考えればとてもネガティブだが、トレードに関わった球団の双方にメリットがあるのが「戦略的トレード」だ。それは選手と球団の両方にとって未来につながる「肯定的=ポジティブ」なものである。

即戦力と若手、チーム状況によって価値は変わる。

 たとえばシカゴ・カブスは2016年の夏、当時19歳でメジャーから3階級も下の傘下のマイナー球団でプレーしていた「有望株」グレイバー・トーレス内野手ほか2名のマイナー選手と、すでにメジャーでプレーしていた救援のアダム・ウォーレン投手を放出し、救援左腕のアロルディス・チャップマン投手を獲得。

 108年ぶりのワールドシリーズ優勝を果たした。

 カブスが「メジャーリーグNo.1」の称号と引き換えに手放したトーレスは、今季21歳でメジャーデビューを果たして田中将大のチームメイトとして二塁の定位置を確保。昨季のリーグ新人王にして本塁打王でもあるアーロン・ジャッジ外野手や同じ新人のミゲル・アンドゥハー三塁手(今は故障者リスト入り中だが)らとヤンキース打線を引っ張っている。

 彼が現地8月2日時点で記録している17本塁打は、大谷の9本塁打を大きく上回るア・リーグ新人最多だ。

 トレード成立当時、チャップマンとヤンキースの契約は残り「2カ月」しか残っていなかった。そのオフにフリーエージェントになることが決まっていたので、チャップマンは実質的には「2カ月」のレンタルだったわけだ。

 もちろん、再契約の可能性は残されていたが、結局チャップマンはヤンキースに戻ることを決意。カブスはたった「2カ月」(とプレーオフの1カ月)のために「2018年のア・リーグ新人王の有力候補」を放出したことになる。

非凡な若手4人を出してまで獲ったキンタナ。

 カブスは連覇を目指した昨2017年の夏も動いた。やはり当時20歳でメジャーから4階級も下のマイナー球団でプレーしていた「有望株」イロイ・ヒメネス外野手、当時21歳でメジャーより5階級下のマイナーにいた「有望株」ディラン・シーズ投手ほか2名のマイナー選手を放出し、ホワイトソックスで50勝を挙げていた左腕ホセ・キンタナ投手を獲得。

 ナ・リーグ中地区2連覇を成し遂げたものの、ナ・リーグ優勝決定シリーズで今はチームメイトのダルビッシュ有投手に好投されるなどして敗退した。

 カブスがナ・リーグ優勝と引き換えに手放したマイナー4選手は、現時点でまだメジャーデビューを果たしていないが、ヒメネスは今季、21歳でメジャー目前のAAA級まで昇格し、打率.376、出塁率.423、長打率.693と非凡な才能を発揮。

 シーズ投手は今季、22歳でメジャーより2階級下のAA級まで昇格し、先発投手として6試合34回2/3を投げて49三振を奪うなどしてマイナーの月間最優秀選手に輝いている。つまり、カブスは「2年2カ月」(とプレーオフの3週間)のために「未来の主軸打者と先発ローテの1、2番手候補」を放出したことになる。

Wシリーズ優勝という究極の目標のために。

 チャップマンの「戦略的トレード」がワールドシリーズ優勝に結びつき、キンタナのそれがナ・リーグ優勝決定シリーズ敗退だった事実を考えれば、前者が成功で後者が失敗だったと考えそうだがそれは違う。

 プロ野球チームの究極の目標は優勝することであり、ファンや地元メディアもそれを期待する。カブスはチャップマンの時もキンタナの時も等しく、その目標のために「戦略的トレード」という努力をしたのだ。

 そして大事なのは、当時のヤンキースやホワイトソックスが決してファンを欺かなかったことだ。彼らは優勝の望みがなかったからこそ、主力選手を放出して他球団の「有望株」を獲得して未来につなげようとした。そして、ファンや地元メディアもその決断を支持したのである。

「最後まで全力」とは言わない米球団。

 チャップマンよりもキンタナのトレードの方が「有望株」を多く費やした理由の1つは、トレード成立当時、チャップマンの契約が「残り2カ月」しか残っていなかったのに対して、キンタナの契約は2019年終了までの「2年と2カ月」も残っていたからだ。契約の残り年数が長ければ長いほど「有望株」の質や数は増える傾向にある。

 もちろん、それは有力選手の実力や年齢、そしてその選手の獲得にどれぐらい他球団と競合しているのかにもよる。

 たとえば今夏、ドジャースはチャップマンと同じ残りの契約が「2カ月」のマニー・マチャド内野手を獲得しているが、その引き換えに5人もの有望なマイナー選手を取引先のオリオールズに放出しなければならなかった。それは「昨季、アストロズに敗れて届かなかったワールドシリーズ優勝を果たすため」である。

 救援左腕のザック・ブリットン投手なども「戦略的トレード」したオリオールズは、すでにペナントレースで絶望的な状況にあった。

 彼らに限らず、メジャーリーグの各球団はとても現実的で「最後の最後まで全力を尽くして戦います」などという戯言は言わない。そんなことをしたところで「未来」に繋がらないのは誰が見ても明らかだからだ。そんな無駄な抵抗はせずにさっさと白旗をあげ、「戦略的トレード」で他球団の有望な選手をごっそり頂いてファームを強化する。その方がすでに惨めなシーズンで失望しているファンや株主にとって誠実である。

トレードは選手にとってもチャンスである。

 事実、オリオールズがドジャースから獲得した5人のマイナー選手の内、4人はすでにオリオールズの「有望株」リストの上位30人に入っており、1位は今年のオールスターゲームの前座「フューチャーズゲーム(未来のオールスター)」で2本塁打を打ち、ドジャースの「有望株」リストで4位に入っていたユスニエル・ディアス外野手だ。

 メジャーリーグではこうした「戦略的トレード」が7月末のノンウェーバー・トレード期限以外にも頻繁に行われる。起こる回数に「多い」、「少ない」はあるが、シーズン開幕前、シーズン序盤、トレード期限、シーズン終盤、シーズン終了後と、いつ何時でも「戦略的トレード」が起こる環境がある。

 そして、それは選手たちに「弱小球団から移籍して優勝するチャンス」、「プレーオフを勝ち上がってワールドシリーズに出場するチャンス」、「出場機会を得て自分の実力を証明するチャンス」、「マイナーからメジャーに昇格するチャンス」を提供している。

トレードは両チームに得があるのが大事。

 ひとつ間違ってはいけないのは、それらの「戦略的トレード」は、その取引に関わった両チームに「利益」が生じることを前提としていることだ。

 低予算球団アスレチックスをモデルにした映画「マネーボール」の原作本では、あたかも敏腕ビリー・ビーンGMが他球団のGMを狡猾な交渉術で出し抜き、自分の球団だけが得をするトレードを仕掛けているように表現されているが、それは絶対に違う。

 結果的に片方のチームが損をすることはあっても、その大部分はカブスとヤンキースのように両チームに利益があることを前提としている。

 だから、「戦略的トレード」は、もっと日本のプロ野球でも起こってもいい。「最後の最後まで全力を尽くして戦います」と無言の主張をするのもいいが、それは本当に優勝を願うファンに誠実な態度だろうか。

 選手たちにとっての「チャンス」に等しく、ファンの方々にとっても「戦略的トレード」は「応援するチームが有望な若手選手を獲得するチャンス」であり、「優勝を諦めざるをえないシーズンでも、来年に向けた楽しみが増えるチャンス」になるのではないかと思う。

text by ナガオ勝司
「メジャーリーグPRESS」

(更新日:2018年8月9日)

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