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狼が及ぼす影響はこんなところにも。鹿と車の事故を減らしているという調査報告(アメリカ)

カラパイア

狼が鹿と自動車の衝突事故を減らしているという事実が発覚0
photo by Pixabay

 生態系を安定させるため、アメリカの一部の地域では、一度は絶滅の危機に追いやった狼の再導入が行われており、その成果が報告されているが、人間の予想を超えた恩恵を狼はもたらしてくれていたようだ。

 アメリカでは野生の鹿が多く生息しており、鹿と車の衝突事故は日常茶飯事となっている。保険会社の調査によると、アメリカでは2019年7月から2020年6月の1年間に、動物(鹿以外も含む)と車の衝突事故が190万件も発生しているという。

 鹿は車に対して全く脅威を感じないのだが、狼に対してはかなりの脅威を感じているようで、狼を導入した地域では、狼が鹿を怖がらせ、高速道路から追い払っているおかげで、衝突事故が減少しているという。

狼のいる地域では鹿と車の衝突事故が少ない


 鹿はどういうわけか車を恐れない。その為に車が来ても道路の上から逃げようとせず、高速道路にまで入り込んでくる。その為に車との衝突事故が相次いでいる。

 ところが、彼らは車以外の脅威を察知する能力は優れているようだ。とにかく狼を避けなければならないことは良くわかっている。

 新たな研究によると、狼がなわばりをもつ地域は、鹿と車の衝突事故は少ないと言う。狼が鹿を怯えさせ、車道から遠ざけているからだ。

 つまり、そうした地域で狼の数をコントロールすれば、ドライバーが衝突の差異の修理費や治療費など、多額の金を節約できるという、間接的なメリットにつながるという。

 ちなみに鹿に衝突するとその衝撃は大きく、人を轢いた以上のダメージが発生する。事実私の友人がアメリカの高速道路で鹿を轢いた時、車は大破した。

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photo by Pixabay

狼の個体数を維持することの大切さ


 2013年、五大湖周辺の郡で集中的な調査が開始された。この地域では2012年にハイイロオオカミの生息数が増えたため、絶滅危惧種保護法のリストから外されていた。

 しかし、それも束の間、狩猟のせいで、1年しかたたないうちに再び絶滅危惧種リスト入りすることになってしまった。

「狼は、五大湖の絶滅危惧種リストに出たり入ったりしています。アメリカのほかの地域でもそうです」ウェスリアン大学、天然資源経済学者のジェニファー・レイナーは言う。

 レイナーら研究チームは、狼がさまざまな地域で再び生息し始めたことによる間接的な利益を調べ始めた。

 今年、狼はハワイとアラスカを除くすべての州で、絶滅危惧種ではなくなった。この研究論文は、政策立案者が狼の管理を適切に判断し、狼による”油断のならない漠然とした”利益を定量化するのに役立つかもしれないという。

「捕食者がいることによる利益がどれほどのものであるかを目に見える形にするのは、非常に複雑で難しいのです。その一方で、コストのほうはとてもはっきりしていて、測りやすいと思います」レイナーは言う。

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photo by Pixabay

狼がいることで鹿と車の衝突事故が24%減少に


 研究チームは、1988年から2016年の間の63の郡における鹿と車の衝突データについて調べた。このうち29の州に狼が生息している。

 そして、このデータを、天然資源省が作った、狼が戻ってきた時期と場所を示すマップと照らし合わせてみた。ここから、狼の存在が鹿と車の衝突に与える影響を知ることができた。

 マディソンにあるウィスコンシン大学の経済学者、ドミニク・パーカーは言う。

経済学者は、野生動物、絶滅危惧種、大型捕食者など、さまざまなもののコストと利益を測る研究をしています。こうした計算は割り出すのは難しいとされていますが、一部なら推定することができる有望な方法だと考えています

 狼が生息していることで、鹿と車の衝突事故が全体で24%減ったことがわかった。この効果の4分の3は、狼が論文で言うところの”恐怖の環境”を作ったことによって、鹿が車道に近寄らなくなったおかげだ。

 残りの4分の1は、狼が鹿を捕食してその数を減らしたためだ。研究チームは、各郡における鹿の生息数ベースに基づいて計算した。

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photo by Pixabay

狼がいることのメリット


 もちろん狼は、例えば家畜を殺すなど、経済的に負の影響も及ぼす。しかし、捕食者のいる地域は、だいたいにおいてメリットのほうが大きい。

 論文では、衝突事故の減少によって、1100万ドルの損失が回避されたと指摘している。パーカーによると、この金額は狼が家畜を殺した場合の損失の63倍に当たるという。

 レイナーによれば、ヘラジカや鹿のような有蹄類は、捕食者がまわりにいると、その餌食にならないように行動を変えるという。

 さらに、狼は、素早く移動するための通路として車道を利用することが多いので、鹿は狼を避けるため、車道に近づかなくなり、車と衝突して命を落とすことも少なくなる。

 鹿と車の衝突事故が多く、理想的な狼の生息地になっている地域にとって、この研究は貴重だ。例えば、ニューイングランドは、増えすぎた鹿が車との衝突事故によって死亡する率が高い地域で、狼が歩き回るのに適した広大な森がある。

 レイナーは、狼がべつの間接的な利益をもたらす可能性もあるとしている。

 例えば、狼が鹿を捕食してその数が減れば、鹿が作物を食い荒らす被害が減るかもしれない。しかし、この研究がほかの動物にも適用できるかどうかは、判断は難しいという。

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photo by Pixabay

人間の介入は狼の代わりにはならない


 フレイザー・シリングは、環境と交通の関係を研究している、カリフォルニア大のロード・エコロジー・センターの所長。捕食者の減少が思いもかけない影響を環境に与える多くの例があると話す。

 例えば、前の世紀では、イエローストーンの生態系の中にオオカミの姿が見られることは珍しかった。

 狼の数が減ると、鹿やヘラジカの数が爆発的に増え、川のすぐ近くまで草を食い尽くしてしまった。そのため、一帯が砂漠化し、川床が侵食された。

 生態系から捕食者を排除してしまうと、予想もしなかった影響が現われる。「下流効果が現われることは予測できますが、それがどんな影響なのかは必ずしも予測できるとは限りません」

 レイナーとパーカーの論文は、人間のハンターが狼の代わりになることはできないということも指摘している。

 人間が銃で多くの鹿を殺すことはできても、人間の存在が自然の捕食者と同じように、鹿を怖がらせ、近寄らせなくさせることはできないというのだ。

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photo by Pixabay

 生態系を調整するために、人間が介入して動物を狩ればいいという議論は古くからあった。アラスカでは狼を殺してきた長い歴史があるので、人間がもっと食料を得るために有蹄類を狩ることもできるというわけだ。

 こうしたハンターたちが、生態系の中にいる狼の役割にうまいこととって替わることができるという議論もある。

 こうした考えがうまく機能する場合もあるかもしれないが、レイナーとパーカーの研究からは、常に完璧な解決策になるとは限らないことがわかる。

「つまり、人間が肉食動物による効果を代替できるという考えは、間違っているということです。少なくとも、彼らが調査してきた限りでは」シリングは言う。

References:Wolves create a “landscape of fear,” slowing deer-car collisions | Ars Technica/ written by konohazuku / edited by parumo

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