さまざまな形の「つくる」から成り立つ暮らし
わたしたちの暮らしは、さまざまな形の「つくる」から成り立っています。ライフスタイルによって個人差はあるものの、食事をつくったり、農作物を育てたり、コスメやアクセサリーといった雑貨の手づくり、または大工仕事やお裁縫など。「自分は何もつくらない」という人だって、誰かが作ったものを活かして暮らしていることを否定したりはしないでしょう。
ハッコラ読者の皆さんの中には、味噌や醤油、ぬか漬けや梅干し、納豆など、自家製発酵食を楽しんでいる方も少なくないと思います。そこで今日はハッコラが注目する、ひとりの作り手をご紹介します。
舞台は鹿児島、種子島
関 由紀子さん
鹿児島県、種子島。16世紀に鉄砲が伝来したこの島は、農作物がよく育つ島でもあります。さまざまな作物の北限であり、かつ南限でもあるため、伝統的な日本の食文化と地域社会がしっかり結ばれているかのような土地です。
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その種子島で麹をつくっているのが関 由紀子さん。「たねの島糀」という屋号で、手づくりした麹室を活用し製麴、その麹からお味噌やお醤油といった発酵調味料をつくっています。「近所にパン屋さんがなかったから」始めたというパン作りも、麹から起こした酵母を使っているそうで、発酵食品をゼロから手づくりする日々を送っています。
挑戦する、醸し人
見事なグリーンのカビを採取
関さんに大きなターニングポイントがおとずれたのは、2017年のことでした。麹文化研究者のなかじさんから助言を受け、空気中に含まれる麹菌を採取する試みにチャレンジしたのです。温暖多湿の種子島、竹カゴに入れた白米に灰をまぶして窓辺に置いて待機することで、見事なグリーンのカビを採取しました。
この細菌名を明確にすべく同定検査できる機関を探したものの。検査拒否が続くというアクシデントを乗り越え、2018年、無事に黄麹菌(アスペルギルス・オリゼー群)だったことが判明しました。種子島由来の、天然の麹菌であることが明確になったのです。
この時すでに種子島移住から約20年、発酵食品を含む地域の食文化に慣れ親しんでいたものの、天然の麹菌を見つけられた事実は、関さんの行動力をさらに前進させるきっかけになりました。水面に投げ入れられた小石の波紋が広がるように、関さんの周りには天然麹菌を軸にした大きなうねりが始まります。
さまざまな先駆者たちに会いに行くなど積極的な行動を続けているうちにご縁があって、種麹の製造販売を行う株式会社 秋田今野商店の佐藤勉さんと出会えました。この佐藤さんの協力があったことが、天然麹菌を軸にした関さんの今後の在り方を決める決定打となったのです。