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「おちょやん」のモデル・浪花千栄子が、自伝のタイトルに込めた思い

BOOKウォッチ

水のように(朝日新聞出版)<amazonで購入>

 NHKの連続テレビ小説「おちょやん」が、いよいよ佳境に入ってきた。夫の浮気が原因で離婚。「もう芝居はしない」と決意したヒロイン竹井千代が翻意してラジオドラマに出演することになった。演じる杉咲花さんのはんなりした関西弁に毎日、聴きほれている人も多いだろう。見たり見なかったりしていた評者も、このところは毎日画面に釘付けになっている。

 モデルとなった女優・浪花千栄子さんの唯一の著書にして自伝が復刊されたと知り、本書『水のように』(朝日新聞出版)を買い求めた。

 芸だけでなく文章にもすぐれた人だったことがわかる。ドラマでおなじみのあの場面、この場面の元ネタが惜しげもなく披露され、夢中になり、あっという間に読み終えた。

タイトルはなぜ、「水のように」

 本書の構成は、「私の生きてきた道――そして、私の生き方」「私の芸歴」「私の住居」「私を支えてくれた人々」「双竹庵おりおりの記」「ある日、あるとき」「あとがき」のほか、上方芸能研究者の古川綾子さんの解説が付いている。

 「私の生きてきた道――そして、私の生き方」の冒頭に、こんな一文がある。

 「私の半生は、人にかえり見もされないどぶ川の泥水でございました。
  自分から求めたわけではありませんが、私という水の運命は、物心つく前から不幸な方向をたどらされておりました」

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 そんな泥水の中にでも、美しいはすの花が咲くことを信じていたという。しかし、「大阪の代名詞のように有名な道頓堀の川底が、どんなにきたないかもよく知っていましたから、不幸などぶ川の泥水の運命に、従順でした」と続いている。

 この後、1907(明治40)年大阪府の貧しい家に生まれ、9歳の秋に、道頓堀の芝居茶屋へお弁当を入れる仕出し料理屋の下女として奉公に出されたという、ドラマで承知の苦労話が展開する。

竹との因縁、家へのこだわり

 だが、まだ南河内の生家にいた頃の唯一の幸福な体験がインサートされ、強い印象を与える。竹との出会いだ。竹やぶの中が安息の場所だったことを次のように描いている。

 「竹と竹の間を一直線に無数の太陽の光線が美しいしまをつくり、ごくらくのような滑らかな静かさがそこに現出され、まるで自分が、お姫さまになったように思えたり、季節々々でつばきの花が赤いかわいい花を咲かせ、ぐみやあけびが実り、小鳥のさえずりは私に歌いかけるように思えたりするのでした」

 こうして竹に因縁を覚えた浪花さんは、京都の嵐山にこだわりの自宅を建て、「竹生(ちくぶ)」という名の料理旅館として営んだ。

 なぜ、自分の家を建てようと決心したのか? 夫の渋谷天外さんとの離婚が一因だった。

 「二十年連れ添って、さんざん苦労させられた妻である私に、ついに、自分たちの住み家と名のつくものを与えなかった人が、新しい女と同せいして四か月目に、無理苦面してまで家を買い与えたという事実は、別れて後、私を激怒させるに十分でした」

転機となったラジオドラマへの出演

 1952(昭和27)年、NHKラジオドラマ「アチャコ青春手帖」での花菱アチャコとの掛け合いが注目を集め、「アチャコのおかあさん」として、浪花さんの名前は全国に知られるようになった。

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