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 『ONE PIECE』の作者・尾田栄一郎は、無数に登場するキャラクターたちの個性を際立たせるために、さまざまな技巧を凝らしている。とくに印象的なのが、2人の登場人物を“対となる存在”として描き出すやり方だ。

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 対の存在、言い換えれば対称的な関係として人物を掘り下げるということだが、その技法は主人公のルフィに対しても発揮されている。「麦わらの一味」の筆頭メンバーであるサンジとの関係性において、さまざまな対称性が指摘されているのだ。

 たとえばサンジは自己犠牲の精神を強く持っており、仲間を助けるために自分の命を差し出そうとするシーンが何度も描かれてきた。

 それに対してルフィは、仲間同士で助け合うことを信条とするキャラクターだ。アーロンに無力さを笑われた際には、剣術も航海術も料理も満足にできないことを告白し、「おれは助けてもらわねェと生きていけねェ自信がある」と胸を張って宣言。その代わりに「お前(アーロン)に勝てる」と、適材適所で自分のやるべきことを主張するのだった。

 また、アラバスタ編で仲間と認めたビビに対して放った「俺たちの命くらい一緒に賭けてみろ」という名言も、自己犠牲とは正反対のスタンスから出てきた言葉だろう。

 そしてルフィとサンジは、その境遇においても似た部分がある。2人は同じ“三男”なのだが、ルフィは血のつながっていない兄をもち、家族以上の絆を築いた。しかしサンジは血がつながった兄弟でありながら、絶縁をためらわないほどの険悪な関係だ。

 さらに時は進み、「麦わらの一味」はシャボンディ諸島でバーソロミュー・くまに世界各地へと飛ばされることに。そこでルフィが男子禁制を掟とする女ヶ島の「アマゾン・リリー」に飛ばされる一方、女性好きのサンジは「カマバッカ王国」に飛ばされ、壮絶な2年間を過ごした。

 ほかにも2人の間には、カナズチと泳ぎの名手などと、何かと対になる要素が見受けられる。

 ただ、この組み合わせは『ONE PIECE』の作中ではややイレギュラーかもしれない。実際には、敵対する2人が対称的に描かれることが多いからだ。

対称性を感じさせる親子関係も

 作中でハッキリと対称的に描かれている敵同士といえば、ルフィと“黒ひげ”マーシャル・D・ティーチが思い浮かぶ。

 2人が初めて出会ったのは、ジャヤ西部にあるモックタウンの酒場。ルフィがチェリーパイを「マズイ」と酷評する一方で、ティーチは顔をほころばせて「ウメェ」と大絶賛する。そしてドリンクについても真逆の反応を示し、たちまち喧嘩腰になるのだった。

 食の好みだけでなく、その野望についても正反対。ルフィといえば「この海で一番自由な奴が海賊王だ」という信条の持ち主で、なによりも自由を重んじる生き方だ。それに対してティーチは、自身が支配する「黒ひげ王国」の建国を目指している。

 また海賊王のクルーとして共に育ち、後に決別したライバル、シャンクスとバギーの関係性も興味深い。

 若き日の2人は、南極と北極のどちらが寒いのかという論争でそれぞれ持論を展開していた。ほかにも赤髪と青髪という髪色の違いや、高い実力がありながら侮られるシャンクス、実力がないのに口車だけで周囲を恐れさせるバギーと、さまざまな点が対称となっている。

 さらにワノ国編では、2組の親子が“対”として描かれていた。実の親子でありながら命のやりとりを行うカイドウとヤマト、偽の親子でありながら命を預ける錦えもんとモモの助という対比だ。

現在突入している最終章では、どこまでキャラクターの描写が掘り下げられるのだろうか。ルフィ&ティーチやシャンクス&バギーといった関係性の今後にも注目したい。

文=キットゥン希美