『サイボーグ009 超銀河伝説』ビジュアル (C)石森プロ・東映

【画像】絵柄変わった?似てる? 石ノ森章太郎先生の死後に作られた『サイボーグ009』シリーズ(5枚)

3作目となる劇場版『超銀河伝説』

「萬画家」石ノ森章太郎氏の代表作であり、ライフワークとして描き続けたのが『サイボーグ009』です。異なる能力を持つ9人のサイボーグ戦士たちが、強大な敵と戦うSFアクションコミックです。「集団ヒーローもの」の先駆的作品として、幅広い世代に親しまれています。

 1964年に「週刊少年キング」での連載が始まり、その後も「週刊少年マガジン」「冒険王」などと掲載誌を変えながら、断続的に連載が続きました。個性豊かなキャラクターぞろいだったこともあり、1968年のモノクロ版でのTVアニメシリーズをはじめ、たびたびアニメーション化されている人気作です。

 BS12では2023年5月21日(日)19時から「日曜アニメ劇場」にて、劇場アニメ『サイボーグ009 超銀河伝説』(1980年)を放映します。劇場アニメ版としては3作目となる『超銀河伝説』の見どころを紹介するとともに、『サイボーグ009』の魅力を掘り下げます。

劇場公開時、「004」の自爆シーンが話題に

 東映動画(現・東映アニメーション)制作、明比正行監督による『サイボーグ009 超銀河伝説』は、1979年~80年に放映された高橋良輔監督のTVアニメシリーズ『サイボーグ009』(テレビ朝日系)が好評だったことから企画されました。

 ネオ・ブラックゴースト団を倒し、「009」こと島村ジョーをはじめとする9人のサイボーグ戦士たちは、それぞれ平和な生活を送っていました。そんな折、宇宙全体を支配しうる力がある超エネルギー「ボルテックス」を狙う侵略者・ゾアの存在が明らかになります。サイボーグ戦士たちの「生みの親」ギレルモ博士のもとに、9人は再び集まります。

 ジョーたちは宇宙船「イシュメール号」に乗り込み、スターゲイトをくぐって、大宇宙を旅することに。恒星間航行の途中、ファンタリオン星の王女・タマラとジョーとの間にラブロマンスが生まれ、「003」ことフランソワーズをやきもきさせます。「004」ことハインリッヒの壮絶な自爆シーンも、劇場公開時に話題となりました。

 原作コミックとは異なる、オリジナルストーリーが大宇宙を舞台に展開されます。TVアニメの第2期『サイボーグ009』の続編というよりは、大ヒットした劇場アニメ『宇宙戦艦ヤマト』(1977年)や『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』(1978年)の影響を強く受けた、「スペースオペラ」だったと言えるでしょう。

(広告の後にも続きます)

野球をヒントにして生まれた9人の戦士たち

 数多くのヒット作を生み出した石ノ森章太郎氏は、東京都豊島区にあった木造アパート「トキワ荘」の出身者であることでも有名です。「マンガの神様」手塚治虫氏に憧れ、若き日の石ノ森章太郎氏は、宮城から上京。1956年に「トキワ荘」に入居し、赤塚不二夫氏、藤子不二雄(A)氏、藤子・F・不二雄氏らと切磋琢磨し、漫画家としての新人時代を過ごしました。

 サイボーグ戦士たちが9人構成となったのは、野球がヒントになっているそうです。仕事がないときは、「トキワ荘」のメンバーで仲良く草野球を楽しんでいたことが、映画『トキワ荘の青春』(1996年)などで描かれています。

 石ノ森氏は売れっ子漫画家になっても「トキワ荘」に残り、1962年まで暮らし続けました。仕事を休んで世界一周旅行を体験した石ノ森氏は「トキワ荘」に別れを告げ、1964年に結婚。その年から『サイボーグ009』の連載を始めます。プロの漫画家としての意識に目覚めた意欲作でした。

 個性豊かな『サイボーグ009』のキャラクターたちには、世界旅行の体験に加え、「トキワ荘」で過ごした青春時代への想いも託されているように感じられます。ジョーたちの父親代わりとなるギルモア博士は、「トキワ荘」メンバーの後見人的存在だった手塚治虫氏がモデルでしょうか。

 紅一点のフランソワーズは、若者が夢見る「理想の女性」像を思わせます。若くして亡くなった、石ノ森章太郎氏の姉・小野寺由恵さんをイメージしたキャラクターも、後述する『地底帝国ヨミ編』の最終話に登場します。『サイボーグ009』には、読者のイマジネーションを喚起してやまない魅力があります。

マンガ史に残る『地底帝国ヨミ編』の最終話



『サイボーグ009 地下帝国“ヨミ”編』(講談社)

 2023年に開催されたWBC (ワールド・ベースボール・クラシック)では、「侍ジャパン」が優勝し、大変な盛り上がりを見せました。日本人はチームプレイを尊ぶ競技が大好きです。『サイボーグ009』も異なる能力を持つ9人の戦士たちが、それぞれの能力をここぞという場面で発揮する様子がスリリングに描かれています。

 島村ジョーが天涯孤独の身であるように、9人の戦士たちはそれぞれ個人的な問題を抱え、サイボーグ化されて強靭な身体と人間離れした能力を手に入れても、その悩みを忘れることができません。人間くさいキャラクターばかりです。そんな9人は過酷な戦いを通して、家族以上に強い関係で結ばれています。

 石ノ森章太郎氏は1998年に60歳で亡くなり、『サイボーグ009』は未完のままで終わっています。ジョーたちが神々と戦う『天使編』の続きを、石ノ森氏自身の絵で見ることができなかったのは残念ですが、『地底帝国ヨミ編』の最終話「地上より永遠に」でマンガ史に残るフィナーレを一度描いているので、それで十分ではないかと思います。あれ以上に美しい終わり方は、不可能だったのではないでしょうか。

 夜空にきらめく流れ星に祈りを捧げる姉とその弟の姿を、『サイボーグ009』のファンは生涯忘れることができません。