よみがえった12人の黄金聖闘士が、北欧の「アスガルド」を舞台に、新たな戦いに身を投じる、アニメ『闘士星矢 黄金魂 -soul of gold-』キービジュアル (C)車田正美 / 聖闘士星矢 黄金魂」製作委員会

【画像】「不人気星座」のイメージを覆した! かに座とうお座の黄金聖闘士(6枚)

作中の振る舞いで評価を下げた、ふたりの黄金聖闘士

 1985年12月から「週刊少年ジャンプ」で連載がスタートした『聖闘士星矢』(作:車田正美)は、当時の少年少女、そしてちょっと年上の女性たちの心をわしづかみにした大ヒット作となりました。

 同作には数多くの人気キャラクターが登場しますが、「黄金十二宮編」に登場する、黄道十二星座を冠した黄金聖闘士(ゴールドセイント)たちは、主人公の星矢たち青銅聖闘士(ブロンズセイント)を圧倒する強さと存在感で強烈なインパクトをもたらしました。

 しかし黄金聖闘士たちは一枚岩ではなく、アテナに忠誠を尽くす者や役割に忠実な者、アテナを裏切り教皇につく者など、それぞれの価値観に応じた立ち振る舞いを見せていました。結果、すさまじい強さを見せた黄金聖闘士やカリスマ性の高い黄金聖闘士の人気は高く、教皇に付いた裏切り者の人気はとてつもなく低かったのです。

 そしてその人気は、読者である子供たちの日常に大きな影響を与えるようになりました。人気のない星座のもとに生まれた子供たちは、人気が高い星座のもとに生まれた子供たちにより虐げられることとなったのです。

 今では「星座カースト」と言われていますが、影響を最も受けたとされるのが、「かに座」と「うお座」です。第四の宮、巨蟹宮で待ち受けていたかに座のデスマスクは、龍星座の紫龍を圧倒し、黄金聖闘士としての力を見せつけます。さらには己が殺めた人びとの魂を自らの手で黄泉比良坂へと落とす冷酷無比な性格と精神力は紫龍すらも慄(おのの)かせますが、最終的にはかに座の聖衣(クロス)に見放され、紫龍に打ち倒されました。

 ここまでに登場していた黄金聖闘士は牡羊座のムウとおうし座のアルデバラン、そして謎めいた双子座でした。ムウは星矢たちを助ける存在で、アルデバランは役目に忠実な武人、双子座はまだ正体不明の状態だったため、デスマスクは完全な悪役として描写された最初の黄金聖闘士でした。

 しかも、次に登場した黄金聖闘士は洗脳されていたとはいえ星矢にとって良き先輩であり、聖闘士の鑑(かがみ)ともうたわれる獅子座のアイオリアです。アイオリアとデスマスクの対比が、蟹座の運命を決定づけたのではないでしょうか。

 かに座だった筆者の友人に当時のことを尋ねてみましたが「地獄だった」と、ひと言返ってきただけでした。



うお座のアフロディーテは黄金聖闘士随一の美貌の持ち主でもあった。画像はフィギュア「聖闘士聖衣神話EX 黄金聖闘士ピスケスアフロディーテ」(BANDAI SPIRITS)

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「次はどんな黄金聖闘士なのか」と一喜一憂

 ここからは、次はどんな黄金聖闘士が登場するのか、一喜一憂する日々が始まったことを覚えています。おとめ座は「最も神に近い男」シャカだったのでかなりの大当たり。天秤座はカミュによって凍らされた氷河を救出する展開だったのでカーストの対象外。

 さそり座のミロは、スカーレットニードルが滅茶苦茶カッコイイ上に氷河の死を賭した戦いぶりを見て教皇が裏切り者だと確信、己の血で白鳥座の聖衣を復活させるという、100点満点で120点と言っても過言ではない活躍ぶりを見せつけます。

 射手座のアイオロスは作者の車田正美先生が射手座ということもあり、非常にいい役どころだったため落とす要素はなかったように思えます。山羊座のシュラはエクスカリバーのカッコよさのみならず、当初は力が全てと考えていたはずが紫龍との激闘を経て改心し自らの命を捨てて紫龍を救い、エクスカリバーを受け継がせています。

 最初どうなることかとやきもきしていた山羊座の読者を安心させる見事な散り際でした(仲間ができると期待していたかに座にとっては残念な終わり方だったかもしれませんが)。

 水瓶座のカミュは、弟子の氷河が会得した自らの技、オーロラエクスキューションを受けて散っています。師匠が弟子に倒されるのは最高の終わり方と言えるでしょう。カースト的にも悪くありません。

 次のうお座もまともであってくれ。おそらく当時のうお座の読者は祈るような気持ちだったのではないでしょうか。しかしその祈りは届きませんでした。最後の宮・双魚宮を守っていたのは88星座のなかでも随一の美貌の持ち主と言われるアフロディーテ。力こそ正義という考え方の持ち主です。

 正直なところ、瞬との戦いぶりはそれほど悪くなかったように思いますが、星矢を毒バラの罠で倒したことや、教皇の所業を知りながら従っている人物だったため、うお座はかに座と並ぶ不人気星座となってしまったのです。星座カーストがほぼ確定した瞬間でした。

 かに座、うお座がどんなに目に遭ったのか。筆者の周りでは、「掃除当番の押しつけ」「帰り道でランドセル持ちをさせられる」「給食のプリンを奪われる」などの被害が出ていました。しかし色々な話を聞いてみると、酷いところでは身体的ないじめも発生しており、深刻な事態も起こっていたようです。

 21世紀に入り、「かに座」と「うお座」の黄金聖闘士の評価を一気に引き上げるエピソードが描かれました。2006年から連載され、『聖闘士星矢』の前時代の聖戦を描いた『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話』(原作:車田正美、作画:手代木史織)では、「かに座」と「うお座」それぞれの黄金聖闘士が正義の心や気高さを備えた人物として描かれ、冥王ハーデス陣営の強敵と死闘を繰り広げています。

 このことにより、かつて理不尽な目にあったことのある「かに座」「うお座」の方の心が少しでも救われる形になったら……と願わずにはいられません。