ジオン軍の地上用兵器が大量投下された「ジャブロー降下作戦」が描かれる『機動戦士ガンダムII 哀・戦士編』 (C)創通・サンライズ

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レビル脱走というジオンの誤算

『機動戦士ガンダム』は、作りこまれた設定と、数多く発表された作品群がお互いを補完する、大河ドラマ的な重厚さを持つ作品です。一年戦争の緒戦で「全人口の半数が死に絶える」ほどの悲惨な戦いが展開された結果、地球連邦とジオン公国は宇宙世紀0079年1月31日に「南極条約」という戦時条約を結びます。

 緒戦はジオン軍の圧勝であり、地球連邦軍は宇宙艦隊が壊滅状態となった上に、オーストラリア大陸にスペースコロニーが落とされ、天変地異で甚大な被害も受けていました。

 本来は「南極条約」締結が目的ではなく、地球連邦の降伏を前提とした外交交渉だったのですが、ジオン軍の捕虜となった連邦軍指揮官レビルが脱走し「ジオンに兵なし」の演説をしたことで流れが変わり、降伏ではなく戦時条約が結ばれることとなります。

 ジオン軍は連邦が降伏しないことを理解すると、方針を切り替えて「地球降下作戦」を実施します。ここで不思議なのは「もう一度スペースコロニーを落とす」作戦を行わなかったことです。一週間戦争とルウム戦役で、地球連邦の宇宙艦隊は壊滅しており、宇宙にある連邦軍の勢力は、宇宙要塞ルナツーだけでした。

 ルナツーに大した戦力がいないことは『機動戦士ガンダム』で、地球に向かうホワイトベースにろくな護衛艦艇を付けられないことで描写されています。ジオンが南極条約を結ばず、もう一度ジャブローにスペースコロニーを落としたなら、防げなかったはずです。

 もうひとつ不思議なのは、ジオンがあまりにも早く地上用戦力を実用化していることです。南極条約を結んだのは0079年1月31日ですが、陸戦用ザクの生産開始は開戦前の0078年9月、初めての水中用量産型モビルスーツ「ゴッグ」の生産は、南極条約から1か月後の0079年3月であり、0079年3月1日のジオン軍地球降下作戦にほぼ間に合っているのです。

 ジャブローにスペースコロニーを落とせば、地球連邦は降伏せざるを得ません。貴重な生産力・開発力を使うかどうかもわからない、地球降下作戦用兵器に割くのは、リソースの無駄のようにも感じられます。

 南極条約を結んでから、わずか1か月で、水中用モビルスーツを実用化したとは思えませんので、最初から「この戦争に必要」と考えていたということでしょう。

 ヒントは「ジオンの国力は連邦の1/30以下」というギレン総帥の台詞と考えます。当たり前のように認識されているこの台詞ですが、実は不思議な認識でもあります。

 宇宙世紀0050年に、地球連邦は新規スペースコロニーの建設を中止しているのですが、この際の人口は「サイド1、2、4、6が各10億人、サイド3と5が20億人、月面都市と小惑星で10億人、地球に20億人」という設定があります。

 宇宙世紀0058年に、ジオンは独立を宣言しますが、この時点の人口も大差なかったはずです。サイド3(ジオン)が20億人、連邦が90億人ですから、人口を国力と考えるなら連邦はジオンの4.4倍に過ぎません。

 ルウム戦役までの戦争で、サイド1、2、4、5が消滅しているので、この比率のままだと「連邦が20億以下(コロニー落としで減っているはずです)、ジオン20億、中立の月面都市その他とサイド6が各10億」であり、人口比は逆転します。

 一方、劇場版最終作『めぐりあい宇宙』では、ジオンの人口は1億5000万人とされています。つまり、宇宙世紀0059~0079年の20年間でジオンの人口は大幅に減ったわけです。

 これは連邦がジオンに行った「経済制裁」が、「『他のコロニーに移住すると、税制優遇が受けられる』など、サイド3から他サイドへの移民を強いる内容である」とか「ザビ家政権が反対派住民を粛清した(コロニーへの毒ガス注入など)」、「サイド3への直接攻撃を警戒して、親ジオンの月面都市グラナダなどに人口の一部を動かした」などで、サイド3に直接居住する人口が減ったということなのでしょう。

 加えて、経済制裁を受けている中、ジオンは地球連邦軍を打倒できる宇宙軍も作っていたのですから、国民生活は極度に窮乏したはずです。その結果として「ジオンの国力は連邦の1/30以下」になったのではないでしょうか。

 ジオンは開戦時に、同じスペースノイドが住む他のサイドを攻撃しますが、それが可能な精神的動機として「ジオンの理想を捨てて逃げた売国奴が、連邦に尻尾を振って逃げ込んだ場所だから」というのもあったのかもしれません。

 なおPS2ソフト『ジオニックフロント 機動戦士ガンダム0079』では、連邦もジオンもアナハイム製品に親しんでおり、ソフトウェアもほぼ同じという描写もあります。星一号作戦に至るまで、地球連邦はほぼ地球上の工業力で宇宙艦隊を建設していますから「地球上でしか生産できない重要工業部品」が相当数、存在した可能性もあります(実際、『機動戦士ガンダム0080』で、バーニィは撃墜されたジムの部品でザクを修理しています)。

 その上でジオンの国力や資源は本当に欠乏しており、地球を制圧しなければ兵器の生産も立ちいかないために、再度のコロニー落としやルナツー制圧よりも、地球制圧を優先せざるを得なかったのだと考えられます。

 なお、連邦が南極条約ではなく「降伏」した場合を想定しても、地球用兵器は必要だったと考えられます。人口が少ないジオンが、地球の要地を全て制圧することはできませんから、「地球連邦が再戦を挑めないような統治方法」を考えていたはずです。

 前提に南極条約がない以上、核兵器の開発・使用は可能ですから、「大都市のみ地上用モビルスーツが進駐」、「潜水艦隊+核兵器搭載水中用モビルスーツの組み合わせで、どんな主要都市でも核攻撃可能」とし、その抑止力で反乱を防ごうとしたのではないでしょうか。

 このような「歴史解釈」も『機動戦士ガンダム』の楽しみ方。皆様はどう思われますか。