『ゴブリンスレイヤー』に登場する定番モンスターのゴブリンは、RPGとは違って狡猾で残忍。男性は皆殺しにされ、女性は凌辱される禍々しい強敵である。(C)蝸牛くも・SBクリエイティブ/ゴブリンスレイヤー製作委員会

【画像】蹂躙される姿が… 1話からトラウマ必至な「鬱展開アニメ」たち(10枚)

見ているだけで苦しい、痛々しい!

 アニメの第1話といえば、主要キャラクターの最初の見せ場であり、華やかな展開を期待させるものです。けれども逆に、初手から鬱な展開を見せることで視聴者にトラウマを与えて、強烈な印象を残す作品もあります。ここではそんなインパクトの大きな鬱展開で始まる3作品を取り上げます。

『ゴブリンスレイヤー』

 ゴブリンはRPGなどで定番の雑魚モンスターですが、繁殖力や上位種の多様さから、駆け出し冒険者にとっては侮れる存在ではありません。『ゴブリンスレイヤー』はそんなゴブリンのみを専門に狩り続ける冒険者“ゴブリンスレイヤー”の活躍を描く作品です。

 普通のファンタジー作品では序盤に狩られる敵モンスターのゴブリンですが、本作では狡猾かつ残忍な一面で人間たちを苦しめます。第1話は女神官が新人同士で初めてパーティを組んで、ゴブリン退治に出立します。すると暗い洞窟で奇襲をかけられてしまいます。

 女性の魔術師が腹に一撃を受けて致命傷を食らい、男性の剣士はいっせいに飛びかかられて、滅多刺しにされてしまいます。そして女性の格闘家は……ゴブリンたちの蹂躙に遭ってしまいます。最後に残った女神官もあわや貞操の危機……というところで、ゴブリンスレイヤーに助けられます。ですが、恐怖のあまり失禁してしまう───惨めで痛々しいパーティの全滅を、これでもかと描いた第1話が、視聴者にもトラウマを植えつけました。

 ゲームでは雑魚モンスターでも、リアルに「知能を持った敵と戦うとは?」をシミュレーションすることで、凄惨な結果をまざまざと見せつける本作。ゴブリンスレイヤー自身も、ゴブリンと同じくらい非道な手段で戦う壮絶なバトルシーンが『ゴブリンスレイヤー』の魅力です。序盤の悲惨さに目を背けずに、最後まで見届けてほしいです。



ポップな絵なのにエログロ満載……いや、絵がマイルドだから許される? 放送コードの限界ギリギリを攻めた意欲作『平穏世代の韋駄天達』 (C)天原・クール教信者・白泉社/「平穏世代の韋駄天達」製作委員会

『平穏世代の韋駄天達』

 人間そっくりの見た目ながら、中身は特殊能力を備えた思念体「韋駄天」(いだてん)。そんな韋駄天たちが魔族と戦うバトルアクションアニメが『平穏世代の韋駄天達』です。原作者はファンタジー世界で風俗レビューをする大胆なコンセプト作品『異種族レビュアーズ』の天原さん。作画は『小林さんちのメイドラゴン』のクール教信者さん。

 両者の代表作を知っていると、『平穏世代の韋駄天達』の内容に驚くかもしれません。クール教信者さんのポップで可愛らしい絵柄はそのままに、媚薬で女性が大変なことになったり、手足をバラバラにされて生きたまま解剖されたり、ぶっ飛んだエログロが展開される問題作だったのです。

 第1話の冒頭、弟子を折檻する女師匠がマウントを取ってボコると、周囲は血まみれになります。この段階では「流血が多いギャグアニメなのかな?」と誤解していました。ところが第1話のラストにて、敬虔な美人のシスターが多数の兵士たちに乱暴されてしまうのです。兵士たちは、軽やかなオーケストラ曲に合わせて踊るように身体を動かしています。明るい画面作りだけに、シスターの境遇の悲惨さが際立つという、アンビバレンツな演出手法。シスターは天井を見上げて身体を揺すられながら、「神様……どうか、どうか我々を、お救いください……」か細い声がいつまでも耳に残る、なんとも憂鬱な気持ちにさせる第1話のラストシーンでした。

 ですが『平穏世代の韋駄天達』はエロ・グロ・ナンセンスだけではありません。例えば最終回で、女性の着替えを覗く数秒のワンカットが出てきます。ただのサービスシーンかと思いきや、これがあとで伏線として繋がってくるのです。こうした『HUNTER×HUNTER』の頭脳戦にも通じる駆け引きや読み合いも、本作の魅力となっています。

 今期アニメの話題作『チェンソーマン』と同じMAPPA制作ということで、血しぶきが飛び散る熱いバトル描写は『平穏世代の韋駄天達』でも共通しています。人を選ぶことは間違いありません。ですが最終回まで見たアニメファンに爪痕を残す、そんな忘れられないアニメになっています。



きらびやかなイメージの「魔法少女」アニメだからこそ鬱展開が映える。不幸な少女しか魔法少女になれない『魔法少女サイト』 (C)佐藤健太郎(秋田書店)/「魔法少女サイト」製作委員会

『魔法少女サイト』

 不幸に見舞われている少女に魔法のステッキを与える謎のサイト。力を手にした少女たちは、否が応でも魔法少女としての運命に立ち向かうことになる『魔法少女サイト』も、冒頭から目を背けたくなるキツいストーリーが繰り広げられます。

 主人公の朝霧彩(あさぎり・あや)は、自殺を考えるくらい追い詰められている不幸少女です。クラスメイトからの酷いイジメ、家に帰っても兄のストレス発散相手として虐待を受けています。さらに可愛がっていた野良猫を殺されて、先輩男子から乱暴されそうになり……まだ第1話の中盤なのに、エグい描写のオンパレードです。

 しかし、ここで魔法のステッキが偶発的に発動! その結果、イジメていた女子と先輩男子が電車にひかれて死亡します。他のイジメ相手もカッターで首を切られて重体になる「ざまぁ」展開。

 最初の残酷描写がキツすぎて、離脱してしまった視聴者もいるかもしれません。ですが中身はまっとうな魔法少女ものです。敵対する者たちの悪意を跳ねのけ、逆転劇で勝利することで成長していく、そんな彩に心打たれます。スパイスが露悪的で人を選ぶ作品だとは思いますが、「艱難辛苦の果てに救われる」王道ストーリーに仕上がっています。

『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦さんは、創作論で「物語は常にプラスの方向に向かっていく。だから読者は読んでいて楽しい」と話されています。 最初に大きなマイナスから入る物語だからこそ、だんだん右肩上がりに盛り上がっていく、辛い目に遭った人物が救われる、キャラクターたちの成長が気持ちいい……鬱展開から始まる作品は、そんなカタルシスがより強く得られるのではないでしょうか。