『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』(画像は移植版) (C) 1988, 2019 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SPIKE CHUNSOFT/SQUARE ENIX All Rights Reserved.(C) SUGIYAMA KOBO

【画像】「あぶないみずぎ」のイラストにゴクリ…『ドラゴンクエスト』の気になるビジュアルが明かされた本(4枚)

「エッチなしたぎ」「あぶないみずぎ」が見たかった小学生たち

『ドラゴンクエスト』の世界観を理解する上で「攻略本」が果たした役割は大きいものでした。仲間たちやモンスターなど鳥山明さんがデザインした「ドラクエ」キャラたちはゲームをプレイすれば登場しましたが、武器や防具といったものは『ドラゴンクエストVII』に至るまで基本的に「文字情報」でしかなく「ひのきのぼう」ですら、基本的にはプレイヤーの頭の中にしか存在しないものでした。それをぐっとイメージしやすくしてくれたのが公式ガイドブックをはじめとする攻略本の数々でした。

 まず最も有名な装備のひとつ「あぶないみずぎ」。『III』では装備すると実際にキャラのグラフィックが変更されたわけですが、これもあくまでもドット絵上のこと。少年心をいたずらに弄(もてあそ)んだかのように思えましたが、『III』の公式ガイドブックでは女賢者が装備したイラストが添えられており、「あぶないみずぎ」がどのように「あぶない」のか、ようやく合点がいったのです。

 さらに『V』と『VI』で「エッチなしたぎ」という直接的なネーミングのものが登場。下着の時点で「エッチ」とばかり思っていた少年少女からすれば、想像も難しい装備品でした。こちらも公式ガイドブックではわかりやすくイラストが描かれており、例えば『V』のものであれば、ガーターベルトのようなものと組み合わさった黒い下着を装着したビアンカが、横たわりこちらに笑顔を向けています。とはいえ、これがなにゆえに「エッチ」と称されるのかを理解するにはある程度の年齢が必要だったかもしれません。なおすぐ上には「鉄の胸当」を装着している凛々しいパパスのイラストもあり、妙な気分にさせてくれました。

●もうひとりの「鳥山明」? グラフィックにおける超重要人物
「ひのきのぼう」に限らず、大抵のドラクエ武器の形状を私たちは「公式ガイドブック」で知ることになりました。例えば「ロトの剣」「天空の剣」など伝説の武器のデザインは非常に美しく、「これを装備しているんだ!」という実感を補強してくれました。

 こうした武器のビジュアルは全て開発段階で決まっていたかといえば、違います。『ドラクエ』武器と防具、道具のデザインは元ガイナックス(当時は前身のゼネラルプロダクツ)の玉谷純さんが手がけたもの。こちらは2020年にご自身のTwitterで公開され、「そうだったの!?」と大きな反響を呼びました。

 その証言によれば「ロトの剣」や「天空系装備」のデザインをはじめ「キメラの翼」「いのちのきのみ」といった定番アイテム、さらには「最後の鍵」など重要アイテムのビジュアルデザインも担当されていたのです(ガイドブックで実際にイラストを仕上げたのは別の方)。

 特に「ロトの剣」は鳥山明さんも描かれておらず、情報はまるでなし。ネットのない時代、西洋の剣の資料をかき集めるところからデザインを開始。結果としてあの美しいフォルムが完成するのだから、驚きです。

 つまり『ドラクエ』シリーズにおける「キャラクター」を鳥山明さんが創造されたのであれば「アイテム」は玉谷純さんが創造。『ドラクエ』世界観の構築において玉谷純さんが果たされた功績はとんでもなく大きいと言えるでしょう。

「エッチなしたぎ」から「ロトの剣」まで、少年少女たちの「この目で見たい」という欲求に対し、丁寧に応えてくれた「公式ガイドブック」。今では攻略本カルチャー自体がなくなりつつありますが、「史料」として残って欲しい限りです。