ジオンのコロニーレーザーによる大量破壊が描かれる42話「宇宙要塞ア・バオア・クー」を収録した、『機動戦士ガンダム』DVD11巻(バンダイビジュアル)

【画像】残虐! 「コロニー」を武器にしがちなガンダムの敵勢力(5枚)

ジャブローを直接攻撃したらいいのに…

『機動戦士ガンダム』は、作りこまれた設定と、数多く発表された作品群がお互いを補完する、大河ドラマ的な重厚さを持つ作品です。劇中では地球に住む「アースノイド」と宇宙に住む「スペースノイド」の対立が描かれていますが、そのスペースノイドの多くが居住するのが「スペースコロニー」です。

『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』のおまけアニメ「宇宙世紀余話」では、全長42km、直径6.4kmの円筒のなかに、3000万人が暮らしているとされています。

 これは資料によって相当異なり、マンガ『機動戦士ガンダム ギレン暗殺計画』では1000万人、アニメ『機動戦士ガンダムZZ』では大型コロニーで4000万人居住とのことです。本編のナレーションでは「円筒形の直径は6kmあまり、長さにいたっては30km以上ある」とされていますので、サイズや居住人数はまちまちだったのでしょう。

 この数十kmあるコロニーを、巨大なレーザー砲に改装したのが「ソーラ・レイ」です。直径が6.5kmある、サイド3の3バンチコロニー「マハル」を改造したもので、連邦軍艦隊の3割を消滅させるなど、絶大な威力があります。

 こんな兵器が作れるなら、連邦の打倒は容易なのではないかと思えます。コロニーを落とさずとも、ソーラ・レイで連邦軍総本部ジャブローを狙撃すれば、大気で多少威力が減っても、大損害を与えられるのではないでしょうか。

 つまり「多数作れない」「簡単に使えない」理由があるということです。ソーラ・レイの発射には、サイド3のほぼ全ての太陽電池を数時間使用する必要があります。また、臨界透過膜と偏光ミラーが実用試作段階のものしかないため一度しか使えません。照射後の冷却にも最低1週間を要するそうです。

 スペースコロニーの生命活動や工業生産を維持するために、電力供給は不可欠ですが「ほぼ全ての電力」を消費することは、相当な不都合が生じるのだと思われます。

 こうした兵器であれば「多数作って」も、どうせ1基しか使えませんので、作る意味がありません。また、威力は絶大ですが、移動は極めて難しいため、決められた照準を敵が通過する時しか使えません。サイド3は月の裏側に位置しますから、位置関係として、地球を直接照準できるポイントがなかったのだと思われます。

 またソーラ・レイは、レーザー砲に転用したコロニーに住んでいる住人を、他に移住させねば、製作できません(開戦時に壊滅させた他サイドのコロニーを移動するのは、手間がかかり過ぎるのでしょう)。

 前述したように、ひとつのコロニーには3000万人住んでいるとされています。「コロニー1基を1番バンチと数え、ひとつのサイドには36~40のコロニーが存在しており、ひとつのサイドの人口は13億人程度」という初期設定もあります。この場合、ひとつのコロニーには3250~3611万人が居住していることになります。

 なお「一週間戦争で総人口の25%の30億人が死亡した」との設定がありますから、1年戦争開戦前の総人口は120億人。地球の人口が20億人のようですから、月面都市とスペースコロニーに計100億人が住んでいることになります。

 月面都市に10億人が住んでいるとして、残りの90億人を7つのサイドに割り振ると、約13億人程度で上記の初期設定と一致しますので、各サイドには40基程度のコロニーが存在しているのでしょう(サイド7は建造中なので、もっと少ないでしょうが)。

 なお、劇場用アニメ『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』では「サイド3の人口は1億5000万人」とされていますが、ひとつのコロニーに3000万人が暮らしているなら、サイド3は5基しかコロニーが存在しないことになります。劇中描写を見ても、サイド3のコロニーはもう少し存在していますので、この「1億5000万人」は何らかの理由で減少した後なのでしょう。

 サイド3とサイド5は人口20億人という資料も存在し、資料間の乖離が大きいので悩ましいですが、つじつまを合わせるなら「開戦前にギレンの独裁政治を嫌ったサイド3の民衆が、他のサイドに移住した(これなら、開戦時に他のサイドを攻撃する理由が理解できます)」「ギレンが自身への反対者を自国民でも抹殺していた」のかもしれません。

 もしくは「地球連邦軍の報復攻撃で、一部のコロニーが被害を出した」でしょうか。コロニーは目標として巨大ですし、動きませんので、サイド3を核ミサイルや核パルスエンジンを装備した隕石などで、遠距離から攻撃することは可能でしょう(ソーラ・システムもそのような目的で開発され、ソロモン戦で使われたのかもしれません)。そうした報復被害もあって、ジオンが「大量破壊兵器を禁止した」(国力の少ないジオンにはメリットがない)南極条約に同意したという解釈もできるかもしれません。

 もしくは「報復攻撃や軍事機密流出を警戒して、親ジオン派の月面都市に人口の一部を移住させ、コロニーを軍事生産に特化させた」という解釈も成立するでしょう。なんであれ、3000万人もの人口を急に移動させるのは難しく、ソーラ・レイが強力であっても「あれ以上は作れない」兵器だったのでしょう。

 1年戦争後は南極条約の「大量破壊兵器の使用禁止」に抵触する(ソーラ・レイ自体が南極条約違反の疑いが濃厚ですが)ので、条約を軽視するティターンズしか、ソーラ・レイのような兵器は製造しなかったのだと思われます。