劇場版『機動戦士ガンダム III めぐりあい宇宙編』DVD(バンダイビジュアル) (C)創通・サンライズ

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スペースコロニーの不思議

『ガンダム』の世界観を印象づけるSF設定といえば、地球と月の間に浮かぶ円筒形の巨大施設「スペースコロニー」です。これはもともと、1969年にアメリカの学者によって構想、提唱されたもので、現在においても実在はしません。それでも科学的な研究から考えられているため、宇宙開発に興味のある人々の間では有名です。

 考証では、この施設の長さは30km、直径が6kmの円筒形で、人工重力を作り出すために、およそ2分間で1回転します。理科の話しになりますが、水を入れたバケツを持った腕をぐるぐると振り回しても、なかの水がこぼれないと同じ理屈で、この回転によって内側の面に立っている人や建物、車などは浮き上がることなく過ごせるとされています。その回転する筒の内側面の速度は、ざっと計算すると時速600km/h強。音速の半分ほどのスピードです。

地上と変わらない生活が出来るのはなぜ?

 こう聞くと「こんな速さでぐるぐる回ったら、中にいる人は目が回らないのか?」なんて思われそうですが、そんなことにはならないといわれています。

 例えば地球の自転速度は日本の緯度ではおよそ1500km/h。でも、地面がその速度で回っていても、夜空の月はゆっくり移動します。これは地球がとても大きく、月が遠くにあるからです。現在の旅客機は、時速800~900km/hで飛んでいますが、巡航高度である10000mから地上を見ていても、その景色もゆっくりと動くだけです。コロニーの円筒には光を取り入れるための大きな「窓」のようなものがありますが、宇宙は広大なため、外の風景が動くスピードも同じようにゆっくりになります。

 それに、電車や飛行機でも、巡航している時には体が前後に引っ張られたりはしないのと同じで、突然回転スピードが変わらなければ、足下もぴたりと静止しているように感じるので、地球上の地面の感覚と変わらないでしょう。

 ただし、外部から異なったスピードで近寄れば話しは別です。円筒の表面は新幹線の2~3倍の速度で動いていますから、『ガンダム』の1話のザクのように着地するのはとても大変でしょう。さらに、太陽光線を取り入れるために開いているミラーの速度はもっと早いことになります。

 例えば『機動戦士ガンダムF91』で設定されたスペースコロニーの場合、全長は40km。ミラーの取り付け部の位置等の細かい設定もプラスされますが、計算してみるとミラー先端の時速は4963.3km/h。1秒間に1378m、なんと音速の4倍を超える速さで動くことになります。もし戦闘中のモビルスーツがこのミラーにぶつかったりしたら、とんでもないことになりそうですね。

『ガンダム』の画面で描かれたシーンのすべてが、こうした細かな計算の元で作られているわけではありませんが、それまでのアニメではあまり重要視されていなかった科学的な考証に基づいた場面が出てくるあたりも、当時のSFファンから好評を得た理由でもあるのでしょう。

 ちなみに「コロニー」とは、もともとは「生き物が集団になっている状態」や「居留区」転じて「植民地」などのことを指します。ですから筒状施設の一本一本は、本来「宇宙島」「セツルメント」などと呼ばれ、それが同じ宙域に複数浮いているものが「スペースコロニー」という事になります。この「セツルメント」の本来の意味も、厳密には私たちが抱いているガンダム世界のものとは少し異なりますが、英語圏ではこれが通称のようで、1999年に、ガンダム20周年記念の一環としてハリウッドで製作されたTVスペシャル『G-SAVIOUR』では、この「セツルメント」という呼称が使われています。

【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規所属にて『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。