2019年のコミックス部門1位獲得作『薬屋のひとりごと』はアニメ化してほしい作品としてたびたび名前が上がる人気作。画像は単行本1巻(スクウェア・エニックス)

【ギャラリー】思った以上に豪華ラインナップ!「次にくるマンガ大賞」殿堂入りのアニメ化作品たち!(13枚)

「次に来る」映像化作品は?

 2014年からniconicoとダ・ヴィンチが共同開催している「次にくるマンガ大賞」は、すでに売れているマンガではなく「次に流行るであろうマンガ」の発掘・紹介を目指し創設されました。一度トップ3に入った作品は「殿堂入り」として次回候補からは外れますが、殿堂入り作品のなかには「映像化」が実現しているものも少なくありません。

 実際、第1回殿堂入り作品(コミックス部門とWeb漫画部門のトップ3×2の計6作品)のうち、5作品が映像化(アニメ化、実写化)されており、映像化=ブレイクと単純に考えるとかなりの的中率です。一般ユーザーの投票で決まる賞のため、世相を強く反映していると考えられます。

 今回は過去の殿堂入り作品の傾向と、殿堂入りしながらまだアニメ化がアナウンスされていないマンガから、「次こそ映像化されそう」な作品を紹介します。なお、次にくるマンガ大賞の最新は2022年ですが、同年は連載開始からまだ日が浅い作品ばかりだったため、アニメ化発表済みのものはありません。

コミックス部門の傾向

 次にくるマンガ大賞はコミックス部門とWebマンガ部門がありますが、双方で傾向が異なります。まず、コミックス部門の傾向をざっと考察してみると、

「バトル、ファンタジー、青春、ラブコメなど王道のフィクションが強い」

 という傾向が見られます。基本的に大衆文化に根差したマンガは、やはり王道モノが強い印象です。第1回受賞作が象徴的で、1位は少年マンガの王道・バトル系の『僕のヒーローアカデミア』(作:堀越耕平)、2位は王道ファンタジーの『魔法使いの嫁』(作:ヤマザキコレ)。3位に入ったユルいギャグマンガ『磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~』(作:仲間りょう)のみが異彩を放っています。

 一般読者とひと口に言っても、その好みはなかなか複雑なようで、2021年の『推しの子』(原作:赤坂アカ 作画:横槍メンゴ)のように、エッジのきいた作品が1位になることもあります(『推しの子』はアニメ化も決定済み)が、映像化された殿堂入り作品は基本的に「王道」が多い印象です。

 そして、やはり発行部数業界トップを誇る「週刊少年ジャンプ」作品はここでも強く、2021年を除き毎年1作品以上殿堂入りを果たしています。最新の2022年も2位『ウィッチウォッチ』(作:篠原健太)と3位『あかね噺』(原作:末永裕樹 作画:馬上鷹将)がジャンプ連載作品です。全8回のコミックス部門殿堂入り作品24作品中、三分の一以上にあたる9作品がジャンプ作品と、やはりジャンプブランドは伊達ではありません。

 さて、以上の傾向を見ると映像化のアナウンスすらないのが不可解で仕方ないのが、第2回で1位を獲得した『背すじをピン!と〜鹿高競技ダンス部へようこそ〜』(作:横田卓馬)です。

 堂々のジャンプ作品であり、高校生が主人公の青春もので王道と言えるでしょう。競技ダンスはマンガの素材として珍しいですが、同じく競技ダンスを扱った『ボールルームへようこそ』(作:竹内友)、バレエを題材にした『ダンス・ダンス・ダンスール』(作:ジョージ朝倉)はアニメ化されており、制作側としてもリスクの高い企画には思えません。入れ替わりの激しいジャンプで連載も2年近く続いたため、映像化するうえでボリュームも問題ないはずです。絵柄もかわいらしく親しみやすいため、いずれ映像化されるのではないでしょうか。



Webマンガ部門第5回の1位であり、まぎれもない大出世作『SPY×FAMILY』アニメビジュアル (C)遠藤達哉/集英社・SPY×FAMILY製作委員会

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我が道を行くWebマンガ部門、しかし王道はやはり人気?

 また、世評も高く、筆者も個人的に面白いと思っているのが2019年の1位『薬屋のひとりごと』(原作:日向夏、作画:ねこクラゲ、構成:七緒一綺)です。原作は「小説家になろう」発でありながら、いわゆる「なろう系」のテンプレである異世界転生もチート能力も出てきません。主人公が薬師としての知識を駆使して事件を解決する異色で意欲的な作品で、中華風の世界観のファンタジーながら、医療ミステリーのようなテイストもあります。

 過去に医療ミステリーマンガがアニメ化された例は多くないですが、『インハンド』(作:朱戸アオ)、『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見』(原作:草水敏・漫画:恵三朗)などが実写化されており、ありえないということはないでしょう。「アニメ化して欲しい作品」としてたびたびネットでも名前があがっていることから、こちらも「次に来る」可能性は高いと思います。

Webマンガ部門の傾向

 続いて、Webマンガ部門の過去受賞作を見てみましょう。

 Webマンガ部門はエッセイや日常モノ、恋愛モノなど現実的な作品が多い印象です。代表的なところだと第1回の2位を獲得した『ウッドブック』(作:鴻池剛)、第2回の2位『腐女子のつづ井さん』(作:つづ井)はエッセイマンガで双方とも未映像化です。ちなみに、アニメ・実写になった第1回の1位獲得作『ヲタクに恋は難しい』(作:ふじた)はヲタクの日常を絡めた恋愛コメディであり、以降の受賞作の傾向に近い、いかにもWebマンガ部門らしい作品でした。

 最新(2022年)1位の『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』(作:地主)も、タイトルそのままの日常ものです。こういった作品が多くランクインするのは、コミックス部門にはあまり見られないWebマンガ部門特有の傾向です。

 逆にバトルもあるフィクション度の高い作品はWebマンガ部門では少ないのですが、『SPY×FAMILY』(作:遠藤達哉 2019年の1位)や、『怪獣8号』(作:松本直也 2021年の1位)など映像化される確率は高いです。やはり王道ジャンルが強いのは変わりません。

「少年ジャンプ+」がサービスを開始したのが2014年9月、そして同年の10月に「次にくるマンガ大賞」が創設されています。「ジャンプ+」オリジナル作品がトップ3に初めて入ったのは第3回(2017年)ですが、翌年はトップ3内作品ゼロでした。ところが2019年に『SPY×FAMILY』が1位を獲得すると、以降は4年連続でトップ3に作品を送り出しており、特に21年、22年は連続で2作品がランクインしています。4年間(2019~2022)のWebコミック部門トップ3獲得作品12作品中、なんと半分の6作品が「ジャンプ+」オリジナルです。

 そして、「ジャンプ+」作品のなかで世評からも「次に来そう」なのが、2021年に2位を獲得した『ダンダダン』(作:龍幸伸)です。看板作品として地位を確立している『ダンダダン』は、SFとオカルトとバトルと青春ラブコメが融合したジャンル分け不可能な怪作で、Webマンガ部門に多い日常もの受賞作とは真逆の、バリバリのフィクション。『怪獣8号』のアニメ化が待機中の今、『ダンダダン』のアニメ化はもはや順番待ちと言ってもいいのではないでしょうか。

 もちろん、「次にくるマンガ大賞」殿堂入り作以外にも人気マンガは多数あり、競争は激しいのが現状です。今回取り上げた作品たちが、いずれアニメ化されるのを気長に待ちたいと思います。

※本文の一部を修正しました。(2022年9月30日 23:50)