ファミコン版『ファイナルファンタジーIII』(スクウェア)

【動画】胸にしみる…『FF』の名曲

『FF』のほとんどの曲を手がける天才・植松伸夫

「ファイナルファンタジー」シリーズの音楽はどなたが担当されていらっしゃるのでしょうか。「ドラゴンクエスト」シリーズの音楽であれば2021年9月30日に亡くなられたすぎやまこういちさんが担当されていたということは「ドラクエ」未プレイでも多くの人が知っていることでしょう。ところが、「FF」の作曲担当となると即答できないという方も案外多いはず。

 ということで、この記事では2023年春には『FFX』の歌舞伎上演も決まっている超国民的RPG「ファイナルファンタジー」シリーズにおいて、数々の名曲を世に放ちプレイする者を号泣させてきた偉大なる作曲家について改めて学んでいきたいと思います。

 まずはお名前から。シリーズのほとんどの楽曲の作曲を手掛けているのは植松伸夫(うえまつ・のぶお)さんという方です。字面を見たら「あの人か!」とピンときた方も多いかもしれません。メディア出演の機会も比較的多く、ゲーム音楽史における超重要人物です。

 経歴を簡単におさらいします。植松さんは1959年高知県高知市生まれ。音楽好きが高じて大学卒業後はCM音楽制作を経て、1986年28歳の時に株式会社スクウェア(現:スクウェア・エニックス)へ入社。『ファイナルファンタジー』の楽曲制作に最初期より携わり、名曲を量産。1999年度の第14回日本ゴールドディスク大賞では「ソング・オブ・ザ・イヤー(洋楽部門)」を受賞。また2001年5月アメリカ「Time」誌において音楽の革新者として紹介されます。ゲーム作品では他に『クロノ・トリガー』『半熟英雄』『グランブルーファンタジー』と誰もが知るビッグタイトルの音楽も担当。時に「ゲーム音楽界のベートーべン」と紹介されることもある世界が認めた大巨匠です。

 そんな植松さんですが、最初からゲーム音楽に興味があったわけではありません。友人らと芸術論を夜な夜な語り合っていた20代の頃、たまたま知人女性から「ゲームを作っているのでバイトしないか」と誘われたのが、スクウェアとの出会いでした。当時のスクウェアは企業として大きなヒットもない状態で、気付けば経営危機に。起死回生の一手として、そして最後の夢として制作された『ファイナルファンタジー』が見事大ヒット。当時、植松さんの周囲はすでに職探しを始めていたというのですから、もしこのヒットがなければゲーム音楽界のベートーベンは生まれなかったといえます。



美しく生まれ変わった『ファイナルファンタジーIIIピクセルリマスター』画像はスマートフォン版 (C)1990, 2021 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. (C)LOGO & IMAGE ILLUSTRATION: (C) 1990, 2006 YOSHITAKA AMANO

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メロディラインの美しさの秘訣は「3音縛り」にあった?

 植松さんの音楽は、なんといっても体の奥底にまで染み入るような切なくも美しい旋律が特徴です。「ファイナルファンタジー」シリーズといえば今でこそ美麗なグラフィックでおなじみですが、初期の頃の単純なドット絵。それでも植松さんの音楽がかかれば物語の没入感がケタ違いに跳ね上がるのです。
 そんな植松さんの楽曲の多くにアルペジオの手法(音を低い方から1音ずつ弾くもの)が用いられています。例えば『ファイナルファンタジー』のオープニング画面で流れる「プレリュード」はその代表例といえるでしょう。ただし、植松さんが得意とするこれらのアルペジオはもともと3和音しか使えなかった制作環境のしばりによるものが大きかったのです。スクウェアとの出会い、そして代表曲の誕生、それぞれが「ひょんなこと」から生まれたのだから驚きです。

 その後、植松さんのご活躍は前述の通り。2004年にスクウェア・エニックスを退社すると、ご自身の会社を設立。世界をまたにかけてオーケストラコンサートなど精力的に活動しています。次はどんな世界に連れていってくれるのか、楽しみです。