『行け!稲中卓球部』最終巻となる13巻(講談社)

伊沢も「アリ」? 『稲中卓球部』前野の「結婚相手?」候補たち(4枚)

「岩下?」「井沢?」それとも「後ろ姿の女性?」 最後に読者が見出す希望

「この中に将来 前野と結婚をする人間がいます さて誰でしょう」

 青春ギャグ漫画の金字塔である『行け!稲中卓球部』(著:古谷実)。その最終13巻に収録されている「その155 中天」のラストで突如として上のような「問題」が読者に投げかけられました。この問題に関しては1996年に「ヤングマガジン」に同話が掲載されて四半世紀が経過した現在もなお解けぬ「平成マンガ史最大のモヤモヤ案件」として語り継がれていたり、普通に今の今まで忘れ去られたりしてきました。

「その155 中天」は最終話直前のエピソードであり、主人公の前野が自分の将来の結婚相手に想いを馳せ、なんだかんだあって来世が「腸炎ビブリオ(塩好き)」に決定したりする、ある意味平常運転のお話。だからこそ突然の作者・古谷実氏からの出題に読者は困惑しました。

 問題のコマを改めて見てみましょう。河川敷にほぼ全裸で佇む前野と井沢、田中。その後ろには竹田と岩下京子、ホームレスのような男性、そして犬の散歩中の女性の後ろ姿。どうやらこのなかに「前野の結婚相手」がいるようなのですが……令和の現在も決定的な「「答え」は出ずじまい。ネットでは天敵であるはずの岩下京子説を推す声や、ソウルメイトにもほどがある井沢との同性婚説を推す声、後ろの女性であろうと不時着する声などが散見されます。

 個人的な見解ですが、わざわざ「結婚する人」ではなく「人間」と強調していることから、散歩中の「犬」が実は人間であり、第9巻に収録された読み切り『800HAPPYAKU』に登場した豚人間「ケンジ」が女性の体を手に入れた後に騙し結婚した相手こそ前野だったのではないか……などの説を真剣に考えている時期がありました。しかしよく見れば「ケンジ」の尻尾は豚と同じく丸まっており、件の犬のものとはまるで違いました。「人間」と強調していたのは作中で結婚相手が人間ではない可能性について言及されていたからに過ぎません。

 さて、大前提として「あの前野でも結婚できるのか」という『稲中』でしか表現し得ない「希望」を描いていることは要注目です。その次の話では妄想ながら前野の息子・春彦も登場します。もしかしたら、余りにも心配な前野たちのその後の姿を作者なりに、優しく読者に託したかったのかもしれません。豚人間「ケンジ」がどうのこうのと勘ぐっている場合ではなかったことは確かです。